161.もう1つのバトル
一方、美智子と女魔術師のバトルはそれなりのレベルで熾烈な争いになっていた。
中庭には少しだけではあるものの洗濯物が干されており、その洗濯物の中から美智子は長いタオルを掴み取って、それをブンブンと振り回しながら魔術師の女に向かう。
「うわ、くっ!!」
魔術師の女が怯んだ所に前蹴りを食らわせ、もう1度タオルを振り回してぶつけようとした美智子だったが、そのタンクトップを掴まれてしまい逆に膝を蹴りつけられて美智子はダウンしてしまう。
「ぐあ!」
「こうしてやるわよ!」
グルグルと美智子の首にタオルを巻きつけて、力任せに首を絞め上げる魔術師の女。
だが、美智子は力を振り絞ってダウンしたままの体勢から身体を捻りつつ、その勢いで後ろに向かって下段回し蹴り。
「ぬあ!!」
魔術師の女もそれで地面に膝を着き、2人は同時に立ち上がって今度はパンチ合戦へ。
右、左、右、左と美智子に向けて魔術師の女がパンチを繰り出す。
しかし美智子も、今までガードの特訓を賢吾や騎士団員達とやって来た事を思い出しながらそれを腕でしっかりガードして、最後の右のパンチを右手でキャッチして、その右手を掴んだまま自分の背中に右手が来る様に身体を半回転捻り、空いている左手で魔術師の女の首を掴む。
「ぐっ……!!」
美智子の左腕を掴んで魔術師の女も首を絞め上げるのを中断させようとしたが、そのまま美智子は魔術師の女の後ろに回り込んでその身体を後ろから抱き抱える形になる。
そのまま押し倒して伸し掛かろうとするものの、魔術師の女も地面に着いている両足に力を込めて踏ん張って持ち堪え、更に目の前にある大きな岩に右足を着いて抵抗する。
「うお、ぐっ!」
そして逆に空いている両手を使って、美智子を前方へと投げ飛ばして背中から叩きつけた。
「ぐあ!」
しかしギリギリ岩に当たらなかった美智子は、すぐにうつ伏せの状態に身体を反転させて腕の力で起き上がりつつ、両足で魔術師の女の足を蹴りつけて逆に地面に転ばせる。
「うっ!」
だが魔術師の女はすぐに立ち上がってハイキックを繰り出し、そのキックは美智子の顔面にヒット。
「ぐへ!?」
今度はうつ伏せに地面へと倒れ込んだ美智子だが、さっきと同じ様に再び腕の力で起き上がって間髪入れずに魔術師の女の股間を思いっ切り足で蹴り上げた。
「うはぁ!?」
急所の股間にダメージを食らって変な声を出す隙だらけの魔術師の女に対し、美智子はあの王都シロッコの時の逃走劇を思い出した。
(そ、そうだわ!!)
さっきタオルを拝借した物干し竿を今度はそのまま拝借し、身体をグルッと横に1回転させてその勢いのまま魔術師の女の側頭部を目掛けて物干し竿を振り抜いた。
「がっ……」
うめき声を短く上げて女が地面に倒れ込み、そのまま気絶して美智子も何とかバトルを制したのだった。
「や、やった……」
無我夢中だったとは言え、あの船の上で襲い掛かって来た男相手に石をぶつけて勝った時以来の、美智子が自分の手だけでバトルに勝利出来た瞬間だった。
その横ではバスタードソードの男を倒してバトルを制した賢吾が美智子の様子に気が付き、彼女の元にツカツカと歩み寄って来た。
「こ、これ……美智子がやったのか?」
驚きの声と表情で表現する賢吾に、美智子は荒い息を吐いて呼吸を整えながら頷いた。
「何とかね……。それよりも、さっさとこの女も縛り上げないと!!」
「ああ、そうだな!」
縛り上げる道具ならここにあるし、と美智子が指差した物干し竿の方から地面に落ちている洗濯物を手に取って、それぞれ戦った敵を身動きが取れない様にギチギチに縛り上げた。
「ふぅ……もうここには何も無いみたいだから、とりあえずさっきの部屋に戻ろう」
「そうしましょう」
勿論武器を遠くに蹴り転がすのを忘れない様にして、再度さっきの何かの実験部屋に戻った地球人の2人は改めてその部屋の中をグルリと見渡した。
相変わらず臭いがきついが段々と慣れて来ているらしく、初めてこの部屋に入った時よりも不快感は感じない。
いや、もしかしたら「慣れた」のでは無く嗅覚がマヒしているだけかも知れないと思いつつ、賢吾はテーブルの上に乗っているさっきバスタードソードの男が言っていた宝石(?)を手に取った。
「さっきのあの剣士の男、何だかこれを気にしていたみたいだったな」
「ええ……確かシルヴェン王国の秘宝……とかって口走ってたけど、それが本当ならこれを使って何かをしようとしてるのかしらね?」
「今の俺達の身の周りがこんな状況なんだから、少なくとも普通じゃない事をしようとしているのは確かみたいだな」
もっと他に情報は無いかと部屋の中を色々と探し回った2人は、その宝石を始めとしてこの部屋で一体何が行われているのかを纏めている資料の紙の束や、それを裏付ける様に薬品漬けに使われる器具や材料等の物的証拠を沢山見つける事が出来た。
「写真も撮っておきましょう。あの2人に見せれば何か分かるかも知れないし」
「そうだな。じゃあもうここに用事は無いから、あいつ等の仲間がここに来る前にもう1つの通路に向かおう」