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15.奮闘、苦闘、激闘

 だが、ここで賢吾の右手に何かが触れた。

(……!)

 迷う時間は無い。

 賢吾はそれを手に取り、自分に圧し掛かっているフードの男の側頭部目掛けてぶつける。

「ぐお!」

 その側頭部を殴りつけた物は大きめの石。

 この石が無ければ間違い無く自分は短剣に貫かれていただろうと思いながら、賢吾は身体を全力で横に倒して地面に男を横倒しにさせて今度は自分がフードの男に馬乗りになる。

 自分が優勢になった事で脳内にアドレナリンが出始めたのか、向こう脛の痛みも股間の痛みも殆ど忘れて賢吾は男のフードをバサッと払いのける。

 そのフードの下から現れたのは、見た目は賢吾と余り変わらない位の若者でありくすんだ金髪に水色の瞳をしていた。

 その男に対して賢吾はマウントポジションから拳を振り下ろすが、賢吾の身長と体重は162cm、57kgと小柄なのでさほどダメージを与える事が出来ない!!

 それにプラスして男が背負っている矢筒が、地面に平行になっている2人のバランスを崩してしまった事も賢吾がすぐにマウントポジションを解除されてしまった事に繋がってしまった。


 再び地面に転がった2人はほぼ同時に立ち上がる。

 ここで賢吾は目の前の男との体格差を再確認。

(リーチもパワーも俺の方が圧倒的に不利だ!)

 身長差はおよそ20センチ。腰の長さも違えば肩幅も明らかに自分よりあると言うのをまざまざと見せつけられるが、かと言ってここで引き下がれない。

 それなりに反射神経はあるのか、賢吾が突き出すパンチや繰り出すキックをギリギリの所で避ける男。

 しかし避け切れずに食らってしまい、幾度かバランスを崩す事もしばしば。

 それでも倒れないのはバランス感覚もあるからだろう。

 救いと言えば男が接近格闘戦には不慣れな事だ。

 男の繰り出すパンチもキックもスローモーだし、どちらかと言えば体格を活かして抑え込みに掛かって来る。

 賢吾は余裕でそれを回避するものの、やはり自分の体格が小柄と言うのが災いして、ダメージを与えられているのかいないのか分からないレベルの攻撃力になってしまっている。


 そして男が何よりも賢吾と違うのは、短剣と言う殺傷能力のある武器を持っている事だ。

 だから賢吾もさっきの石を手で握って少しでもダメージを与えられる様に戦うが、短剣1つでも賢吾の方にしてみればかなりプレッシャーが掛かる。

「くっ!」

 弓以外にもこうした接近戦対策で短剣を持っているのだとしたら、この男はそれなりに用心深いのかあるいは色々な準備を怠らない性格なのだろう、と賢吾は戦いながら考える。

 だったらまだ何かを隠し持っていてもおかしくない。

 そんな物を使わせてしまえばますます自分が不利になるだけなので、一気に決着をつけたい賢吾だが男もなかなか倒れてくれない。

(くっそ、このままじゃ埒があかない!!)

 一旦間合いを取って立て直したい所だが、立て直したら立て直したでさっきの弓による攻撃が来るのは容易にイメージ出来る。

 しかしこのまま戦い続けても無駄に体力を消費するだけで、どっちを選んでも自分が不利になる未来しか見えない。


 攻めあぐねる賢吾であるが、転機が訪れたのは突然だった。

 再び男にダッシュしようと足に体重をかける賢吾だが、彼と男の間を1つの黒くて長い影が風を切って掠める!

「うおっとぉ!?」

 全体重を咄嗟の判断で後ろに仰け反るエネルギーに変換し、間一髪でその影との接触を避ける賢吾。

 一体何が飛んで来たのだろうか?

 その疑問は目の前の男も同じの様で、2人してその影が飛んで行った方向に目を向ける。

 すると、1本の大木に黒い斧が斜めに突き刺さっているのが確認出来た。

(あの斧は……)

 賢吾には見覚えがあるその黒い斧の持ち主が現れたのはその直後。

「うごっ!?」

 同じ様に斧に気を取られていたフードの男がいきなりそんな声を上げたかと思うと、そのままドサリと前のめりに地面に倒れたのだ。

「やっぱり戻って来て正解だったわ!」

 男を倒した張本人が、ふうっと額の汗を手で拭いながら安堵の息を吐く。

「く、クラリッサ!」

 茶色のロングヘアーを左右に振り乱しながら走って来たクラリッサは、そのスピードを維持したまま男の頭目掛けて全力のドロップキック。

 頭に大きな衝撃を受け、男がそのまま気絶したのを見てクラリッサが拘束の準備に取り掛かった。


 馬に載せている荷物の中から持って来たであろう荒縄で、余り捕縛経験が無いのか多少ぎこちなさを感じさせる手つきながらも、クラリッサが男を後ろ手に縛り上げて彼の武器も回収する。

「来るのが余りにも遅かったから様子を見に来てみればかなり苦戦している様だったわね」

「ああ……まぁな」

「体格差もあるし、何より武器を持っている相手に素手だけで戦うなんて危険すぎるわよ。背が低いなら低いなりに、せめて私みたいに何かしらの武器を持っておけばこんなに苦労しなくて済むのに」

 何だか若干馬鹿にされている気がしないでも無いが、ひとまずクラリッサに助けられると言う形でこのバトルは賢吾の勝ちとなった。

 だが、賢吾の驚きはこれでまだ終わらなかったのである。

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