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175.命からがら

 空き地から賢吾とは逆の方向へ向かって駆け出した美智子は、賢吾が自分と一緒に来ていない事に気づいた時にはもう遅かった。

(……戻る暇は無いわ。こうなったら私1人で逃げられる所まで逃げなきゃ!! 賢ちゃんも無事で居てね!!)

 心の中で美智子は賢吾の無事を願いつつ、この世界に来てから今までトレーニングして来た体力面での不安を抱えながらも今はとにかく逃げる事にする。

 後ろからは槍を携えたロルフや他の騎士団員が追い掛けて来るので、必死に足を動かして逃げる。

 しかし、彼女自身もこのまま何もせずにただ走ってても逃げ切れないと分かっている。

(色々と被害は出ちゃうけど、それでもやるしか無さそうね)

 自分の良心に反する行為も頭の中に考えざるを得ないこの状況で、路地を抜けて少し広い通りに出てから早速彼女はそれを実行しに掛かる。


 足の速さやスタミナでは当然長年鍛錬を積んで来ている騎士団員達には勝てないので、その足を止めてしまえば良いのである。

 その為に使える物は何でも使う。

 例えばまず、自分が進んでいる道の前方で荷物の積み込み作業を見つけたので、その作業している作業員に心の中で謝ってから荷物に目をつける美智子。

 紐で崩れない様に縛られた上で高く積まれた小さい木箱の山から、少しずつその木箱をバケツリレーの要領で馬車に積み込んでいるので、美智子は縛られている紐をその近くにあるナイフを手に取って切って木箱の山を崩した。

「ええいっ!!」

「ちょ、ちょっと何するんだ!!」

 作業員の1人がそれに気がついて止めようとするものの既に遅し。

 紐を切って崩れかけている所に全力でタックルをかませば、その木箱の山は丁度その道を塞ぐ形で崩れて散乱する。

 ガシャーン、バリーンと何かが割れる様な音も時折り響き、煙を上げながら散乱する木箱に後続の騎士団員達はロルフを含めて足を取られたり、思わぬ形で足止めを食らってしまった。


「うおおっ!?」

 先頭を走って来ていたロルフが木箱の山の下敷きになるのを振り返りながら見るが、自分と賢吾はあの男に既に殺されかけているので罪悪感は木箱を倒した位しか湧かない。

 そもそも罪悪感を湧かしている暇なんて今の自分には無い、と美智子は頭を切り替えて前を向いた。

「くっそ、あのアマぁ……絶対に逃がさねえっ!! 捕まえろ!!」

 王国騎士団員に求められる品性を微塵も感じさせない言葉遣いで、自分と同じ様に立ち上がった部下の騎士団員達に、ロルフは槍をビュッと振って美智子を再び追い掛ける様に指示を出した。

 当然ロルフ自身も再び追い掛け始めるのだが、これによって美智子に大きく距離を離されてしまった。


 だが、そんな美智子は1人で騎士団員達は何人も居る。

 後ろから追い掛けて来る騎士団員達以外にも、騎士団のネットワークで先回りをしていた団員達が美智子の行く手を阻もうとする。

(くっ……!!)

 露店が数多く立ち並ぶその通りで、何か使えないかと美智子の目に飛び込んで来たのは更に山盛りになった香辛料。

 以前料理を教わったり教えたりしている時にあのコック長から聞いた話によれば、むき出しのままで量り売りをしているのが一般的な香辛料らしいので今度はそれを使う事に。

(食べ物無駄にしてごめんなさい!)

 まずはその並んだ香辛料の中から粉末香辛料の一皿を、皿ごと目の前からやって来ていた騎士団員達にぶちまける。

「うっ……うわああっ!?」

 香辛料が空中にぶちまけられて自分達に降り注ぎ、目から鼻から粉末状になって刺激となって襲い掛かる。

「げはっ……げほっ!?」

「ぎゃあっ、目……目があ!?」


 今度は後ろから追いすがって来ている騎士団員達にも同じ様に別の粉末香辛料をぶちまけ、その隣に売り出されているペースト状の香辛料を手で鷲掴みにして更に美智子は足止めをする。

「くそがあっ!!」

 粉末状の香辛料の襲撃に何とか耐えるロルフだったが、それでも足が止まって隙だらけの所に美智子の香辛料鷲掴みの手が顔面に襲い掛かる。

 ベチャッと嫌な音がして、美智子の手に握られた香辛料がロルフの顔面全体に直接塗り込まれる。

「ぎゃはあああっ!?」

 槍を取り落として顔面に手を当て悶え苦しむロルフの腹部に膝蹴りを2発かまし、全力で頭に肘を落として彼を地面に這いつくばらせてから逃走を再開する美智子。


 そのまま右へ左へ方向転換を繰り返し、やがて広めのストリートを真っすぐ進んで行くと、目の前の交差点の右側から全力疾走して来た賢吾と丁度鉢合わせた。

「け、賢ちゃん!?」

「美智子!!」

 偶然ではあるが2人が合流した事で、賢吾が直進していた方向にそのまま一緒に進む美智子だったが……。

「げっ……!!」

「い、行き止まりよ!?」

 何とその先で路地が行き止まりになっている。

 厳密に言えば行き止まりは高めの塀になっており、それを乗り越えて行けば逃げ切れそうだ。

 そう思った賢吾は即座に駆け出し、助走をつけて塀に足を一瞬引っ掛けてジャンプして飛び付く。

「美智子、全力で跳べ!!」

「う……うん!!」

 塀の上から身を乗り出し、片手を出しながら叫ぶ賢吾に向かって美智子も全力でジャンプ。

 後ろから迫って来ていた騎士団員達に武器を投げつけられながらも、間一髪で手を掴んだ美智子はその多数の武器に当たる事無く引っ張り上げられた。

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