156.薄暗い通路の先で
不自然にデスクの下に放置されていたその本を入れた本棚の後ろから現れた、通路の先の隠し階段。
それもかなり長い。
その階段をスマートフォンのライトを頼りに下ると、今度は更に長い通路が現れた。
申し訳程度にポツポツとライトが壁に取り付けられているだけで、他に明かりは無いその通路を地球人の2人が進んで行く。
「これって一体何処に繋がっているんだろうな?」
「さぁね。でもこの雰囲気……あのフタの先の通路にそっくりな気がするわ」
賢吾もその美智子のセリフには同意だ。
「天井の高さこそ違うけど、そう言われれば通路の幅もそれから雰囲気も確かに似てるな」
「と言う事はこの先に何か秘密のアジトみたいな場所があって、そこで大勢の敵が何か作業をしているとか……」
「それじゃデジャヴだろ」
冷静に突っ込む賢吾と、その突っ込みを受けた美智子は長い通路をただひたすら歩き続ける。
あの階段を下ってその先に現れた通路を一直線に進んで来たので、騎士団の総本部から進んで来た方角はある程度分かる。
「今まで歩いて来たこの通路の距離からすると、まだ王都からは出ていない様な気がする」
「そうね」
「それとこの通路を今までずっと歩いて来ていて、俺がちょっと気が付いた事があるんだけど」
「何?」
「この通路……始めは下り勾配がついていて、途中から上り勾配になっている長い通路だな」
「え? そうなの?」
スマートフォンを片手に持っていた事でそっちに気が集中していた美智子は、賢吾の言っているその事実に全く気が付いていなかった。
「とすれば……一旦地下に潜ってまた上って来たのかしら?」
「そう言う事になるな。
しーんと静まり返ったこの空間に、自分達2人の足音だけしか響かない時間がどれだけ経過したか分からなくなって来た頃、ふと美智子の耳が変な音をキャッチする。
「……あら?」
「どうした?」
「何か……誰かの足音が聞こえるわ」
「え?」
この聴力の良さには前回もそうだったが本当に感心させられる賢吾は、美智子の聞こえる内容をもっと詳しく聞いてみる。
「足音……と言う事は前と同じ様に誰かが居るって事か?」
「そうね。それも1人や2人じゃなくてもっと大勢の足音が聞こえるわ」
「ますますデジャヴだな。とにかく用心するに越した事は無いから、気を引き締めて残りを歩こう」
「そうね」
前回の通路の出来事を思い出し、美智子もこれまでに無い位の気の引き締め方を体現する表情で頷く。
足音が聞こえるのであればもうそろそろ出口も近い筈なので、緊張感を最大まで上げて足を進ませる賢吾と美智子の前で、その通路が終わったのはすぐの事だった。
「どうやらここで通路は終わりらしいな」
そう言う賢吾の視線の先には、壁とスマートフォンのライトそれぞれに照らされて不気味に黒く輝く鉄製のドアが待ち構えていた。
(やっぱりデジャヴだ……)
ここまでデジャヴの連続だと、そのドアの先で待ち構えているのは大量の敵かも知れないと言う気持ちがどんどん強くなる賢吾。
それでもここまで来てしまったからには行くしか無い。
「……準備は良いか?」
「ええ」
「それじゃ行くぞ」
まずはほんの少しだけドアを開け、視界で確認出来るだけドアの先の様子を確認する賢吾。
ところがそのドアの先の部屋は薄暗く、殆ど何も見えない状態になってしまっている。
「あれ……薄暗くて良く見えないな」
「スマホのバックライトもう少し明るくしようか?」
「ああ、頼む」
設定画面からバックライトを最大まで明るくして、その上で用心しながらドアを開けて進む2人。
その部屋の中に踏み込んで最初に気が付いたのはムワッとするホコリ臭さだった。
「うえ……ホコリっぽいわね、ここ」
不快そうに左手で口と鼻を覆いつつ、右手に持ったスマートフォンで部屋の中を照らす美智子。
何処かに明かりが無いかと探してみるものの、考えてみればこの世界では電気と言うものを見た事が無いので壁にスイッチがある筈も無い。
明かりと言えば自然の太陽光か月明かりか、はたまた人工のランプ位のものだった。
「美智子、何処かにカーテンのついた窓とか無いか?」
「あー、あるかも……ちょっと探してみるわ」
人の気配がしない事だけでもまだ良いので、これ幸いとばかりに美智子が部屋の中を探って明かりを点そうとしている後ろで賢吾は自分も別方向から明かりを探しに掛かる。
(何処かに窓とかある筈……なんだけど……)
本当に何も明かりが無いのか? とこの薄暗さでは不安になってしまう賢吾。
その不安感から美智子に声をかけてみると、彼女なりの答えが返って来た。
「おーいどうだ美智子、何かあったか?」
「ううん全然。ねえ賢ちゃん、私思ったんだけど……ひょっとしてここって地下室か何かじゃないかしら?」
「地下室?」
「うん。スマホで照らす限りそこまでこの部屋は広くないみたいだし、さっきから凄くホコリっぽいし、その辺に物は散乱してるし、こんなに薄暗いんだったら電気だって何かこう……手提げランプみたいな物を使って照らしているだけかも知れないわよ?」
その答えを聞き、賢吾は何となく納得した。




