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17.急展開

 結果としてはクラリッサの持っている斧でも同じ反応が起こってしまった。

 彼女の斧を賢吾が受け取った瞬間、短剣の時と同じ現象が襲い掛かったのだ。

 そして斧だけでは無く、フードの男から没収してあったあの弓も実際に握ってみると同じ事が起こった。

 この一連の流れの中で、次第に賢吾にもクラリッサにも嫌な予感が生まれる。

「もしかして、俺は武器が持てない……のか?」

「ま、まだ分からないわよ! ほらその、たまたまこの3つの武器が駄目だったってだけで他にもまだ試していない武器は沢山あるわ。王都に着いたら城の武器庫に行きましょう。そこでまた色々と試してみればきっと違う反応があるかも知れないじゃない!」

「前向きだな……」

 この3つの武器で嫌と言う程自分は右腕に痛みや痺れを覚えたと言うのに、それでもクラリッサは希望を捨てようとしていない。

 ポジティブな性格なのだろう、と彼女を心の中で評価しつつ、賢吾は再びクラリッサに連れられて波止場へ……とはいかなかった。

 先にこの縛り上げているフードの男の尋問が先だからだ。


「おい、御前はどうして俺達を襲撃したんだ?」

 縛り上げておいた男に数発ビンタをかまして、文字通り叩き起こしてから尋問を始める賢吾。

 自分達の命を狙われたとあったら、当事者としては何としてでも事情を聞き出したいのが当たり前だ。

 事実、このフードの男に賢吾は殺されかけているのだから。

 なので尚更事情を聞き出さなければならない賢吾が怒声交じりに男に問うものの、男はプイッと横を向いたまま黙って口をつぐむ。

 当然ながら、そんな態度は健吾の怒りを更にヒートアップさせるだけだ。

「そう言う態度続けるんだったら、こっちとしてもこれ以上の手段に出るしか無さそうだな」

 もう2、3発ブン殴っても良さそうだなと賢吾は考えるが、不意にその時、バサバサと言う音が何処からか賢吾とクラリッサの耳に聞こえて来る。

「ん?」

「な、何かしら?」

 2人はキョロキョロと辺りを見回してみるものの、その巡らせた視線には何も捉える事が出来ない。


 人間、なかなかこう言う時は自分の頭上には注意が向かないものである。

 その反応の遅れがこの謎の男を救うきっかけになった。

 その音は次第に大きくなって来て、ようやく賢吾とクラリッサが音の方向に視線を向けるまでになる。

「え……うわっ!?」

「きゃっ!?」

 2人が気付いた時には既にギリギリの所、賢吾とクラリッサの頭上を少し掠める位のラインで飛んで来たその生物が男を上手くキャッチした。

「な、何だよあれは……!」

 賢吾が空を見上げてそう呟くのも無理は無い。

 何故なら、彼の視線の先には地面に大きな影を作って悠々と空を飛ぶ鳥……にしてはかなり大きなそのシルエット。

 前に冒険ファンタジー洋画の中で見た事がある、空想の中でしかあり得ないそれはまさしく……。

「ドラゴン……?」


 呆然と呟く賢吾の横で、クラリッサが斧を構えた厳しい目つきで訂正する。

「いえ……あれはワイバーンね。ドラゴンの仲間と言えば仲間だけど、少し違う生物よ」

 2人の視線の先で、ワイバーンは男をガッチリと掴んだままあっと言う間に空の彼方へとその体躯を持ち上げて飛び去って行った。

「逃げられたわね。あれは恐らくさっきの男の仲間か……もしくはあの男の騎乗用かも知れないわ」

「何で分かるんだ?」

 クラリッサは背中に斧を背負って、賢吾の方に視線を向けてから再度口を開く。

「この世界の移動手段は馬とか馬車が一般的なんだけど、ああやってワイバーンを騎乗用の相棒にしている人間も居るのよ。

 とにかくあの男の事は色々と報告が必要な様ね」


 あの男が、さっきの騎士団を襲った魔物と関係があるのかまでは詳しく分からない。

 だが命を狙われたと言うのは紛れも無い事実なので、どちらにせよ王城で報告が必要だとクラリッサは言う。

「あの男、また襲って来るかな?」

「分からないけど……王都に着くまで油断は禁物ね。さっさと王都に辿り着いてしまえば幾らかは良いだろうから、早く舟に乗りましょう」

「ああ、分かった」

 何にせよ、あの謎の男の凶刃から逃れる事が出来て一安心の賢吾。

 だが、彼はまだ知らない。

 この襲撃は、これから彼を待ち受ける長い長い旅路のプロローグにしか過ぎないのだと言う事を。



「あいつ……俺の魔術がまるで効いていないみたいだったが……」

 既に使われていない古い砦の中庭でロープを何とか解いた男は、長年連れ添って居るこの相棒のワイバーンの背中を撫でつつ休んでいた。

 騎士団の中にまさかあんな伏兵が居たなんて。

 魔術の効果がまるで見られない様な人間と言うのは、今までの人生の中では初めての遭遇である。

 人間型の魔物と言うのは居ない訳では無いが、そう言う魔物は既に朽ち果てている亡骸のスケルトン位のもの。

 だがあの男はきちんと喋っていたし、あのナイフで仕留める事が出来る寸前だったから間違い無く生きている人間と言えるだろう。

「更なる調査が必要みたいだな……」

 騎士団をこれから先も狙い続ける為には、あの男の素性は色々と調べておかなければならないらしい。

 まだまだ自分の野望達成には遠そうだと、男は1つ溜め息を吐いた。

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