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181.宝石の真実

 だが、その案内の途中で賢吾と美智子に拘束されたままだった魔術師の様子に異変が起こり始める。

「……う……」

「ん?」

「何か、だるい……」

 明らかにトーンの低い声でそう呟く魔術師。

 自分達が拘束しているからだるくなったんじゃないか? と思う賢吾と美智子だが、顔色が明らかに悪くなって来ているのが分かった。

 流石にそこまでの事態はシミュレーションしていなかった地球人2人は、一旦手近なドアに入って魔術師の様子を確認する。

「お……おいあんた、大丈夫か?」

「う……ん……んん……何かダメだ……御前達の方から得体の知れない気配がするんだ。私はここに残して行け……」

「え、いやいやちょっと待ってよ。私達の何処にそんな気配がするのよ?」


 拘束したのが原因で気分が悪くなった、と言うのなら緊張から来る疲労がピークに達した事による肉体的、それから精神的な疲労が出て来たのかと思いきやどうやら違うらしい。

「なぁ、御前達って何か変な物を持っていないか?」

「変な物?」

 唐突に疑われた賢吾はキョトンとするが、先にある事を思い出したのは美智子だった。

「あ、ねえ……もしかしたらこの宝石の事じゃないかしら?」

 美智子がそう言いながらゴソゴソとスカートのポケットから取り出したのは、レメディオスの屋敷で手に入れたあの赤い宝石だった。

 そしてそれを目にした瞬間、魔術師が錯乱し始める。

「ひいっ……!? や、止めろ! それを私に近づけるんじゃない!!」

「えっ……?」 


 その光景を見て賢吾も、この施設に入る前にこの宝石「だけ」をエリアスから渡された事とその時にとんでもない事を言われたのを思い出した。

 時間はワイバーンを降りて施設の前まで歩いて行く時までさかのぼり、賢吾と美智子が回収して来たアイテムが入っている袋の中からエリアスがあの赤い宝石を取り出したのがその始まりだった。

「それと……この宝石は君達が持っていてくれないか。余り俺に近づけないでくれ」

「え、どうして?」

 国宝だと言われているあの赤い宝石を袋から取り出し、わざわざそれ「だけ」を地球人2人に預けるエルマン。

 続いて美智子の質問には質問で返す。

「逆に聞くけど、君達はこれを持っていて自分の身体に何か変わった事って無かった?」

「変わった事? ……ううん、私は特に無いわよ」


 だがそこで、賢吾はあの屋敷の地下で戦った後の事を思い出した。

「俺も無い……けど、気になった事なら1つあるよ」

「何?」

「美智子にあの屋敷で部屋を調べて貰っている間、俺は一旦地下の工場らしき所に戻ったんだ。そうしたらそこで俺と美智子が倒した敵の表情に変化が起きたり、まだうめいていた敵が段々うめかなくなったりしたんだよ。それと関係があるのか?」

 そう質問され、エリアスは明らかに悪そうなな顔色で答える。

「その宝石は……他の生物の魔力を吸い取るって噂の国宝だったのだが、どうやら本当だったらしいな」

「へ?」


 話がいきなり大きくなった。

 そしてかなりファンタジー「らしい」話が出て来たので、もっと詳しく聞いてみる事にする。

「ちょ、ちょっと待て。そんなやばい物なのか、この宝石は?」

「ああ……。これは人間だけで無く獣人、それから他の動物に果ては魔物までありとあらゆる生物の体内に蓄積されている魔力を吸い取る宝石……通称「吸魔石」だ」

「魔力って確か、この世界の全ての生物の中にあるもので……それが無くなると最悪の場合は死に至ると?」

「そうだ。だから魔力を吸い取られる前に遠ざけてくれ」

「あー……成る程ね……」

 宝石の名前の漢字表記とその効果をイメージして成る程、と納得した表情で意味を察する地球人2人。


 だが気になるのは、その宝石を所有……と言うよりも実験に使用していたあの屋敷の研究室(?)の人員達の気分が悪くなっていなかったのかどうか、それから賢吾と美智子が向かう前からその屋敷の中に居た人間や獣人に関しても同じ事が言えそうな気がするのだが、その辺に関してはエリアスも良く分からないらしい。

「それは俺にも分からない。ただこれは推測の域にしか過ぎないんだが、魔力を吸収するのは恐らく距離によって違うと思う」

「距離か……」

 じゃああの研究室(?)の様な場所に居たあの男女2人に関しては、宝石の近くに長い間居た様な口振りだったのでそれに関しては矛盾が出て来る。

 しかし、今の時点ではいずれも憶測の範囲を出ないのでとにかくまずはここに乗り込んで……と言う事で宝石を持ったままこの施設の中に来てしまった訳だが、宝石を恐れているのはエリアスだけで無く魔術師も同じらしい。


「く……防壁魔術を……うぐっ……!!」

 距離が近くなればなる程魔力が吸い取られるのが速くなる様で、自分の身体に魔術を掛けようとしていた魔術師の意識が無くなってしまうまでにさほど時間は要しなかった。

 それを見て、美智子は魔術師を部屋に放ったまま次の作戦を思いついた。

「良し、地下室に行ってみましょう。この状況を上手く利用出来そうな作戦を思いついたわ」

「え……?」

 一体それはどう言う事なのか?

 自分にはさっぱり分からないので歩きながら説明してくれ、と賢吾は美智子に頼みつつ2人は魔術師を残したまま部屋を出て再び地下室に向かって歩き出した。

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