145.探し求めるもの
資料をペラペラとめくって行くと、そこには到底信じられない事項の羅列があった。
「……こんなにやってんのかよ……」
日本でもニュースや新聞等で見かける警察官の不祥事の記事。
媒体や世界は違えど、こうやって暴かれる運命にあるのはどうやら同じらしいと賢吾は思わず苦笑いを漏らしてしまった。
「武器とか防具の横流し、税金の使い込み、職権乱用からの民間人への暴行事件……何だかこっちの世界の警察でも聞いた事のある事件ばっかりな気がするわね」
美智子も心底嫌そうな表情でそう言うが、それを見ていたエルマンが神妙な雰囲気で口を開いた。
「それはあのエリアスって人がこの半年間で集めに集めまくった情報さ。だが、肝心の騎士団の内部情報に関する事はなかなか手に入れられてねえ」
そう言うエルマンだが、賢吾は過去の記憶からこんな事を思い出した。
「あれ、でもちょっと待ってくれ。食堂のコック長は確か近衛騎士団に自分の親戚が居るからその親戚に頼んでレメディオスとかに関する情報収集をしてくれるって言ってたけど?」
エリアス率いるこの集団とあの食堂の従業員達が裏で手を組んでいるとなれば、例え今は見張りがついているとしても内部調査を秘密裏にした結果がこのグループに流れて来るのでは……と賢吾は疑問に思う。
それに対してエルマンは渋い顔つきになった。
「ああ、その約束なら俺達もあのコック長から聞いてるよ。けどあの騎士団のシステムがそれを邪魔していやがる」
「システムですって?」
じゃあそのシステムを是非とも教えて欲しいと美智子がエルマンに詰め寄ると、彼は窓の外に見える夜の闇を遠い目で見つめてから口を開く。
「王国騎士団は確かに近衛騎士団や第1から第3までの騎士団で1つの纏まりではあるんだけど、その名前通り別々の組織として成り立っているんだ。だから近衛騎士団の連中が迂闊に第3騎士団の内情を探る事は出来ねえし、逆も同じだってあのコック長のオッサンは言ってたぜ」
「……ああー、何だか分かる気がするわ」
地球の常識に当てはめてみれば、同じ会社のそれぞれのグループ企業だと思うと賢吾も美智子もしっくり来る。
「じゃあ、結局その組織のシステムが邪魔をして思う様に内部調査は出来ないって事になるのか?」
エルマンは窓の外に向けていた目を地球人の2人に向け直して、大きく頷いて肯定する。
「そー言うこった。だが……団長クラスなら話は別だろうともコック長は言ってたぜ」
「それって権限的な意味でか?」
エルマンは再び頷く。
「そう言う事になるんだろうな。例えば俺が所属していた盗賊団でも、俺は他の分隊については何をやってるのか詳しく知らなかったんだが、頭目のウルリーカだったらそれぞれの分隊のリーダーの顔は余り覚えてなくてもその分隊の役割は把握してただろうよ。今はあの女も死んじまってるから分からずじまいだけどさ」
「そうなのね。で、今回私達を仲間に誘ったのはその怪しい行動をしていると噂の騎士団長に近い人物であり、その上レメディオス達騎士団とは本来は何も関係が無い一般人……悪く言えば部外者だからこそ、第3騎士団の内情を調べるのには最も適しているって訳ね」
美智子の言葉にエルマンはにやりとした笑みを浮かべた。
「そこまで話が分かってんだったら、こっちとしてもやりやすくて助かるぜ。俺達は外から色々とアプローチして、王国全土に情報収集網を張り巡らせる。御前等は2人で内部情報を出来るだけ集めてくれ」
エルマンはそう言うものの、まだおぼろげにしか分かっていないのがこのグループの目的である。
「なぁ、あんた達は騎士団の内情を探って何をしようとしてるんだ?」
本当に心の底から疑問に思っての質問をする賢吾だが、エルマンはかなり言い出し難そうな顔になる。
「何を……って言われても俺には分からねえ。あの人、さっきは「声」とやらに導かれて騎士団の陰謀を止めるのが目的だって言ってたけど、それ以上の事は俺も聞いてねえからさっぱりだ」
「えっ、じゃあ何で貴方はここに居るのよ?」
「さっきも少し話した通りで、ただ単に俺はあの盗賊団に嫌気が差して抜けた。そしてブラブラしてた所を拾って貰って、食事も寝る場所も着る物も与えられてここに居るってだけさ。どの道あのままブラブラしててもフリーの盗賊になるか傭兵でもやってるかしか無かっただろうしよ」
何処かぶっきらぼうな口調でそう言うエルマンは、本当にそれ以上の理由なんて無いらしい。
このままこの集団は騎士団の情報を集めて、それを元に騎士団との全面戦争をするのかも知れない。
はたまた別の国にその情報を売りさばいて、大金持ちになる夢を見ているのかも知れない。
何にせよ、今のこのグループがやっているのはシルヴェン王国騎士団を敵に回すと言う事なのは間違い無いので、やはり早い段階でさっさと見切りをつけて離れれば済む事だと賢吾と美智子は心の中で自分に言い聞かせた。
それこそ深く関わり過ぎれば、今度は自分達まで王国騎士団を敵に回す事になるのが目に見えているのだから……。