183.やっぱりイレギュラー
美智子基準でイレギュラーな対応をした騎士団員が襲い掛かって来たその瞬間、デジャヴの感覚が美智子を襲う。
「きゃっ!?」
グイっと後ろに引っ張られるその感覚は、つい最近美智子が経験した……。
「下がってろ美智子!!」
「賢ちゃん!」
またも寸での所で美智子を抱き抱え、全力で後ろに引き倒してロングソードの凶刃から逃れさせる事に成功した賢吾は、美智子の代わりに騎士団員とバトルスタート。
このやや狭い通路の中ではロングソードを上手く振るえないので、さっきの横薙ぎの様な横の攻撃はその1発だけで、後は振り下ろしと突き主体の攻撃を仕掛けて来る騎士団員。
しかし突き攻撃主体で来られればリーチ的にかなり不利なので、そこは賢吾が事前に用意していた物で防御しに掛かる。
「くっ!!」
それは幾つも壁に掛かっているロウソクの燭台。
その内の1つを壁から取り外し、盾代わりにして上手く活用する。
「ふっ!!」
通路の幅は狭いが高さは十分にあるので、その高さを利用して振り下ろされるロングソードをギリギリで燭台で上手く受け止めてから一気に壁際へと刃を押し込む賢吾。
だが、どうしても相手が身に着けている鎧やそもそもの体格の違いでパワー負けをしてしまいロングソードごと逆に押し込まれてしまう。
「ぬん!!」
「ぐぅ……う……!!」
そんな2人の戦いに割って入ったのが美智子で、ロングソードを押し込んで踏ん張っている騎士団員の片足目掛けてタックルをかまし、地面へと引きずり倒す形を取った。
「ぐえ!?」
賢吾とのバトルに集中していた所でいきなりバランスを崩されて地面に倒れ込んだ騎士団員は、すぐにリカバリーする事が出来ずに美智子を蹴り飛ばして足の拘束を解除してから起き上がるまでタイムロスをしてしまった。
その立ち上がりかけた騎士団員の頭目掛け、全力で賢吾が握り締めた燭台が振り下ろされる。
「がはっ……」
頭に強い衝撃を受け、そのまま意識を失って撲殺された騎士団員はピクリとも動かなくなった。
「くそ……イレギュラーな事になった……」
「早く解除しに行かないとまずいわね」
「ああ、そうだな」
とにかく大急ぎでこの先の地下室でやらなければならないであろう、膜の解除に必要な作業をするべく賢吾と美智子はその地下室の扉を開けて先に進む……が。
「あれ、誰も居ないぞ?」
「本当ね」
イメージしていたよりもだいぶ狭い……それこそ4畳半のワンルーム位の広さの部屋の中に、大きな赤いスイッチが「いかにも」とその存在をアピールしている、消防や警察のオペレーションセンターにあるオペレーションシステムの様な大きな機械があった。
「このスイッチを押せば良いのかしら?」
「と言うか、押せそうなのはそれ位しか無いだろうな」
そもそもこの中世ヨーロッパ感溢れるファンタジーな世界にこんな機械があったのかと今更ながらに驚く2人だが、考えてみればここは地球の中世ヨーロッパでは無くて異世界の王国なのだから自分達の知らない未知のテクノロジーがあっても不思議では無いだろう……と心の中で結論付け、美智子が恐る恐ると言った手つきでそのボタンを押してみる。
するとその瞬間、ピッと音がしてヒューン……と機械が止まった。
どうやらこれで膜のシステムが停止したらしいので、後はさっさとここから脱出するだけだ。
「ふむ、それなりの実力はある様だな」
「……!?」
目的は達成したしここにはもう誰も居ないからこれ以上用は無い、と考えて退散しようとした賢吾と美智子の後ろから、突然ハスキーボイスが聞こえて来た。
賢吾は素早く振り向き、美智子はビクッと肩を震わせつつ恐る恐る振り返ったその視線の先には1人のカラス獣人……いや、カラス鳥人が腕組みをして偉そうなポーズで仁王立ちしている。
王国騎士団の制服は着ていないので騎士団員では無いだろうと考える賢吾と美智子。
しかし、その纏っている雰囲気は友好的なのか敵対関係にあるのかが分かりかねるものだった。
そして、そのカラス鳥人は賢吾も美智子も見覚えのある人物だった。
「あんた、もしかしてあの時襲撃して来た……」
「久しぶりだな」
前にエリアス達の屋敷から脱出して捕まってしまった後、今度は選考会のメンバー達が屋敷にやって来て2回目の脱出のチャンスをものにした賢吾と美智子が脱出の為に屋敷の中を進んでいた時に、ロングバトルアックスで襲い掛かって来たカラス鳥人だった。
しかもたった今それを彼自身も認めたし、背中にはその時のロングバトルアックスが背負われている。
「一体誰なのよ、貴方は?」
名乗ってくれる事を祈りつつ美智子はカラス鳥人の男の正体を尋ねるが、カラス鳥人は首を横に振る。「まぁ、そう固くなるな。今の御前達の実力を試しに私はここにやって来たんだ」
「は?」
実力を示す……と言う事は嫌な予感しかしない。
その嫌な予感を跳ね返すかの様に拳とロウソクの燭台を構える美智子と賢吾の前で、満足そうな笑みを浮かべてカラス鳥人も自分の武器のロングバトルアックスを構えた。