197.滅びた王国
それを聞いていた美智子が、さっきの計画書の中に出て来た国についてエリアスとエルマンに質問する。
「ねえ、そう言えばランディード王国ってのがその計画書の中に出て来たんだけど、この世界の何処にある国なの? それとももう無くなっちゃった国なのかしら?」
新しく出て来た国の名前に食いついた地球人に、その事情を知るエリアスが答える。
「ああ、そのランディード王国が元々レメディオスの居た国だよ」
「え?」
「元々居た国って事は、じゃあそこが無くなったのか?」
「そう。そのランディード王国って言うのが隣国として元々この領土内にあったんだ。小さな国だったけど豊富に採れる鉱物が国の産業で、それでかなり潤っていたんだけどそれを目当てに今のこのシルヴェン王国が侵攻をして来てね。シルヴェン王国も兵力としては大差無かったと思うんだけど、結局は運って言うの? 最終的にシルヴェン王国が領土をその時の2倍位に広げる結果で、吸収合併してランディード王国は地図の上から消えてしまったのさ」
「へえ……この大陸の片隅でそんな事が行われていたのね」
「ああ。小国同士の小競り合いって言うのは良くある話だから。この今のシルヴェン王国の領土の半分が、元々ランディード王国だったみたいにね。で、負けたランディード王国民はまず、王族関係者は全て殺害された・そしてそれ以外の国民は、そのままシルヴェン王国の国民として新たなスタートを切ったんだ」
その話を聞いていて、美智子の中でパズルのピースが当てはまった気がした。
「じゃあ、レメディオスも例外無くこっちの国民として生きなきゃいけなくなったのね」
「ああ。ロルフも、それからクラリッサもそうだ。もしその3人が「この国で生まれ育っていた」とかって君達に言ってたのなら、それは半分正解で半分は間違いだ。元々この国の領土は大きく2つに分かれていたんだからな」
「なるほどねえ。だったら恨みを持つのも分からないでも無いかもね」
エリアスのその話に続いて、今度はエルマンもレメディオスの情報を話し始める。
「俺達なりに情報収集をしていて分かった事なんだが、あのレメディオスって奴は元々そのランディード王国の騎士団長を務めていたらしい。最後まであいつはこの王国に抵抗したらしいけど結局負けて、家族も恋人も殺されてこの王国の騎士団員として雇われたんだってよ」
「ふぅん……家族も恋人もねぇ」
そこまで納得した美智子は自分の予想を述べる。
「これはあくまでも私の予想なんだけどね……」
「何?」
「自分の王国を滅ぼされた結果として、この国の騎士団員になったんでしょ、レメディオスは。それに今エルマンが言ってた通りだとしたら、家族も恋人もこの国に殺された……いわば恨みを持たない方がおかしいわよ。攻め込まれて負けた上に身寄りも無くして、お情けで騎士団に雇われて……ってなったら私でも復讐を企てると思うわ」
レメディオスの気持ちを考えると美智子のその予想は分からないでも無いので、特に反論はせずに賢吾は黙ったままである。
しかし、エリアスが今まで集めた資料からもっと先の話をする。
「それは確かに俺も分からないでも無い……けど、問題はそれ以上の事をレメディオスがしようとしているって事だよ」
「それ以上の事?」
美智子がそう聞けば、エリアスはエルマンに対して顎で指示を出す。
エリアスからそう指示を受けたエルマンは、自分の服の懐から丸めた1枚の紙を出してそれを広げて「読んでみろよ」と地球人2人に対して差し出した。
「ええと……どれどれ? この計画が無事成功した後は、魔術都市イズラルザから引っ張って来た魔力を最大まで溜め込んだ特大の魔導砲で隣のヴァーンイレス王国を砲撃し、宣戦布告をする。攻め込むのは騎士団員だけでは無く、大量に培養した魔物も使役する史研究所は王国の各地にあるし、ヴァーンイレス王国は国土の割に町や村が余り無い国だから攻め込むのは特に苦労しないだろう……か。レメディオスは戦争を起こそうとしているってのか?」
「そう言う事になるね」
この王国に対して復讐するだけでは飽き足らず、隣国に対して宣戦布告をする計画までレメディオスが立てているらしいと知った以上、このまま放っておくとまずい事になるのは明らかだ。
「ところで、これ何処から見つけたの?」
膜のバリアが消えた事でこの中に入って来た2人が見つけたのであれば、危うく恐ろしい計画を見落とす所だったと胸がザワザワする賢吾と美智子。
しかし、実際はこことは違う場所で違う人物が見つけたらしい。
「これ? ああ、これはあのカラス鳥人があの最初の研究所で見つけたんだってさ」
「えっ、私達と戦ったあの人が?」
「そうだね。そのカラス鳥人に君達を任された後にこれを差し出されて「研究所を少し調べてたらこんな物を見つけたから持って行け」って差し出されたんだ。何にせよこの計画が成功してしまったらこの王国は終わりだから、色々と話し込んでいたけどそろそろ出発しよう。3つ目の目的地にはイルダーが待っているし、ここの後の処理はエルマンに任せるからさ」