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18.王都に向けて1

「あれが王都のある陸地か?」

「ええそうよ。結構近いでしょ?」

 魔力を動力源として動くクルーザーサイズの船に乗り、賢吾はようやく見えて来た新天地に期待と不安が入り混じった表情を浮かべる。

 あの魔物に襲われた島からその船に乗って、約10分が経過した頃の事だった。

「でも、王都までは確かまだまだ掛かるんだろ?」

「ええ。また馬に乗って結構進まなきゃいけないわ」

 この船に馬を載せる事は出来たので、この先でまた何処かで馬を借りなければならないと言う事は避けられる。

 だが、あの異形の魔物に関する情報も集めたりしなければならないので結果的にそれが2人の王都への到着を遅らせる原因となって行くのだが、それ以外にも王都への道のりを遮る存在が出て来る事をこの時点での2人はまだ知る由も無かった。


「このままずっと海沿いに馬に乗って行けば港町のルバーブに辿り着くから、そこまでさっさと行きましょう」

「ずっとってどれ位だ?」

「うーん、20分位かしらね」

 それなら何て事の無い距離なので、まずはその港町まで行ってから色々とこれからの予定を練ると言うクラリッサ。

 それに大抵の町や村に行けば酒場があると言うので、その港町の酒場で王都までの情報収集の目処が立つ。

「それに貴方はこの世界の事をまだまだ知らない訳だから、ご飯を食べながら地図も使って説明とかした方が良いわね」

 そう……あの野営地で説明して貰ったにせよクラリッサの言う通りで、賢吾はまだまだこの世界の地理も常識も殆ど分からない状態だ。

 この世界の事をもっと知っておかなければ、この先で何か失敗して恥をかいたり色々と怪しまれる事があるかも知れないので、賢吾にとってはクラリッサのそのセリフはありがたいものであった。


 なのでその港町に辿り着き、まずは腹ごしらえと言う事で馬を預けた2人は酒場へと直行。

「どんな物を食べたいのかしら?」

「特にこれと言って無いが、この先まだまだ掛かるんだったら余り腹に来る物は控えておきたい」

「分かった。それなら野菜中心にメニューを選んでおくわね。その間にこれをテーブルの上に広げておいて」

 そう言いながら、クラリッサは荷物の中からバサバサと音を立てて大きな地図を取り出した。

 それを受け取った賢吾は、店員を呼びつけて料理を注文するクラリッサを横目にテーブルの上に地図を広げて行く。

 料理が済んでからでも別に良いんじゃないのか、と心の中で突っ込みながらも彼女の言う通りに地図を広げて準備する賢吾。

 その地図には海に囲まれた、地球で言えばそれこそユーラシア大陸を縦に少し引き伸ばして斜めに変形させた様な形をしている陸地が描かれている。


「縮尺が分からないから広さもさっぱり分からん……。とりあえず、俺達が今居る場所って何処なんだ?」

 困った顔つきの賢吾を見て、クラリッサは黒の皮手袋に包まれた長い人差し指で広げた地図の一点をトントンと差した。

「私達はこの島からこうやって渡って来て、今はこの辺りね。これは世界地図だから細かい所まではカバーし切れてないけど、大体の位置なら私も騎士団の任務で色々と回ってるから任せて」

「ああ、そうなのか」

 クラリッサの指を見て頷いてから、賢吾はそのまま地図に目を落としたまま考え込む。

 こうやって目の前に「世界地図」を広げられてしまうと、やはりハッキリと自分の目から入って来る「地球とは違う」情報に脳がパニックに陥りそうになる。

 けど、ここに来るまでの短い時間の中で色々と濃密な体験をして来た為か、さほど驚きはしなくなった。

 慣れは怖い。

 そう思う賢吾だが、いざそう考えてみると同時にある疑問が湧き上がって来た。

(もし地球に戻れないってなったら、嫌でもこの世界の生活に順応して生活して行かなければならないんだよな……)

 そう、まだ「地球に帰れる」と決まった訳では無い。

 そもそも地球への手掛かりがまだ何も見つかっていない以上、この世界に慣れて生きて行くしか賢吾の術は無いのだ。

(でも、地球に帰るって言う気持ちは持ち続けてなきゃいけないな)

 せっかく就職も内定している訳だし、元の世界への未練がありすぎるからこそ地球に帰りたい気持ちで賢吾は一杯なのだ。


 そんな賢吾の耳に女の声が聞こえて来る。

「……ぇ、ねぇってば!!」

「ん!?」

「どうしたのよ、ボーッとしちゃって」

 どうやらクラリッサに呼びかけられていたらしいが、決意をしていた賢吾は今まで全く気がついていなかったらしい。

「あー……すまん、少し考え事をしてたんだ」

 フーッと息を吐いて謝罪する賢吾を許したクラリッサは、料理が来るまでの間に世界の説明の続きをする。

「まあ良いわ。それで、私達王国騎士団の本部と王城があるのはここの王都シロッコよ」

「王都……」

 クラリッサの指が移動したその先には、一目でそれと分かる様に王冠のマークが描かれている場所があった。

「王都ってやっぱりでかいんだろ?」

「そりゃそうよ。陛下が住んでらっしゃる所だし城下町も王族の方々が造り上げて広げて来たんだからね。まぁ、他の国では都よりも大きな街がある国もあったりするんだけど」

 パキスタンとかオーストラリアみたいなもんだな、とその話を聞いて賢吾は納得すると同時に、この世界が何処か地球に似ていると感じた。

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