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199.本性

「騎士団への内定は取り消しだな」

 ギチギチにきつく椅子に縛り付けられ、騎士団員に取り囲まれてしまったイルダー・シバエフは自分の迂闊さを呪っていた。

 その目の前で無表情で何を考えているのかわからないまま、内定取り消しを宣告したのは第3騎士団の頂点に君臨しているレメディオス・デル・モンテだった。

 しかし、この男はつい先日まで王都に居た筈。

 この場所は王都からかなり離れているし、中央にある山脈を迂回してやって来るのが一般的なルートだがそれでは明らかにまだここまで辿り着けない。

 ならばとその山脈を超えてやって来るにしても、山脈自体もきつい事で有名なのでやっぱり今ここに居るのは早過ぎて時間的に不可能だ。

「来るのが早過ぎやしないか……?」

 その疑問を口に出すイルダーに対して、レメディオスは相変わらず無表情のまま理由を述べる。

「私には騎士団員以外にも、ランディード王国時代から仲の良い魔術師が沢山居るのでね。その魔術師達も私に色々と協力してくれているのだよ」


 それを聞き、イルダーは1つの予想をレメディオスにぶつけてみる。

「もしかして、イズラルザにもそう言うのが居たりする?」

「ああ。だけどシルヴェンの奴等にぞんざいに扱われている者が殆どだ。私は許せない。私の家族も恋人も、それから仕えるべき主君も全て破滅に追いやってその命を奪った、このシルヴェン王国と言う国がな。だからこうして長い時間を掛けて準備を水面下で進めて来たと言うのに、思わぬ所で邪魔が入った……貴様の様な知りたがりがな!!」

「ぐへ!?」

 全力の右のパンチをレメディオスから顔に食らい、奥歯が抜ける感触がイルダーの口の中に広がる。

 その奥歯を吐き出して、ギラギラとした目つきでイルダーはレメディオスを睨み上げる。

「で……その後は一体何を企んでいるんだ? まさかこの王国を潰して終わりって訳じゃ無いだろう?」


 本当にそれだけだったら何てスケールが小さい話なんだ……とイルダーは思っているが、やはりレメディオスの考えはその先も続いている様だ。

「まさか。この国にはイズラルザと言う魔術が発展した国もあるし、何より隣のヴァーンイレス王国はもう既に滅んでしまった国だからな。この隣国のアイクアル王国、それからヴァーンイレスの逆隣のエスヴァリーク帝国にヴァーンイレスを先取りされる前に、私の手によって蘇った新生ランディード王国が領土を拡大するんだよ」

「そりゃあ、大層な考えをお持ちの様で……」

 アイクアル王国やエスヴァリーク帝国は広い国土を持っており、軍事力もそれなりに有しているので小国であるこのシルヴェン王国が攻め込んでも負けてしまう可能性の方が大きい。


 だが、隣のヴァーンイレス王国だけはちょっと理由が違う。

 2年以上前にそのヴァーンイレス王国が滅ぼされてしまい、国民はまだ居るものの王族関係者はそのランディード王国と同じ様に1人残らず粛清された。

 そしてヴァーンイレス王国に攻め込んだのが、幾つかの他国が同盟を組んで攻め込んだ連合軍だと言う話もイルダーは聞いている。

 その連合軍の間でヴァーンイレス王国の何処をそれぞれ占拠するか、何処から何処までを自分達の領土として確定するかでそれこそ2年以上も揉めているらしく、未だに決着がついていないらしいので今は実質「宙ぶらりん」の状態だ。

 そこに付け込んだレメディオスはこれ幸いとばかりに、自分達の身寄りを全て奪ったシルヴェン王国に復讐を果たした後に領土の拡大を目論んでいるらしい。


 その為なら何でもするのだ、とイルダーの髪の毛を掴み上げて血に飢えた肉食猛獣の様な目つきで睨みつけるレメディオス。

「魔術師達も物分かりの良い、話の通じる知り合いばかりでスムーズに計画を進める事が出来ていた。しかし、貴様やその知り合い……シルヴェン王国でも有数の大貴族のキーンツ家の1人息子のエリアスだったか。そしてあの異世界からやって来たと言っている男女2人が私の計画を邪魔してくれているのでね。だからここに先に回り込んで、一気に潰してしまおうと言うのだよ」

「ああそうかい。でも、僕にあの地下の魔導砲を見せたのはあんたの部下のロルフが迂闊だったな。僕をその計画のメンバーに加えようとしていたみたいだけど、元々僕はエリアスと面識があってね。その過程であんたの計画を知ってしまったのさ」


 これはまだ賢吾にも美智子にも話していない事なんだけど、と余裕がありそうな態度で口に出すもレメディオスの冷静な態度も変わらない。

「貴様の知り合いだと言うキーンツ家の長男が動いているのは、私の密偵が情報収集をしていてくれたおかげで知る事が出来た。そして私の計画に必要な拠点も探るだろうと踏んだ私は、イズラルザの知り合いの魔術師達を通じて用意して貰った特殊な技術でこうして先回りしたのだ」

「特殊な技術……って、まさか!?」

 イルダーはそこでハッと気が付く。

 自分も魔術はそれなりに勉強しているのだが、その過程で習ったのが転移魔術。

 つまりこの世界の生物や無機物をパッと別の場所に移動出来る、かなり便利な魔術の存在がそれだった。

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