187.どうやって潜入する?
「……ふうん、2回目なのか。それで騎士団の知り合いでも無く選考会の選抜者でも無いなら俺達の仲間じゃないかと……」
話を聞き終えたエリアスは納得した表情を見せるものの、すぐにその表情が曇った。
「残念だが俺の部下でも無いな。そもそも俺もあんなカラスの鳥人の知り合いは居ない」
「そう、か……」
ならあのカラス鳥人の男は王国騎士団の手先でも無く、エリアス達の仲間でも無いまた別の勢力と言う事になる。
しかも彼は意味深な言葉を発して襲い掛かって来たのを美智子は覚えていた。
「確か、私達の実力が見たいって地下室で言っていた様な気がするわ」
「……出会うのはあれで2回目だったけど、敵なのか味方なのかはっきりしない立場で普通「実力を見たい」とは言わない気がするよな」
妙に言動が不自然だったそのカラス鳥人の事は確かに引っかかるが、今ここで考えても答えは出そうにないので今はまずこの森の先にあると言う2つ目の目的地に向かう事にした。
「あっ、そうそう……そう言えば俺達の荷物って何処にあるんだ?」
「それならそこだよ」
何時の間にかポケットの中の物が全て無くなっていたのでその新たな質問をぶつける賢吾に、エリアスはテントの隅に置かれている2人の荷物を指差した。
「ポケットに物が入ったままじゃ寝にくそうだったし、荷物自体も全然無かったから小さな袋に纏めておいたよ」
「ああ、どうもありがとう」
自分達の荷物と言えば、実際の所は地球から一緒に持って来てしまったスマートフォンと財布位のものだし、あの吸魔石もその袋に纏めて入れられていたのでこれで一安心した2人はスマートフォンと財布をそれぞれのポケットに突っ込み、吸魔石を賢吾が持つ形で出発する。
そしてその袋には紐がついているので、代わりに手頃な拳大の大きさの石をその辺りからかき集めて、詰め放題のビニール袋の如く詰められるだけ詰めておく。
「良し、これで手頃な武器になるわね」
満足そうに頷く美智子を見て、賢吾は驚きに若干呆れが混じった表情になった。
「そんな知識、何処で覚えたんだ?」
「え? テレビのサスペンスドラマよ。スチール缶の缶ジュースを袋に詰めて、それで撲殺した犯人が居たからそれで調べたのよ。そうしたら「ブラックジャック」って言う武器らしいわね、これって」
「……ああ、良く知ってるな」
テレビドラマもなかなか役に立つものだな、と思いつつそれ以外は何処から突っ込んで良いのか分からない美智子の行動に、賢吾は黙ってエリアスに続いて森の中を歩くしか無かった。
かなり広い森だと事前にエリアスから聞いていたものの、エルマン達が結んだと言う赤い布を月明かりが照らしてくれていたのでそれに従って進めば、目的地まではおよそ15分で辿り着く事が出来た。
「遅かったじゃねえか」
「すまない、腹ごしらえをしていた。エルマンも食え」
エリアスが事前に鷹を飛ばして連絡を取っていたエルマンが、その目的地の前で腕組みをして怠そうに待っていた。
待たせてしまったせめてもの詫びに、賢吾と美智子に渡した物と同じ食料と水のセットをエルマンに渡すエリアス。
それをいそいそと食べ始めながら、エルマンはエリアスに対して目的地の様子を話し始めた。
「あそこなんだが……どうやらもう使われていない砦を密かに改造して魔物の培養所に使っているらしい」
エルマンが指を差す方向を見ると、1つ目のあの研究所よりも少し大き目の砦が月明かりに照らされて、まるで魔王の城の如く一行を待ち構えている。
「入れそうな場所はあったか?」
「行けそうなのは正面の出入り口と裏口だ。だが防壁魔術によって侵入者の対策が砦の全体に対してされているし、それを潜り抜けられたとしても元々が砦だから上の見張り台から騎士団員の奴等が見張っている。とても俺達じゃ無理だぜ」
そう言いながらエルマンは水を一口飲み、続けて賢吾と美智子の方を見た。
その何かを期待する様な視線を受け、その先は言われずとも賢吾も美智子も理解出来た。
「要するに、また俺達に中に先に入って色々とやって欲しいんだろう?」
「ああ、頼む」
「……でも、別の意味でもまだ入り難いと思うぞ」
「え?」
意味深なエルマンのセリフに美智子がキョトンとすれば、彼は目の前にそびえ立っている砦の出入り口を小さく指差した。
「今はまだ気が付かれていないから良いけど、入り口の扉の両側にも抜かり無く見張りが居る。それぞれ槍を持って武装しているし、正面の出入り口の見張りを倒しても上からも見張っている奴等が居るからこのまま突っ込むのは無理だ」
「となれば入って行けそうなのは裏口だが、木々の間に隠れながら大きく迂回して進まなければならないだろうな」
エリアスがそう言うのを聞き、ふと地球の思い出が賢吾の頭の中にフラッシュバックして来た。
(まるで江戸時代とか戦国時代の忍者だな……)
それでも上手く潜入する為には忍者ごっこをしながら行くしか無さそうなので、行くと決めたなら即行動とばかりに2人は用心しながら砦を横目に進み始めた。