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202.下手こいたぁ~!!

「おらあっ!!」

「ぐえ!?」

 何と、外野の筈のレメディオスの部下である騎士団員がイルダーに攻撃を仕掛ける。

 レメディオスに追い打ちをかけようとしたイルダーの死角から背中を蹴り飛ばし、まさかの外野からの攻撃に対して成す術も無くイルダーは地面に転がった。

「なっ、何を……」

「うりゃあ!!」

「げはあ!?」

 何をするんだと言いかけたイルダーが立ち上がろうとした所に、今度は別のレメディオスの部下から頬にストレートパンチがお見舞いされて再びイルダーの口の中に鉄の味が広がる。

 その衝撃で倒れ込んだイルダーに騎士団員達が覆い被さり、後ろ手にまた拘束されてしまった。


「おっ、おいあんた、約束が違うじゃないか!!」

「約束だと?」

 尻をパンパンと手で払って立ち上がったレメディオスは、愛用のロングソードを鞘に納めながら当たり前だとでも言わんばかりの口調でイルダーの抗議に返答する。

「私は縄は解いてやるとは言ったが……一騎打ちをする等と言った覚えも無ければ貴様を自由にしてやると約束もしていない。貴様が勝手に勘違いしたんだろう?」

「な……っ!?」

 約束を破るとかそんな以前の問題で、そもそも約束なんてしていないと言い張るレメディオス。

「ふざけんなよ!! 王国騎士団って言うのは地位が高くて国民の模範となるべき人物の集まりじゃないのかよ!?」


 騎士団員達に拘束されながらも抗議の声を緩めないイルダーに対して、レメディオスは無表情でまたもや当たり前の様な口調で言い返す。

「青いな、貴様は」

「何だと?」

「戦場では口約束なんて何の意味も無い。まして生きるか死ぬかの殺し合いをするんだったら口約束をする暇も無いし、そう言う事をする暇があるんだったら敵をどうやって退けるのかを考えるのが戦場なんだ」

「……戦場……」

「そうだ。それに嘘の情報を流して敵を混乱させる事もあるからな。今の貴様がそうやって無様に負けた様に、背後から奇襲を掛けて敵を滅するのも戦場では当たり前の戦略なんだ。それを何処でどうやって使うかによって指揮官の実力が決まる。それが私に求められている資質だから、貴様とは潜って来た修羅場の数も経験も何もかもが違うんだよ。残念だったな」


 この瞬間、今まで抱いていた騎士団への幻想も憧れも全て打ち砕かれたイルダーは絶望を全面に押し出した顔になった。

「……何だよ、それ……」

「それが現実だ。そしてその現実を受け止めたばかりで悪いが、貴様は勝負に負けたのでな。だから約束通り死んで貰おう」

「約束!? さっきは約束なんてしていないとか何とか言ってたのに、それじゃ言ってる事もやる事も支離滅裂じゃないか!!」

 二転三転するレメディオスの発言に何かを見失いそうになったイルダーは半狂乱になるが、そんな彼に対してもレメディオスは真顔である。

「だからそれが戦場なんだ。来世でそれを覚えていればもっと長生き出来るだろう」

 そう言って手をひらっと振り、後の処刑は頼むぞと言い残してレメディオスは部屋の奥にあるドアに向かって歩き出した。

 残ったイルダーは拘束されたまま騎士団員達に引っ張られ、処刑の準備を進められる。

(くそっ、ここで終わりか……!!)


 しかしその時、誰も予想だにしていなかった出来事が起こる。

 薄暗い大部屋の中に突然小さな光の球体が4~5個浮き出て来たかと思うと、それが一気に弾ける。

 するとその瞬間、強い閃光が部屋の中に広がった。

「うっ!?」

「なっ、何だ!?」

「うああっ、め、目が……!!」

 イルダーもレメディオスもその他の騎士団員達も例外無く、その突然発生した謎の閃光に目を腕で覆ったり手で覆ったりしてショックから逃れようとする。

 そしてイルダーも悶えながら後ろ手の拘束を解こうと頑張っていた時、彼の耳に謎の声が聞こえて来た。

『この隙に脱出しなさい』

「……だ、誰だ!?」

『急ぎなさい、この光も余り長くは持たない。さぁ、早くこちらへ』


 この修羅場には似つかわしくない、穏やかな大人の女の声。

 誰だか知らないが、今なら確かに騎士団員達の視覚が奪われている状態だ。

 その声のする方を見てみると、光の中に髪の長い女のシルエットが浮かび上がっているのが見えた。

(どうやら手助けが来てくれた様だが、まさか女1人で……!?)

 自分はエリアスに頼まれてこの城の調査をしに来たのだが、城の様子を外側から窺っていた時に外の巡回をしていた騎士団員達に見つかっていたのに気づかず、背後を取られてそのまま飛び掛かられて拘束されてしまったと言うのに。

(まさか、その巡回警備を抜けて来たのか!?)

 驚きを隠せないイルダーではあるが、このせっかく与えられたチャンスを無駄にしない為にもその女のシルエットの方に駆け出すイルダー。

 元々薄暗い所にいきなり光が飛び込んで来たので、まだ目が光の加減をし切れていない自分の身体に気合を入れてイルダーはその女の背中を追い掛けて走り出す。

「くそっ……おい、奴が逃げたぞ!!」

 背後にレメディオスの叫び声を聞きつつ、なかなか追って来られないだろうなと言う確信を心の中に持ちながら。

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