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144.突然の誘い

「俺達を……?」

「えっ、それって本気で言ってるの?」

「本気も本気だが」

 いきなりの誘いに目を丸くする賢吾と美智子に、エリアスはからかい等は一切無しと言う真剣な表情で答える。

「それって、もしかして賢ちゃんがあの大きな召喚獣を駄目にしちゃったから、その埋め合わせで仲間に入れって事かしら?」

 この勧誘の理由を考えれば思いつくのはそれ位しか無い美智子がストレートに聞いてみると、エリアスは複雑な表情になった。

「それも無いと言えば嘘になる……んだけど、元々は君達を仲間に誘うのもその声の主が言ってた事なんだ」

「へ?」

 また「声」の命令に従って動いた結果がこの展開らしい。

「何なんだ、その声ってのは……」

「俺に聞かれても困る。俺だって知らないんだからな」

 エリアスはそう言って再び椅子をギシリと軋ませた。


「もし俺達がそっちの誘いを断ったらどうなる?」

「その時はこちらも然るべき対応を取らせて貰うつもりだよ」

 ピリッと空気が張り詰める。

 詳しく伝えなくても、その短いセリフだけで何をするつもりなのかをエリアスは賢吾と美智子に告げた。

 それを聞いて、2人は作戦会議の為にエリアスとエルマンから少し距離を取った。

「どうするのよ、賢ちゃん?」

「完全に殺る目つきだぞ、あの2人……」

「それってもう協力要請じゃなくて、ただの服従命令じゃないのよ!!」

「俺も凄く胡散くせーとは思うけど、ここは1度従う振りをして隙を見て逃げるのが手っ取り早いんじゃないか?」

「手っ取り早いとはあんまり思えないけど……でもそれしか無さそうね」

「じゃあこれで行くぞ」

「分かったわ」


 お互いにその作戦で合意をし、自分達の意思を告げる賢吾。

「分かった、そっちの条件を呑むよ」

「物分かりが良くて助かるよ。それじゃまずは騎士団の総本部に急いで戻るよ」

「はい?」

 エリアスはまたしても訳の分からない事を言い出した。

 誘拐同然……いや、もう誘拐と言って間違い無いレベルのやり方でここまで強引に自分達を騎士団の総本部から連れて来た筈なのに、わざわざその総本部に自分達を戻すとは一体どう言う事なのだろうか?

 騎士団と敵対関係にあるこの連中は、言うなれば飛んで火に入る夏の虫状態にこれからなると言う事であり、その連中と自分達が一緒に居る所を騎士団の誰かに見られでもしたらレメディオス始め第3騎士団の団員達に何を言われるかは大体イメージ出来てしまう。


「おいおい、もう何が何だかさっぱりだよ」

「そうよ。この前だって私達を連れ出してすぐに騎士団に帰したじゃないのよ」

 一体自分達に何をさせたいのかさっぱり分からない2人は、その真意をエリアスに尋ねる。

「いや、前回は君達の「お仲間」が助けに来ただろう? 今回はそれとは別で、こっちのスパイとして騎士団の実情を探って貰うんだよ」

「探る……ですって?」

「そう。俺達じゃ騎士団の総本部には迂闊に近づけないし、今はあの食堂の連中にも見張りがついてる。君達が唯一の頼りなんだよ」

「ああ。俺達じゃ騎士団の企みを全て探るのは無理だからな。俺達は外から攻めて、御前等は中から攻める。そうやって騎士団の内情を暴いて行けば、あいつ等がこの先何をしようとしているのかを探れる筈だぜ」

「……」


 協力する、と嘘でも誓ってしまった身としては、有無を言わせないそのエルマンのセリフも含めてここは素直に協力する素振りを見せるべきだと思う賢吾と美智子。

 実際の話、今の所はまだシルヴェン王国騎士団サイドの人間であり団員達を信じる気持ちも残っているし、何よりこうやって無理やり自分達の事を連れ去る強引な手段で仲間に引き込む様な連中の話を100パーセント鵜呑みには出来ないからだ。

(確かにレメディオスやロルフ、それからクラリッサが怪しい行動をしているのは事実……。だけどその怪しい行動をしている上で、俺達が探りを入れていると気が付いた時にその3人を始めとした王国騎士団員達がどんな手段に出て来るかまでは分からないし、俺達の思い過ごしって事もあるだろうしな……)

 やっている事はどうであれ、この世界にやって来た自分と出会って最初にその自分の面倒を見てくれたのは王国騎士団の人間達なのは賢吾は勿論忘れていない。

 美智子だって、王国騎士団の協力が無ければ賢吾にまた出会えなかったので感謝しているし、自分が強くなる為のトレーニングにも付き合ってくれているのも知っている。

 それにこの連中の言っている「声」とやらの存在も賢吾と美智子にはまるで聞こえていないので、説得力に欠けるのも気持ちがまだ騎士団に残っている理由だ。


 だがそんな理由を持っている賢吾と美智子の目の前で、エリアスは自分のデスクの引き出しからガサガサと紙の束を取り出した。

「はい」

「何これ?」

 左上に穴を開けて紐で括られたそれを受け取った美智子が問うと、エリアスは何処か穏やかな顔つきでとんでもない事を言い出した。

「これから出発準備まで10分位時間を貰うから、その紙の束を少しでも読んでみると良いよ。それには今までの騎士団員達の悪事が山程書いてあるからね」

「何だって!?」

「嘘っ!?」

 瞬時に顔色を変えて書類の束を読み出した2人を尻目に、エリアスはエルマンを見張りにしてワイバーンの準備をしに会議室を出て行った。

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