186.2つ目の目的地
何事かと賢吾と美智子が恐る恐るテントの中から外の様子を覗いてみると、そこにはランタンを片手にワイバーンから降りて来るエリアスの姿があった。
「あれ、起きたの?」
彼は2人がテントの隙間から覗いている事に気が付くと、ようやく起きたかと言う安堵の表情で話し掛けて来た。
「ああ、何とかな……。それよりも一体何があったんだ? どうして俺達はここに居る?」
テントの中に入って来たエリアスに矢継ぎ早に質問をする賢吾だが、そんな彼と美智子にエリアスは水の入った皮袋と干し肉、ロールパンの食事を手渡す。
「腹ごしらえしながら話すよ。で、食べたらテントを畳んですぐに出発しよう。2つ目の目的地でエルマンが待ってるからな」
「わ、分かった」
早く質問に答えて欲しい気持ちで一杯だったが、言われてみれば確かに腹も減ったので賢吾と美智子は素直に食事を頂く事にする。
「余り時間が無いから質問は纏めてくれよ」
「ん~、それじゃあここに来るまでに私達はどうなったのか、それから何でここに居るのか、ここは何処なのか、私達と戦ったカラスの男の人は何者なのか、最後にあの建物での目的は果たせたのか。この5つを知りたいわ」
「多いな……まぁ良いけどさ」
「纏めろって言うからこれでも纏めたのよ」
だから早く答えてよね、と美智子に急かされたエリアスは1つ目のパンを飲み込んでからお望み通りに答え始める。
「答えるのは順番通りじゃないからそれは分かってくれ。……それじゃあまずここは何処なのかって話だけど、ここはあの実験施設から大きく離れて飛んだ、魔術都市イズラルザの近くの森の中だよ」
「ああ……前に来た場所だな。で、何でここに来たんだ?」
その街の名前を聞くのは何だか久しぶりだ、と思いつつ賢吾は続きを促す。
「とりあえず離れないと色々と危険だったから、せっかくだから次の目的地の近くまで行ってしまおうと思ってね。だからここまで来たんだ」
「と言う事は、地図で言う所の2つ目の目的地はイズラルザにあるの?」
「正確に言えばこの森を抜けた先にある。けどここの森は結構広くてね。本当はイズラルザの街の中で休みたかったんだけど、俺は騎士団から指名手配されているからこの夜更けで食料と飲み物を調達して来るだけで精一杯だったよ」
エリアス曰く、その食料と飲み物のストックが切れてしまったのでこっそりと街に買い出しに出掛けていたのだとか。
「この森には魔物も出没するんだけど、俺のワイバーンは夜目も利くからついでに魔物の駆除もして来た。そもそもその前にエルマンの部隊が魔物討伐をもう大方していたから楽だったよ」
「じゃあ、食べ終わったら徒歩でそこに向かうんだな?」
「ああ。エルマン達に赤い布を目印として目的地までのルートの木に巻き付けて貰ったから迷う心配は無い」
自信たっぷりにそう言うエルマンの横で皮袋から水を飲んでいた美智子が、次の質問に答える様に促す。
「朝を待って入っちゃダメなの?」
逆にその方が森を歩いて迷わなくて済むだろうし、目的地に辿り着くまで魔物を回避出来るメリットもあるだろうと考えた美智子は6個目の新たな質問をぶつけるが、エリアスは「はぁ……」と溜息を吐いて首を横に振る。
「あのね、俺の話聞いてた? 確かに俺はそれも考えたが、最初のあの研究所に向かう前に時間が無いって話をしただろう? で、君達が気絶したままカラスの鳥人に抱えられてあの建物から出て来たから、君達が内部で色々やってくれている間に一旦あそこを離れて、集めて戻って来た部下達にあの施設の捜索を任せて俺はそのカラス鳥人から君達を預かってここまで飛んで来たの。そしてこうして夜になっちゃったけど、張ったこのテントの中で寝かしておいてもまだ目が覚めないから魔物の討伐とか食料を買いに出かけていたの。俺達には時間が無いから夜の内に敵に気がつかれない様にさっさと行こうって話になったんでしょ、ねえ?」
「……そんなムキにならなくても……」
美智子に続いて思わず「必死だなー」と賢吾が呟いてしまう位にエリアスがヒートアップしたが、今の長いセリフの中で幾つかの質問にも答えられていたので、そのヒートした彼を鎮める為にも賢吾は確認をする。
「つまり俺達はそのカラスの男に助け出されたって事なのか。そしてあの建物の捜索はあんたの部下に任せているから現在調査中……と」
「そうだよ。それで……俺が答えていない質問って後どれだけあったっけ?」
美智子が指を折って数えてみて、最後の1つの質問を思い出したので訪ねてみる。
「カラスの男の人ね。あの人が何処に向かったのかを知りたいんだけど……そもそもあの人って貴方の知り合いなのかしら?」
しかし、エリアスからの答えはNOだった。
「え? 君達の知り合いじゃないのか?」
「違うよ。そもそも俺達の仲間だったらこんな質問はしないだろう」
「それもそうか。あの男は君達を両脇に抱えて建物の中から出て来たんだけど、あの男と何かあったの?」
素直に話すべきか一瞬迷う賢吾と美智子だが、やっぱりここは素直に話しておいた方が良いと思い直してあの地下室の出来事を話し始めた。