149.噂をすれば影が差す
まさかまたクラリッサが戻って来たのか? と思いながらドアに目を向けた2人が見たのは……。
「あっ、賢ちゃんこんな所に居たの!?」
「み、美智子!?」
どうしてこんな所に、と言うのは地球人の2人がお互いに同時に思った事であった。
「あ、ええと……話せば長くなるんだけど、俺は……」
素早く立ち上がって美智子のそばまで行き、時折りレメディオスの方を振り返りながら説明をする。
その中で勿論小声で「上手く合わせてくれ」と言うのは忘れずに。
「……と言う訳で、俺はここにこのスマフォを取りに来たんだ。それよりも美智子の方こそ今まで一体何処に居たんだよ?」
ここは美智子の咄嗟の演技力に期待するしか無い、と賢吾は心の中で上手く辻褄が合う様に祈りながらその答えを待った。
「私は……寝てたら外が騒がしくなったから起きてみたら賢ちゃんが居なくなってたのに気付いたの。それからワイバーンがどうのこうのって言う声が外から聞こえて来たから、まさかまた賢ちゃんがさらわれたのかと思って慌てて部屋の外に飛び出して、この騎士団の総本部の中を探し回ってたのよ」
「で、俺がレメディオスに捕まる所も見たのか?」
「いいえ、多分その時は私は別の場所に居たから見ていないわ。賢ちゃんを見つけたのだってこの部屋に来た今が初めてだし」
そう言いながらレメディオスの顔を見る美智子だが、見られた騎士団長の方は無表情で2人のやり取りを見ている状態のまま口を開く。
「どうやらこちらの問題に関しては解決したみたいだな。だが、これであのワイバーンの男がまた御前達を狙っていると言うのが分かっただろう。もうさっさと部屋に戻ってしっかりと休め。後の処理はこちらでしておくからな」
「……はい、よろしくお願いします」
こうして何とか上手くレメディオスを誤魔化して難を逃れた賢吾と美智子だったが、これでそのレメディオスに近づくのは厳しくなってしまったかも知れない、と部屋に戻ってから自分の痛恨のミスを悔やんでしまった。
「くそっ、あの時着地に失敗していなかったらもっとスムーズに行ってたかも知れないのに……」
スムーズどころか、バタバタと慌ただしく部屋の中に入って来たクラリッサに対して演技をしてみたら話が思い掛けない方向に転がってしまい、最終的に何故かビンタの1発まで貰ってしまう結末となった。
まさか身体も心も衝撃のそんな展開になるなんて夢にも思っていなかった賢吾は、今でも何故あんな事になってしまったのか不思議でしょうがない。
その後はまさに「噂をすれば影が差す」で美智子がレメディオスの執務室に現れてくれたから良かったものの、あれ以上あの場所に居たとしたら段々ボロが出ていた可能性もあった。
「これじゃエリアス達に頼まれた事が出来ないだろうな。俺達だって確かにレメディオス達を怪しいと思う事はあるけど、今の所はまだ推測の域を出ていないんだし……」
これからどうやって騎士団の内情を探れば良いんだ、と賢吾は自分の痛恨のミスに肩を落としながら考える。
しかしその幼馴染の様子を見ていた美智子の頭の中に、ふとこんな考えがよぎる。
「いや……待って。これはもしかしたらレメディオスに接近出来るチャンスが増えたって事かも知れないわよ?」
「え?」
ピンチをただのピンチで終わらせるのでは無く、その中からチャンスを見出せるポジティブな思考も生きる上では必要な事だ。
「今回は不可抗力もあったとは言え、確かに痛恨のミスをやらかしてしまったのは変わりないわ。でも、来る時はちゃんと許可を得て来れば問題にはしないとレメディオスから言われたじゃない。その通りならばそのステップをちゃんと踏めばそれで良いと言う事になるわよ」
「それはまぁ……そうだが」
事実、あのレメディオスの部屋には賢吾も美智子もこの総本部に来てから2~3回位ではあるが入った事があるのだから。
「だったら色々と口実をつけてあの部屋に入り、エリアス達から依頼された騎士団の企みの証拠を見つける……と?」
「そうね。でも……向こうも馬鹿じゃないからその方法は何回も使えないと思うわ」
それこそこちらも1回、多くても2回が限度だと美智子は考えている。
騎士団長の執務室に余り出入りしていると、ロルフやクラリッサを始めとした他の騎士団員達に怪しまれる可能性が高いと見越した上での考えだった。
「とりあえずまずは口実を作る所からがスタートだな」
「そうね、確かにそれは私も思うわ」
美智子にその考えを話すと同意してくれたので、次はどんな口実を作るかを2人で考える。
「あの人は冷静沈着な性格だって、一緒にトレーニングしてくれた騎士団の人達が言ってたわね」
「となると余り突拍子も無い事を言い出すのはまずいな。何かあの部屋に入れそうな口実は……」
2人で悩む地球人達。
今回みたいに部屋に忘れ物をした、と言う作戦はもう使えないだろう。
それに今回は運良くレメディオスの執務室のバルコニーに着地して中に入れただけで、また忍び込むと言う手段も不可能だと判断。
やはり何かしらの口実を作って、合法的な手段でレメディオスの執務室に入るしか方法が無い様だ。