200.挑戦
レメディオスはニヤリと口の端に小さく笑みを浮かべる。
「察しが良いな。イズラルザの地下、それから王城の地下、最後にこのランディードの王城だった場所の地下にそれぞれ魔法陣を描き、転送装置を作って移動出来る様にしてあるんだ」
しかし、そこでイルダーに1つの疑問が生まれる。
「それだったら何でエリアス達を追撃する時に転送装置を使わなかったんだよ?」
その方が効率が良いだろうと考えているイルダーだが、レメディオスはその口から笑みを消して大きな溜め息を吐いた。
「転送装置は私の息の掛かっている者しか知らない事実なのだぞ。大っぴらに言える訳が無いだろう」
「それで……それを知ってしまった僕は最終的にあんたの剣で切り刻まれるのか?」
「分かり切った答えを聞くものでは無いと思うが」
そこで一旦セリフを切ったレメディオスが、今度は逆にイルダーに質問をする。
「私からも聞きたい事があるんだがな」
「な……何だよ?」
「私がシルヴェン王国壊滅計画を進めている事が、あの魔力を持たない2人経由でバレたのだろうと思っているのだが……問題はその計画を実行する為に作業していた複数の場所が何故、御前達にバレたのかと言う事なんだ」
レメディオスはそう言いながら、懐からガサゴソとあの茶髪の男がエリアスと自分とエルマンに人数分きちんと渡してくれた地図を取り出して広げてから、これがそれだと言わんばかりにイルダーにまざまざと見せつける。
「これだ」
「あ、それは……返せよ!」
「返す訳が無いだろう。それよりも質問に答えろ。この地図には赤い印がつけられている。そして印の場所は私が計画を進める上で必要な研究所と砦、それとここがピンポイントなんだ。これは極秘にこの場所を調べている者がいた証拠になるが、私の密偵からの報告ではその様な人物の存在は居なかったらしい。ならば、それを知っているであろう貴様がここにノコノコ現れてくれたから存分に聞くまでだ」
そう言ってじりじりと自分の方に距離を詰めて来るレメディオスに対し、椅子をガタガタと揺らして拒絶反応を見せるイルダー。
「ま、待て! 何を言っているのか僕にはさっぱりだ。ここは落ち着いて話さないか?」
だが、レメディオスはそのイルダーの言葉に聞く耳を持たない。
「フン、だったらこの地図は何だ?」
「こ、これは……渡されたんだ。知らない茶髪の男からいきなりこれを持って行けって言われて……」
「嘘だな」
即座に否定されてしまうが、それでも実際にその茶髪の男が突然現れて地図を渡したのだから、自分は嘘を一切ついていないと言えるイルダー。
「実際は貴様もあのワイバーンに乗って消えた奴の仲間なのだろう? これは尋問のし甲斐がありそうだ」
尋問の内容は恐らく、これまで騎士団に対しての事件を色々と引き起こした事も自分に聞かれるのであろうとイルダーは考える。
そしてレメディオスの計画を邪魔する存在であるとなれば、もうこの場所で最後に処刑されてしまう結末しか見えないし、レメディオスも実際にそう言っている。
そこでイルダーは1つの賭けに出る。
「だ、だったら僕の挑戦を受けてみろ」
「挑戦?」
いきなりの話題変更にレメディオスはキョトンとするものの、とりあえず聞くだけ聞いておくか……と言いたげな表情でその話の続きを待つ。
「そうだ。ここで僕とあんたが剣で勝負して、勝ったらこの場所から僕を見逃せ。その代わり僕が負けたらどうにでもして良い」
「……」
レメディオスはしばし考える振りをする。
頭の中では勿論「振り」だけで、万が一自分が勝とうが負けようが既に結論は決まっているのだが、ここはあえて曖昧なセリフで誘いに乗ってみる。
「分かった、その縄を解いてやろう」
「流石は団長だ。物分かりが良くて助かるよ」
縄を解いて自由の身になったイルダーは、自分の愛用しているロングソードを一旦返して貰う。
「殺し合いになっても構わないのか?」
「と言うか、元々あんたはそのつもりだっただろう。だったら勝ってここからさっさと退散するだけだよ、僕は」
ロングソードを構えてそう宣言するイルダーに対し、レメディオスも自分のロングソードを腰から抜いて忠告する。
「止めるなら今の内だぞ」
「誰が止めるか。自分から挑戦の申し込みをしておいて、直前になって怖気付く様な腰抜けと思われたら僕も心外だね」
大口を叩くイルダーに対して、さっきと同じく小さく口元に笑みを浮かべるレメディオス。
「言っておくが私は強いぞ? 前に貴様が勝負したクラリッサや賢吾とは比べ物にならない位にな。そう言われても止めないつもりか?」
「だから止めないって言ってるだろ! 良いからさっさと始めろよ!!」
しつこい自分に激昂するイルダーを見据えつつ、優雅とも言える綺麗な動作でレメディオスはロングソードを構える。
短絡的ではあるが自分でチャンスを切り開くならこれしかないと考えた結果、イルダーはこのレメディオスに打ち勝って逃げ出すべく今まで鍛錬して来た自分のロングソードの腕前に全ての望みを託す事にした。