160.選んで貰った先にて
「おい貴様、何者だ?」
「へ?」
突然自分達の背後から声を誰かに掛けられる。
賢吾と美智子がその声に対してほぼ同時に振り向くと、そこには紫の裾の長いジャケットに大きなバスタードソードを持っている緑の髪の男と、黄土色のズボンに茶色のローブを身につけて長い杖を持っている金髪の女が立っていた。
「ここで何をしている?」
「え、は、いや……」
「答えろ!!」
油断無く武器を向けながら近づいて来る男女2人に対し、先に口を開いたのは賢吾だった。
「俺達は別に何も……」
やや焦った様にバスタードソードの男の言葉にそう答える賢吾だったが、そのバスタードソードの男が賢吾と美智子の後ろにあるテーブルの上を見て一言。
「おい、その宝石に触ってないだろうな?」
「宝石?」
何の事を言っているのかさっぱりなその男の目線の先を追って、賢吾と美智子も振り返ってみる。
その振り返った先には、色々と物が乱雑に置かれているテーブルの上に赤く輝いている宝石(?)があった。
「気が付かなかった……これがどうかしたのか?」
その反応を見て、魔術師の様な恰好をした女が納得した表情を見せる。
「……その反応だと、どうやら本当にその宝石には触っていないようね」
しかし、それとこれとは話が別らしい。
「で、貴方達は一体何者なのよ?」
「お、俺達か? 俺達もここの関係者で……」
「嘘をつくな!!」
賢吾の言い分を遮って、再びバスタードソードの男の怒声が響き渡る。
「おいおい……余りそうカッカするなよ。何だよ?」
「それは俺達シルヴェン王国の秘宝の1つだろう。御前達はそれを狙って来たんだな!?」
「はっ?」
マジでこいつ等は何を言っているのだろう、と呆れ顔になりつつ思う地球人の2人。
まるで話が通じていないし、そもそもバスタードソードの男が勝手に暴走している状態だが、話し合いでは解決しなさそうだ。
一先ずここは逃げてこの2人を振り切ってからまた探索をした方が良さそうだと賢吾は美智子に耳打ちしてすぐさま走り出した。
逃げる場所はさっき自分達が入って来たドア……つまり自分達と対峙していた男女もそこから入って来たドアでは無く、テーブルを挟んで更に部屋の奥にあるドアを開けて逃げる事にする。
「あ、おい、待て!」
「追うわよ!」
2人の男女も賢吾と美智子を追いかけ始め、地球人の2人は屋敷の中を追いかけっこする破目になってしまった。
……かと思いきや、そのドアは何と裏口らしき物だった様で中庭に出てしまった。
賢吾と美智子は後ろから追い掛けて来る2人の男女から逃げ回りつつ、何処かに身を隠せないかと考える。
今の自分達が居る所は中庭で色々と身を隠す場所もありそうなのだが、今はとにかくまだ逃げ回るしか自分達には方法が残されていないので、精一杯追って来る男女からそれぞれ逃げ回る。
(この状況じゃ満足に探索も出来ない!!)
(もう、何でこうなるのよ!?)
賢吾は今まで鍛えた足腰でのジャンプ力を活かして壁を飛び越え、必死に男を撒こうとする。
美智子は杖を持った女の追撃から必死に足を動かしたり、その辺りに転がっている石を投げたりして足止めしながら逃げる。
だがそれでもしぶとく喰らい付いて来る男女2人に、とうとう賢吾と美智子は追い詰められてしまう事に
なってしまった。
「ふん、逃げ場なんか無えんだよ」
「見ての通り、ここは行き止まりの中庭だからね。さぁ観念しなさい!!」
そう言われても、賢吾も美智子も勿論こんな所でやられる訳にはいかない。
魔術師の女が何か呪文を唱えると同時に、男がバスタードソードを振りかざして向かって来る。
賢吾はそれを横っ飛びで避け、美智子は女に飛び掛かって呪文を阻止しようとする。
「ふっ!」
重いバスタードソードを持っているとは思えないジャンプで斬り掛かって来た男の下をスライディングでくぐり抜け、先に魔術師の女の方に向かう賢吾。
が、魔術師は賢吾と美智子が飛び掛かる前にその場からスッ……とまるで煙の様に姿を消した。
「なっ!?」
「えっ!?」
慌てる美智子の後頭部に次の瞬間、ガツンと鈍い衝撃が襲う。
それが魔術師の杖で殴打されたものだと言う事は、後ろに回り込まれてしまった美智子もすぐに分かった。
「くっそ!」
その隙を突いて賢吾にバスタードソードの男が斬り掛かって来るが、それ以上に魔術師が厄介だ。
姿が見えない以上何処に居るかが分からないので、一刻も早く場所を特定して倒さなければならない。
しかしそれを阻止するかの如く、今度はバスタードソードの男が下からの斬り上げをして来る。
それを寸での所でバックステップで回避しつつすぐに攻撃に転じた賢吾は、斬り上げで隙が出来て次の動きがすぐに取れない隙だらけの男に向けて地面に手を着き足払いをかける。
「うおっ!?」
と言う事か。
その足払いで地面に倒れたバスタードソードの男の股間を全力で踏み潰して悶絶させてから、左腕を持ち上げて一息に足で踏み折った。
「がああああっ!?」
片腕だけでも使えない状態にしておけばバスタードソードをまともに振る事は出来ない。
骨を折られた痛みで絶叫を上げて悶え苦しむその男の頭を、サッカーボールキックで何度も蹴りつけて気絶させて賢吾の中庭のバトルは幕を下ろした。