192.協力者?
見張りを殺してここからの脱出を図る2人。
ただし、待ち伏せをされていた事で投獄されたので用心に用心を重ねて進む。
(さっきの見張りは完全に俺達の事を馬鹿にしていたからな)
階段を上がっていよいよ1階へ。
この先に待ち受けているのは静粛化、それともまた騎士団員か。
考えてみれば自分達が投獄されてからまだそんなに時間が経っていないので、もしかしたら騎士団員達の気が緩んでいるかも知れないと淡い期待を抱きながら、2人はその階段の上に現れたドアを開ける。
だがこの後、その期待は複雑な意味で裏切られる。
「……ん!?」
「えっ……こ、この臭いって……」
ドアを開けた瞬間から漂って来る、鼻を衝くこの臭い。
普通に生活をしている人間であればまず嗅ぐ事の無いであろうその臭いに対して思わず顔をしかめる賢吾と美智子だが、それ以上に気になったのはドアの先に現れた通路に人の気配がまるでしない事であった。
そして、その通路には衝撃的な光景が広がっていた。
「う、うおっ……!?」
「きゃ……!?」
叫びたくなるのを何とか意思でねじ伏せて我慢した美智子だったが、それでもその光景を見てしまったショックは大きい。
何故ならその通路の壁や床の至る所にべっとりと血痕が飛び散っており、遠目で見てもピクリとも動かず既に事切れている騎士団員達の死体が転がっていたり、壁にもたれ掛かる形で放置されていたのだ。
ドアを開けた瞬間から漂って来るその臭いは、その壁や床に飛び散った血の臭いだったのだ。
「ひ、酷い……」
「誰がこんな事をしたんだ?」
さっきは自分達が容赦無く見張りを殺して脱出したのを棚に上げてこの発言だが、それを差し引いてもこの惨状は惨たらしかった。
別にここまでやる予定は無かった訳だし、そもそもこの状況を誰が、どうやって、何の目的で作り出したのかも分からない以上は脱出が楽になったと素直に喜べない。
しかもここに潜入する時にブラックジャックで最初に見張りを殺したと言う情報も、それからあの1つ目の場所に潜入したと言う情報も騎士団の総本部に連絡されていないとは限らない。
ロルフやクラリッサ、そしてレメディオスが動いているとなればそうした情報を掴まれるのも時間の問題なのは賢吾も美智子もすぐにイメージ出来た。
「ど、どうしよう……?」
「どうするも何も、とにかくここから脱出できるなら先にしてしまった方が良いだろう。建物の中がこんな状況なら、外で待っているエリアスやエルマンがどうなったのかも心配だからな」
そう、ここに来たメンバーは自分達だけじゃなくて外でバリアの解除を今か今かと待っているエリアスとエルマンの2人も居るのだ。
潜入してかなりの時間が経っている上に、こうして牢獄に入れられてしまった結果その2人は待ちくたびれてしまっているかも知れないし、もしかしたら騎士団の追手がやって来ているかも知れない。
通路の窓から外を見る限りでは夜もまだまだ明けそうに無いし、争う様な音も聞こえて来ないので大丈夫だろう……と賢吾が思っていた時、美智子が通路の床に奇妙なものを見つけた。
「あら、これは……?」
「何かあったのか?」
「うん、ほら……これ」
美智子が指差した床には、騎士団員の血で描かれている明らかに「矢印」のマークが。
「これ、どう考えても少し前につけられたもの……よね?」
「ああ。そこの血で描かれているみたいだからな。でも誰が何でこんなものを?」
賢吾が顎に手を当てて考えているその横で、美智子が1つの可能性をシミュレートしてみる。
「この状況を作り出した人が、例えば仲間に自分の居場所を知らせる為にわざわざこうやって血で地面に矢印を書いて道しるべを作ったとか?」
「それが誰かによるが……もしかしてバリアを解除出来たからエリアスとエルマンが乗り込んで来たとか?」
「そこまで私には分からない。でも1つだけはっきり言えるのは、これをやったのは王国騎士団員の誰かじゃないってのは確かね。だって王国騎士団員を殺すって事は、王国騎士団にとっての敵がこの矢印を描いたって事でしょ?」
「ん~、確かにそれは言えるかも」
もしかしたら、王国騎士団員を殺したのとはまた別の人物がこうやって床に矢印を描いたのかも知れない。
いずれにせよ、こうやって意味ありげに矢印を地面に描くと言う事は確実に何らかの意図があってやった事なのは理解出来た。
となればこの先、自分達が取るべき行動に選択肢が増えたので賢吾と美智子は頭を悩ませる。
「どうする……この矢印に沿って先に進んでみるか?」
「でも早く脱出した方が良いかも知れないわよ。進んだら進んだでまた変な事に巻き込まれる可能性だってあるし」
「うーん、それもそうか……」
騎士団員を殺すと言う事は利害関係が一致している者の仕業かも知れない。
悩みに悩んで話し合った末、結局美智子の言い分を優先して矢印が指し示す方向には進まずに脱出を優先して行動する。
「もうこの際、この窓を開けて外に逃げても良いかも知れないぞ?」
「あー、そうね。でも外にはまだ生きている騎士団員が居るかも知れないから気を付けましょう」