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189.スムーズ

 砦の中に入った地球人の2人は、1つ目の研究所の時と同じ様に目的地をまず聞き出す事にする。

 しかしその砦の中を進み始めようとした時美智子がある物を発見したので、その必要は無くなった様だ。

「あら、これは……」

「ん?」

「拠点図解マップ……ですって」

「えっ!?」

 思わず驚きの声を上げて、賢吾は美智子が発見したその「拠点図解マップ」を食い入る様に見つめる。

「俺達を誘い込む為の罠……には見えないな。傷み具合からするとつい最近取り付けられたとは思えないし……」

「そうね。でもこのマップを見る限りここの中は結構複雑よね」

 この砦はかなり入り組んでいるから、恐らく騎士団員でも迷う者が続出した結果こう言うマップが取り付けられたのだろうと勝手に考えてみる。


 何にせよこう言う物があるのはありがたいし、内部の場所もしっかりと記載されていれば迷う事も無さそうだ。

「しかし、これを覚えるのは大変そうだな」

 出来るだけ頭の中に地図を叩き込んでおこうと集中する賢吾だが、その横で美智子がスカートのポケットからゴソゴソとスマートフォンを取り出した。

「無理に覚えなくても記録しておけば良いじゃない」

「あ……」

 この世界に無い文明の利器を持っているなら、それこそスマートフォンのインターネットで検索してそれを片手に歩き回るかの如くここでも地図を写真で撮影して歩き回れば良いのだと美智子は言う。

 だが、賢吾には1つだけ不安な点があった。

「それは良いんだけど、バッテリーは問題無いか?」

「……うん、まだ大丈夫。今は68パーセント残ってるから」

「そうか」


 それでもバッテリーが何時まで持つかが分からないので、必要なアプリ等は事前に全て切っておいて貰ってからカメラを起動して、なるべく全体が収まる様に地図の写真を撮影。

 それを頼りに砦の中を進む事にするものの、なかなか上手く行かないのが人生である。

「……どうだ、敵は居るか?」

「いいえ、こっちは大丈夫よ」

 水没してオシャカになったスマートフォンを持っていても使えないので、賢吾のそのスマートフォンはポケットにしまわれたまま。

 頼りになるのは自分の頭の中に叩き込んだ地図と、美智子の撮影したマップの写真である。

 なので1つ目の研究所の時とは違って美智子を先頭にして2人は進んで行くが、ここで問題が発生。

「あ……このドア、鍵が掛かってるわね」

「本当だ」

 地図によればこの先がその膜を解除する為のあの装置がある場所らしいのだが、そこに行くまでのドアに鍵が掛かっている。

 当然、部外者の2人が鍵を持っている訳も無いのでどうにかしてこのドアを開けなければならない。


「うーん、蹴ってブチ破れそうな気がしないでも無いけど、それやってたら騎士団員に見つかってしまうだろうしな……」

 夜なので起きている人間は少ないらしく、巡回している騎士団員も何とかやり過ごして潜入を続けて来た2人だったがここで行く手を阻まれてしまった。

 それだったら突破するしか無いが、ここは最もリスクの少ない手段を考える。

「よーし、下がっていろ美智子」

「何するの?」

「ドアを有効に使うんだ。それとそれも貸してくれ」

 美智子にその意味が良く分からないまま、自作のブラックジャックを手渡した彼女の目の前で賢吾がゴンゴンと拳でドアをノックする。


 すると、ドアの向こう側から近づいて来る足音が。

「……誰だ?」

 1人の騎士団員が半分寝ぼけた顔をした顔を出す。

 恐らく今まで居眠りでもしていたのだろうが、それは同時に隙だらけであると身を持って教えてくれていた。

 その騎士団員の顔面目掛けて、まずは美智子から借りたブラックジャックでフルスイング。

「ぐほ!?」

 怯んだ騎士団員の髪の毛を掴んで引き寄せ、賢吾達の方に開いたドアと壁の間に頭が来る様に位置を調整してから何度もドアと壁でその頭を挟み込む。

 すると血飛沫がドアの横の壁に飛んでべっとりと張り付き、その騎士団員が意識を失うまでそう時間は掛からなかった。


「うぐ……」

 それでもしぶとく賢吾の胸倉を掴んで抵抗しようとする騎士団員に、とどめのブラックジャックが振り下ろされて彼は絶命した。

「良し、急ぐぞ!」

 自分の方に寄り掛かって来た騎士団員の死体を、音を立てない様にゆっくりと地面に置いてからドアを閉めて鍵を掛ける。

 勿論見つからない様に死体を置くのはドアの「内側」だ。

 最初に死体になったあの見張りが何時見つかるかが気掛かりだが、今はとにかく進むしか無い。


「この先が最深部だ」

「そうね。このルートで行けば間違い無くそうだとは思うんだけど……」

「けど?」

 何だか歯切れの悪い美智子に対して賢吾が反応すれば、彼女はマップの写真を見ながらその違和感を答える。

「あのね、その……ここまで来るのに何だかスムーズ過ぎないかしら?」

「そう言われても、見つからずにここまで来られているんだから気のせいじゃないのか?」

 今みたいにドアに鍵が掛かっている事はあったものの、それ以外は特に問題無くここまで来られている。

 それが美智子にとっては違和感らしいが、それよりも今は膜を解除するのが先だと賢吾は美智子に促す。

「とにかく先に進もう。上手くこのまま行けばそれで良いだろう」

「う……うん」

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