205.思わぬ手助け
セバクターと名乗った男は、そのままじりじりとロングソードを構えながら3人に近づいて来る。
出来れば何とかして戦わずに目的のドアに辿り着きたいのだが、他国の騎士団員と名乗るだけあってなかなか隙が見つけられない。
(只者では無いみたいだな……くっそ!)
だが対峙して膠着状態が2~3分続いていると、段々そのセバクターと名乗った男の様子がおかしくなって来た。
「ぐっ……!?」
苦痛に顔を歪めて、少しずつ前屈みになって立ち眩みを起こし始めるセバクター。
3人の方は一切手出しをしていないので、そのセバクターの状態変化に対して何が起こっているのか分からない。
「お、おい……どうした……?」
「くっ……き、貴様等……俺に何をした!?」
「いや、何もしてないわよ?」
しかし、セバクターの苦しみは強くなる一方である。
「嘘をつくんじゃない!! ……だ、だったら、何で俺の魔力が無くなって行くんだ……!?」
「えっ?」
魔力が無くなる、と言うセバクターのセリフに賢吾がポケットから「あの」宝石を取り出す。
「この宝石の輝きが強くなっていると言う事は、まさか……」
「くそ……ぐっ!」
そしてセバクターは意識を失って、ロングソードも手から落としてドサリと地面にうつ伏せに倒れ込む。
その原因不明の体調不良の答えは、賢吾が今まさにその右手の中に持っている吸魔石である。
2つ目の目的地であるあの砦であの中年の茶髪の男に出会った後、自分達のスマートフォンや吸魔石が入った荷物もその砦の中で回収していたからこそ助かった。
「な、何だかとてもラッキーだけどとにかく助かったよ。これで俺達は戦わずに済んだ訳だから、後は何とかしてここから脱出する方法を探さなければな」
吸魔石の影響を受けない様に賢吾と美智子から少し離れて行動していたエリアスの発したその言葉に、他の2人も頷いてドアに向かう。
まずはこの城の何処かに居るであろうイルダーを見つけて、それから城を脱出しなければならない。
が、元々王城でしかもセキュリティの為に複雑に設計されたまるで迷路の様な場所であるからこそ一筋縄では行かないかも知れない。
だがもしかしたら、意外とすんなり脱出できるのかも知れない。
3人は後者の望みを強く持って、先程まずはイルダーの奪還を目指す事にした。
だが、その時また再び謎の現象が3人にやって来た。
『そのままそのドアを開けて、右の方に進みなさい。その先に大きな扉があるからそこを開けてまっすぐ進んで来て』
「えっ?」
「だ、誰だ!?」
「女の人……?」
突然3人の元に謎の声……それも女の声が聞こえて来た。
その声を聞いた3人のリアクションに対して、また声が指示を出す。
『言う通りにしてくれれば、貴方達が求めている人間と再会出来るわ』
「だ、誰なのよ!?」
美智子が叫び、他の2人も中庭を見渡すが自分達以外には誰の姿も見当たらない。
そこで、賢吾がこんな質問を謎の声に対してぶつけてみる。
「その人間って言うのはどんな容姿をしている?」
『銀髪の若い男よ。腰に剣をぶら下げているわ』
「……イルダーの格好と一致するわね」
半信半疑だが何も手掛かりが無いよりはマシだと考えて、とりあえずその声に従って進む3人。
まるでカーナビの音声案内みたいだなと思いながら進むと、やがて言う通り1つの扉の前に辿り着く。
「ここか……」
「良し、開けよう」
そこを開けてみると中には不思議な模様が描かれた台座の様な物があり、その台座の中央には黒いフタのついた穴がある。
『そこにさっきの宝石を挟めば、もう1つ扉が現れる筈よ』
「こ、これか……?」
「そうかも知れないわ。現にこの宝石がピッタリ収まる様な形をしている訳だし」
賢吾の疑問に、吸魔石と穴の形を見比べながら美智子が答える。
とりあえず声に従っておけば何とかなるだろうと3人は結論付け、吸魔石を穴にはめ込んでからフタを閉める。
するとゴゴゴ……と地響きとともに壁の一部が崩れて扉が現われ、声はその先に進む様に指示をしていたので扉を開けて先に進んだ結果、あのセバクターと言う剣士を吸魔石によって退けた3人と、謎の光と声によって助けられたイルダーはこのランディード王国の王城だった場所の中で再会する事になったのである。
だが再会を喜ぶのは後で、今はここからさっさと逃げ出すのが大事なのだと再確認。
イルダーをここまで誘導し、光のベールに包まれながら前を走って行くあの声と光の主は一体何者なのだろうかと言う疑問は4人に共通して湧き出て来ているが、今はそれよりもその声と光の主であろう女の後について脱出するだけである。
「何処に行った!?」
「こっちには居ないぞ!!」
「向こうを探せ!!」
騎士団員達が自分達を探す声や足音を遠くに聞きながら、4人はまず女の後に続いて出口を目指す事に。
出口と言っても、この城は元々王城だった事もあってまるで迷路の様な構造の場所であるが故に一筋縄では脱出出来ない。
……筈なのに自分達の目の前を走る女は何の迷いも躊躇も無く右へ曲がり、左へ曲がり、非常にスムーズに通路を走り抜けて行く。
(迷いが無いな)
4人の先頭を走っている賢吾は、そのスムーズな女の足取りに対して驚きと不信感を抱きつつもただついて行く事に集中する。
そうして、4人は1つの大きな扉の前に辿り着いた。
「ここは……」
「この先が裏口になるわ。さあ早く!!」
「は……はい!」
女が扉の先を確認して後ろの4人に報告する。
もしかしたら本当にこの扉から脱出出来るかも知れないと考え、4人は女の後に続いて扉の先へと足を進める。
そしてこの後4人はやっと面と向かってその声と光の主と出会う事になったのだが、それは同時に嵐がやって来た展開を意味する事でもあった。