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163.塵も積もれば山となる

 大男がロングソードで斬り掛かって来るが、スピードが遅いので賢吾はあっさりかわしてミドルキックを入れる。

 しかし、着込んでいる銀色の鎧のせいだろうか余り攻撃が効いていない様だ。

「はっはぁ! 全然効かねーぜ! どんどん行くぜぇ!!」

「くそう……!」

 大男の攻撃は典型的な威力重視派。その為に少し位スピードが少し遅くても、それを補う程のパワーで相手を圧倒する。

 加えて大男自身かなりガタイが良い為、そのパワーにますます拍車を掛けている。

(ぜ、全然堪えている様子が無いぞ、こいつは!?)

 その一瞬の賢吾の驚愕によって出来た隙を見逃さず、大男は賢吾の腹に強烈な前蹴りを食らわす。

「ふんっ!!」

「ぐおああっ!?」

 文字通り吹っ飛んで地面に背中から落ちる賢吾。しかしまだ戦える。

(ちっ……頭を打たなかっただけ良かったぜ……)


 だがその時、重要な事に賢吾は気が付いた。

(ん、頭……そうか!!)

「おらああああっ!!」

 すぐさま駆け寄って斬り掛かって来る大男に対し、賢吾は横に転がって回避して足を回しながら立ち上がる。

 その勢いでロングソードを空振った大男の顔面に、賢吾は強烈な回し蹴りを入れる!!

「ぐうぉ!?」

(良し、効いてるぜ!!)

 そう、ダメージを与えるには鎧や筋肉でガードされていない首から上の部分を狙えば良いのだ。


 それでもハルバードやロングソードでの攻撃に加えて、巧みにキック技も繰り出して賢吾を翻弄する大男。

 左、右とキックを放って来るので賢吾もそのキックに足を合わせて対抗。更に振り被って来たハルバードも身軽な動きで避ける。

 が、避けた後の隙を突いて大男は前蹴りを賢吾の腹にヒットさせ、体重が軽い賢吾はその衝撃でまた後ろに転がる。

「ぐおうっ!」

 倒れ込んで起き上がろうとした賢吾の腹を、更に大男は思いっ切り蹴り上げる。

「がはっ!?」

 物凄い衝撃が彼の腹を襲ったものの、それでも何とか立ち上がった賢吾に再び大男が前蹴りを放った。


 その衝撃で、賢吾は後ろの壁に背中から叩き付けられた。

「がはっ!?」

 流石に今回は効いた。

「ぐぅ……あっ……」

「ははっ、雑魚が!! 死ねえっ!!」

 笑いながらロングソードを振り上げる大男の姿を見て、賢吾は火事場の馬鹿力で素早く自分のそばにある鉄製の机を自分の元に引き寄せてギリギリブロック。

 これが木製の机だったらそのまま机ごと身体を叩き割られていただろうが、このおかげで賢吾は命拾いした。

 それでも安心している暇は無いので痛みを堪えつつすぐに立ち上がると、大男がまたもや前蹴りを放って来たので咄嗟にその左足を賢吾は両手でキャッチして捻る。


「ぐっ!?」

 その足を放り投げて大男のバランスを崩し、ようやく立った状態での戦いに持ち込む。

 最初の時と同じ様に大男のキックに上手く足を合わせて対抗する賢吾は、また前蹴りを食らわない様に先手必勝で大男の横顔にジャンプからの肘を入れ、そこからお返しに自分も大男の股間目掛けて前蹴り。

(くっ!!)

 当たったら真面目に命が無くなるだろうその大男の大振りな攻撃なのだが、バトルを始めた時から賢吾が感じていたのは避けやすいと言えば避けやすい事だった。

 そこでその大振りな攻撃に対抗する為に、賢吾は自分が勝っているスピードで翻弄して行く作戦に出る。

 大男のハルバードを振るスピードは、それまで賢吾の認識からしてみればかなり遅い部類に入る。

 今の状況では素手の日本拳法の方が圧倒的に瞬発力が上だ。

 しかし攻撃力はハルバードの足元にも及ばないので、どうやって決着をつけるべきか悩む所である。


(こうなったら……何が何でもこの状況を切り抜けなきゃな!)

 まずは大男が振り被って来たハルバードを避け、それからボディブロー、右ストレート、そして顎へのアッパーと繋げて行く。

「くほっ……?」

 賢吾の同じくアッパーによって、鎧を身に着けていない急所を打ち抜かれた大男は一瞬意識が飛んだ。

 そして前のめりになった彼の首を両腕で抱え込み、同じく鎧が装着されていないみぞおち部分を目掛けて膝蹴りを10発程連続でかます。

「や、や、やぁっ!!」

 そのまま上から下へと、アッパーの要領で大男の腹にボディブローをかました。

「ぐへ……っ!?」

 塵も積もれば山となる。

 1発1発は確かに弱いながらも、そんな衝撃の連続で四つん這いになり地面にうずくまる程ダメージを受けた大男の首に手をかけ、賢吾は一気に捻り上げた。

「このぉ!」

「ぐがっ……」

 ゴキッと言う鈍い音が大男の首から聞こえ、そのまま大男の身体からは一気に力が抜けてドサリと地面に崩れ落ちて彼は息絶えたのであった。


 と、その時。

「ん?」

 崩れ落ちた男のズボンから何かがシャリッと金属音を立てて落ちる。

 賢吾がその落ちて来た物に目を向けてみると、それは所々さびて茶色くなっているペンダントらしきアクセサリーだった。

 何だこれは……と思いながらも美智子との合流もしなければならないので、ひとまず賢吾はそのアクセサリーを回収して金髪の男の死体を残したままその部屋を後にするのだった。

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