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146.痛恨のミス

 何処でこの連中に見切りをつけるかと言うのを考えるのはまず後回しにして、とりあえず今は大人しく彼等の命令に従うしか無いだろう。

 そう考えながらエリアスのワイバーンに乗せられた賢吾と美智子は、今度は安全飛行で40分掛けて騎士団の総本部へと戻った。

 行きが30分で盛大に酔ってしまった事を踏まえ、40分掛けてのゆったり目の飛行で総本部の建物の上空まで辿り着いた地球人の2人だったが、屋上に無暗に着陸してしまうとすぐに警備の騎士団員にばれてしまうとそこで夜の闇を利用して、長いロープで上空からの降下を2人にして貰う作戦に出たのだ。

「余り長い時間滞空しているとはばたく音でばれるから、素早く済ませるよ」

「分かった」

「許容時間はどれ位……?」

「ん~、1人当たり15秒って所かな」

 遥か下に見えている騎士団の総本部の建物を目掛けて降下するのは、風の影響や自分達の身体が移動する事によるロープの揺れ等があってかなり難しいだろうと、こう言う事に関しては素人の2人でも簡単にイメージ出来る。


 それでもここまで来てしまったからにはやるしか無い。

 長さにしておよそ70メートルのロープを垂らし、まずは賢吾が先に一気に降下を始める。

(怖いな、これ……)

 こんな事をやるのは生まれて22年の人生の中で初めて。

 アクション映画とかでヘリコプター等から特殊部隊の隊員が降下作戦を行う、なんて言うシーンを見かけた事はあるものの、あれはスタントマンが安全装備を徹底して万が一に備えて安全ネット等を用意した上でやっているもの。

 自分の頼みはこのロープ1本だけ。

 まさに命綱と呼べるそのロープをこれ以上無い位にギュッときつく握り締め、賢吾は夜の闇と風に紛れてスルスルと騎士団の総本部の屋上目掛けて降り始めた。


 しかし、握り締めたままでは身体は当然降りてくれないので適度に力を抜かなければいけない。

 上手く力をコントロールしながらロープを伝う賢吾だが、タイムリミットが15秒前後と言うだけあってかなりのハイペースだ。

 しかもその途中で気が付いたのは、ロープを握っている手のひらとロープを挟んでいる股間が物凄く熱くなって来た事だった。

「あ……あづっ……」

 摩擦熱でその2か所を熱くさせつつも、それでも何とか我慢して総本部の建物へと近づく賢吾だったがそうそう上手くは行ってくれない様である。

 空の風に流されてロープが前後左右に揺れ、気が付けば目標地点の屋上から大きくズレて総本部の大き目のベランダに着地してしまったのだった。

(ぐぅ……手と股間が熱い……)


 ブンブンと手を振って、股間の熱さも身体を揺らす事で何とか逃がそうとしている賢吾の遥か上空では続いて美智子が降下スタート。

 賢吾の時は美智子とエリアスがロープを支えてくれていたのだが、今度はエリアス1人になってしまうのでワイバーンの足にロープを縛り付けて降下させる。

 賢吾も美智子も体重が軽いのでロープが途中で切れる心配はしなくて良かったのだが、ワイバーンの足に括り付けたロープも賢吾の時と同じく左右に揺れて美智子のスムーズな降下を妨害する。

(うぇ……何なのよこの高さは……)

 そもそも魔術が一般的にある世界なんだから、こう言う時こそワープ出来る魔術を使って欲しかったと美智子はロープを伝いながら思ったのだが、もっと考えてみれば自分達には魔術の効果が無いのでそう言う魔術があったとしても結局無意味じゃないかと更に落胆する羽目に。


 賢吾と同じく前後左右に揺られながら、美智子の場合は上手く位置調整が出来た様で屋上へと降り立つ事が出来た。

 しかし、当然そこに賢吾の姿は無い。

「……あれ、賢ちゃん?」

 キョロキョロと周りを見渡してみるものの、そこに賢吾の姿が無いので降りる場所を間違えてしまったかと軽いパニック状態に陥る美智子。

 そのパニック状態を更に加速させる出来事が、この後この騎士団の総本部の敷地内で起こるのである。

「おい、何だあれは?」

「ワイバーン……か? 曲者だ!!」

 総本部の周りを見張る為に巡回をしていた騎士団員達が、どうやらエリアスのワイバーンに気が付いたらしく一気に慌ただしくなる総本部。

(まずいわね……!!)

 とっさに駆け出す美智子。

 このまま屋上で呆然としていても始まらないし、賢吾を探す事よりも今はとにかく自分が怪しまれない様にさっさと部屋に戻るのが先決だと考えて、屋上の出入り口のドアを開けた。


 そうして屋上から総本部の建物の中に入った美智子から見えない位置のベランダで、賢吾もワイバーンが見つかった事に焦りを感じていた。

(くそ、これじゃ俺も見つかるかも知れないな!)

 降下時の状況を考えるとある程度は仕方が無いとは言え、痛恨のミスで屋上では無くこうして何処かの部屋のベランダに降りてしまった自分もさっさと撤退しなければならない。

 ひとまずここはこのベランダのある部屋の中に入って、そこからこの騒ぎに乗じて部屋に戻る方法を取る事にした賢吾は、鍵が掛かっていないのを願って窓に手を掛ける。

 その願いと共に掛けた手に力を込めると、窓はカチャリと音を立てて開いてくれた。

(よっしゃあ!!)

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