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153.茶髪の男

 2人がレメディオスの近衛騎士団脱退の理由に首を捻っているその頃、そのレメディオスは静まり返った回廊をブーツの音を響かせながら歩いていた。

 ここの所は色々と書類仕事が多かったので、ゆっくりと落ち着ける穴場の鍛錬場でトレーニングをするべく向かっているのだ。

 騎士団の総本部だけでは無く、その隣に威風堂々と建築されている王城の至る所にも鍛錬場が存在している。

 まだ騎士団の総本部が王城の中に組み込まれていた頃、騎士団員の数が多いからと言う事で昔の国王陛下が造っていたらしいとレメディオスは聞いている。

 その中にはいわゆる「穴場」となっている、人が余り通らない様な場所に設置された鍛錬場も幾つか存在しているのでそこはレメディオスのお気に入りでもある。

 それこそ、王城の中に勤務していた近衛騎士団時代も好んで穴場の鍛錬場でトレーニングをしていた位なのだから。

 今日はどんなトレーニングをしようか、と思いながら簡素な鍛錬場のドアを開けたレメディオスの目に、衝撃的な光景が飛び込んで来たのはこの後すぐの事であった。


「……!?」

 誰も居る筈の無い訓練場の筈なのに、中には既に先客が居るでは無いか。

 明るい茶色のセミロングヘアに、黒いエプロンと言う格好で地面に倒れているのは明らかに中年の男である。

(何だ、この男は……?)

 その身なりからして食堂の従業員かと思ったが、こんな従業員はレメディオスは今まで見た事が無い。

 なので油断無く腰のロングソードの鞘に手を添えながら、レメディオスは1歩ずつその男の元へと足を進ませる。

 するとその時、レメディオスのその気配に気がついたのか男が目を覚ました。

「う、うー……ん?」

 その様子を見たレメディオスは、腰にぶら下げた愛用のロングソードを引き抜いて男に切っ先を向ける。

「起きろ。貴様、何者だ?」

 今の状況をまだ把握出来ていない様な顔つきの男にも、レメディオスは容赦無く鋭い声で相手の名を確認した。

 ……が、男はキョロキョロと周囲を見渡してからようやく視線をレメディオスの方に向ける。

「え……あ、は……? あれ、えー……と?」

「何者だと聞いている」


 若干イライラした口調で再度同じ事を問い掛けるレメディオスだが、男はその瞬間に目をカッと見開いてレメディオスに物凄い速さで足払いをかけた。

「うぐ!?」

 レメディオスは突然の足払いに背中から地面に倒れ込み、その間に男は数歩下がってレメディオスから距離を取った。

「危ねーな! そんな危ねーの人に向けんなよ!!」

「貴様……!!」

 素早く起き上がって体勢を立て直したレメディオスは、もうこれは容赦しなくても良いと判断して躊躇無く相手の懐に飛び込んだ。


 一方の茶髪の男はレメディオスに向かって、何と素手でそのまま先制攻撃を仕掛ける事にする。

「ふっ!」

 レメディオスが距離を詰めて来ていたのをチャンスと見た茶髪の男は、彼に一気に駆け寄って右の踵を振り上げて、レメディオスの右肩に直撃させる。

 そして彼が怯んだ所に、続けて左ミドルスピンキックを腹に突っ込む。

 その余りの衝撃に、レメディオスは後ろへ盛大に倒れ込む。

(な、何……だと……?)

 技としては別に速い訳でも無かったが、いきなりそこに攻撃をして来るかと思ってしまう程の予想外の攻撃。

 だがレメディオスは気を取り直して立ち上がる。


「はっ!」

 今度はロングソードを素早く振り回すレメディオスに対して、茶髪の男は防戦一方。何とかギリギリで避けているが、誰が見ても明らかに優勢なのはレメディオスの方だ。

「うっ、くっ!」

 だがギリギリで避けつつも隙を見つけた茶髪の男は、物凄くハイスピードの左ミドルキックをレメディオスの腹へ。

 そして彼の頭目掛けて、勢いをつけながら左ハイキック。

「ぐお!」

 しかしレメディオスもすぐに体勢を立て直し、ロングソードの先端を茶髪の男に向ける。

「……蹴り技の達人か?」

「かもな」


 茶髪の男がそう返し、レメディオスはまたもやロングソードを振りかざして茶髪の男に向かう。

 再び茶髪の男は防戦一方になり、レメディオスは畳み掛けるチャンスを窺う。

 が、茶髪の男は彼の両手を自分の両手で掴んで全力で後ろの壁にレメディオスの身体を押さえつけた。

「ぐっ……ぐぅ!」

 押さえ込んでいる両手の内、右手を離して左手だけで押さえ込んだまま右手でレメディオスの胸に裏拳を入れ、右腕を首の後ろに回してレメディオスの身体を引き寄せて膝蹴り。

 しかしレメディオスも負けじと前蹴りを繰り出し、茶髪の男と距離を置く。

「はっ、はぁ!」

 上段からの振り下ろしを2回レメディオスは行うが、モーションが大きいので茶髪の男は避けてその勢いで上段左回し蹴り。

 それはレメディオスの頭にヒットするが、まだ彼はギブアップしようとはしない。


 これは短期決戦をしないとまずいかな、と茶髪の男は考える。

(一気に行く!)

 レメディオスが少し下がるが、茶髪の男は距離を詰めてステップを小刻みに刻み、コンボ開始。

 レメディオスが動き出す前に彼のロングソードを持っている右手に右のミドルキック、続けて左回しミドルキック、レメディオスの左足へ左ローキック、右脇目掛けて左ミドルキック、そのまま連続で左ハイキックを頭に入れる。

 この間わずか2秒。

 そのままの勢いで軽く勢いをつけ、地を蹴ってジャンプしつつ身体を回転させた540度の左スピンキックを、レメディオスから見て右側から左足が襲い来る形で茶髪の男が繰り出した。

「ぐぶぁっ!!」

 そのスピンキックがクリーンヒットしたレメディオスは、成す術無く盛大に床を転がって倒れ込んだ。

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