198.最後の目的地
話に没頭していてタイムロスした結果、この場をエルマンに任せてエリアスと地球人2人は最後の目的地、中央の山脈を一気に超えてシルヴェン王国の東側に向かう。
「夜でもワイバーンは問題無いのか?」
「ああ、夜目が利くから大丈夫さ」
「だったら安心ね。それから……次に行く所はどんな所なの? イルダーをもうそっちに行かせてるんでしょ?」
そう問われたエリアスは考え込む素振りを見せ、ワイバーンのコントロールの為に後ろに乗っている2人の方には振り向かないまま答える。
「最後の場所は……イルダーから飛ばされて来た鷹が足に着けていたメモによれば、そこはランディード王国の王城だ」
「えっ?」
「ああ……確か領土の半分がランディード王国だったって話だったな、昔は……」
思わぬ回答にキョトンとする美智子と、そう言えば……とさっきの会話を思い出して頷く賢吾。
「正確には王城「だった」所で、今はこのシルヴェン王国の遠征時のもう1つの拠点として王族が寝泊まりする為に使用されている場所だ」
「じゃあそこが最後の場所って事になるけど、もしかすると何かレメディオスのやろうとしている事の手掛かりが掴めるかも知れないわね」
美智子のセリフに、再びエリアスは前を見たまま頷く。
「ああ。そもそもその王城は第3騎士団長のレメディオスが元々警備していた場所だから、今の国王陛下も管理するにはその城を知っている人間が1番良いだろう、との決断でレメディオスに任せているらしいよ」
「それだったら陰で色々やりたい放題じゃないか」
冷静に突っ込みを入れる賢吾に、口元に苦笑いを浮かべるエリアス。
「そうだな。陰でコソコソ色々やっているそのレメディオスに任せてしまうと、絶対何かしているんじゃないかって俺も思うよ」
その流れで美智子がこの後の展開を予想する。
「で、そこにも膜のバリアが掛かっているから私達に解除して欲しいって言うの?」
今までの流れからすると、きっとエリアスは「ああそうだ」と言うと思っている賢吾と美智子だが、実際の返答はまるで違った。
「いいや、そこにはその魔術防壁は無いよ」
「あら? それだったら調査し放題じゃない」
しかし、物事はそうそう上手く行かない様でエリアスは首を横に振って「NO」の意思を示す。
「それがそうでも無いんだよ。考えてもごらん。第3騎士団の団長であるレメディオスが直々に自分の主君……それも敵国の国王陛下から管理を頼まれているんだから、あの冷静な騎士団長がそのチャンスを活かさない訳が無いでしょうが」
何だかムカつく喋り方ではあるものの、それよりもそのエリアスのセリフから何を言いたいのかを考えるのが先だ、と賢吾と美智子は頭を回転させる。
そしてそれに先に気が付いたのは美智子だった。
「もしかしてだけど……レメディオスの息が掛かった部下の騎士団員達がその城を警備していて、その裏で色々と何かをしようとしているって事かしら?」
「それしか考えられないね。元々そこを警備していたとなれば内部の構造は知り尽くしている筈だし、だからこそ見つからない様に何かをするのも簡単じゃないかと俺は考えている。何回か俺もそこに行ってみたけど、王城は一般市民にも内部を見学出来るルートを作っているのに対してその東の城はそう言うのが一切無い、いわば関係者以外立ち入り禁止の場所となっているからますますそう言う事をするのにはうってつけなんだよ」
最初はあの研究所から始まり、次は砦で少しスケールが大きくなり、最後は元々ランディード王国の王城だった城と言うだけあってますますスケールが大きくなっている。
問題はそこの内部で何が行われているのかだが、自分の配下の騎士団員達を警備に配置しているとなれば、地球からやって来た人間とその協力者達がそこに向かっているかも知れないと言う情報をキャッチして先回りされている可能性も考えられる。
そう考えた賢吾が訪ねてみるが、エリアスは首を傾げた。
「……いや、その手紙が送られて来た時は別に何も変わった事は書いていなかったぞ。普通通りに見張りが城で警備をしていて、その下見をして入れそうなルートを探しておく……とイルダーの文字で書かれていた」
「そうなのか。でもその手紙が送られて来てから時間が経っているとなると、レメディオスの事だから様々なシミュレーションをして俺達の行きそうな所に先回りする可能性もあるよな」
それでも、膜のバリアが張られておらずに最初からエリアスやイルダーの協力が得られるだけでも前の2か所と比べてみれば精神的なプレッシャーは少ない。
むしろ賢吾と美智子にとって心配なのは、イルダーが入れそうな場所を探しておくと書いている事だ。
「イルダー、上手くやっているのかしら?」
「あの男なら魔物の盗伐とかで潜入や状況の把握には慣れているだろうから心配する必要は無いと思うよ」
美智子の呟きに部下を信用する口調でエリアスが言うが、それでも実際に戦った賢吾はあのイルダーにも欠点があると踏んでいた。
「相手の実力を見誤って、捕まる様な事になっていなければ良いが……」
そんな不安を抱えたままの賢吾を乗せて、ワイバーンはシルヴェン王国の夜空を飛んで城に向かった。