201.まあまあ互角(?)のバトル
レメディオスの部下の騎士団員達が円陣を組んで人間のリングになり、その中央でレメディオスとイルダーが武器を構えて向かい合う。
お互いの様子を窺い、円を描く形でグルグルと回りながら2人は睨み合う。
レメディオスの計画が進行されている場所の一角に緊張が走る。
(お手並み拝見と行こうか)
(僕だってここまで危険を承知でやって来た訳だし、この一騎打ちを申し込んだからには何としてもこれに買ってここから逃げないと!!)
お互いの考えが全くかみ合わないまま、どちらからともなく足が止まる。
それを合図に2人は打ち合いを始める。
「はあっ!」
先に動いたのは意外にもレメディオス。
相手の出方を窺い続けるよりも、その相手であるイルダーの実力を見極めるべく身体を弾かせて、イルダーに対してレメディオスが飛び込んで来る。
まずは攻める事で守りのテクニックを見極めようとしているのか、それとも真っ直ぐ飛び込んで来る事で勝負を決めに掛かって来ているのかイルダーには分からないが、それなりに素早い突きがイルダーに襲い掛かる。
だがイルダーだって黙ってやられる訳も無く、右に避けてからグルンと左回りに回転しつつレメディオスの脇腹目掛けて回し蹴り。
「ぐっ……」
「っ……」
回し蹴りをレメディオスの脇腹に当てる事には成功したが、レメディオスのつけているロングソードの鞘にかかとを当ててしまう形になり、結果的にイルダーも自爆でダメージを受けてしまう。
(ぐぅ……運の強い人だ……)
まさか鞘でダメージを受けるなんて……とイルダーは想定外の事態にビックリしながらも、再び向かって来るレメディオスに対してこっちから先制攻撃でやってしまうしか無いと判断。
ギン、ギィンと金属の弾ける音が繰り返され、第3騎士団団長元見習い騎士のバトルが戦いを静かに見守るレメディオスの部下をギャラリーにして続く。
「はぁぁっ!!」
気合一発、再び飛び込んで来るレメディオスの動きを観察してみるイルダー。
(上からロングソードの振り下ろしを仕掛けるつもりか!!)
そう読んだイルダーは、バックステップで一旦回避してから飛び掛かる算段を考える。
(飛び掛かって押さえ付けてしまえばそれで僕の勝ちだ!!)
そう考え、ロングソードを振り下ろすのを目で捉えた所でレメディオスに向かって駆け出した……までは計算が成り立っていたのだが。
「ふっ!!」
「っ!?」
ロングソードを振り下ろすモーションはあくまでフェイント。
本当の攻撃は、そのロングソードの動きに注目していたイルダーの視界の外から襲い掛かって来た。
思いっ切り前蹴りを繰り出したレメディオスのその足がイルダーのみぞおちを的確に捉える。
「ぐぅお!? が、がはっ……!?」
そのままうつぶせ状態で地面を滑って倒れるイルダーだが、生きる事への執着心が彼をまた立たせる。
「悪くは無いがまだまだ甘いな。その程度では私には勝てない」
「な、何を……まだまだこれからだよ!!」
足に力を入れて立ち上がったイルダーを見据え、レメディオスもまたロングソードを構える。
そうしてほぼ同時に2人は動く。
パワーで言えば体格の大きいレメディオスが有利だが、イルダーはレメディオスよりも小柄な分スピードが上がるので若干イルダーの方がスピード的には速い。
だがレメディオスも流石騎士団長だけあってか、体格の大きさを感じさせない素早い剣術を披露する。
(勝てるのか、僕に……!? いや、勝たなくちゃ駄目なんだ!!)
イルダーが勝負出来る所と言えばスピードのみ。
そこを活かせる様な戦法を取りたいが、騎士団長は幾多もの戦場を駆け抜けて来ているので実戦経験も豊富だ。
一見すると勝ち目が無さそうに見えるバトルであるが、イルダーは1つだけ戦略を思いついていた。
(あれしか『勝ち』には持って行けそうに無い。そこまではじっと我慢だ!!)
レメディオスは力の使い方も熟知しているので、まともにロングソードを合わせるのは自分のロングソードが折れてしまう可能性もある。
なのでイルダーはどちらかと言うと回避をして、自分から攻撃を仕掛けて行くスタイルで戦う。
レメディオスの威力を自分のロングソードで受け止めるのでは無く、自分のロングソードの攻撃をレメディオスに仕掛けて行くのだ。
しっかりとレメディオスの攻撃の軌道を読み、そこから反撃に出て行くスタイル。
だがそんなイルダーを嘲笑うかの様に一旦距離を取ったレメディオスは、イルダーの剣術の腕前の良さに驚きながらもまだまだ余裕がある様な表情を浮かべる。
「剣筋は良いな。だが詰めが甘いぞ!!」
再びロングソードを振り被って来るレメディオスの攻撃を横に避けるイルダーだったが、そのまま連続でミドルキックをイルダーの腹へと入れるレメディオス。
「ぐほっ!?」
イルダーが怯んだ所に、そのロングソードの柄を使ってレメディオスはイルダーの顔面を殴打。
そのまま前蹴りでイルダーの頭を蹴り飛ばす。
「がはっほぅ!!」
どさりとイルダーが仰向けに倒れこみ、そのまま覆い被さる様に両手剣を突き立てようとするレメディオス。
イルダーはそれをギリギリで何とか避けたものの、レメディオスが今度は腹を思いっ切り靴の裏で踏みつけて来た。
「があっ!?」
「そろそろ楽にしてやろう」
イルダーにロングソードを突き立てるべく両手で柄をレメディオスだが、イルダーはこの瞬間をまさに待っていたのであった。
レメディオスの腹を踏みつけている右足を両手で掴んで、全力を振り絞ってしりもちをつく様に仕向ける為に前へと引っ張る。
「おりゃあああっ!!」
「ぬおっ!?」
その計算は上手く行き、バランスを崩して盛大にしりもちを付いてこけるレメディオス。
イルダーは間髪入れずに転がり、そこからすばやく立ち上がってレメディオスに向かう筈だったが……。