140.話の続き
5階建ての屋敷の中に招かれた賢吾と美智子は、警戒心をマックスの状態に保ったまま最上階の1番奥にある執務室に通される。
そこにある大きな木製のデスクとセットになっている、豪華な装飾が施された椅子に座ったエリアスはあの会議室の時と同じく、身体の前で組んだ手の甲に顎を乗せて口を開いた。
「改めて……我がキーンツ家の別荘にようこそ」
「そう言うのどうでも良いからさっさと話してよ。私達を2回も誘拐しておいて勿体ぶらないで。こっちは夜に連れ出されて袋に詰め込まれてかなりイライラしてるんだから」
不快感を露にした状態の美智子に、それならばさっそく本題に入るエリアス。
彼の椅子の傍らには彼の副官的ポジションとして、エルマンがロングバトルアックスを片手に控える。
「で、話の続きは何なんだ? まさかまた声が聞こえて来たとかバカバカしい話をするんじゃないだろうな?」
美智子と同じく警戒心とイライラがマックスの賢吾がそう尋ねれば、エリアスが苦笑いをして首を縦に振る。
「残念ながらそうだよ。謎の声の正体は未だに分かっていないんだが、今回は君達の事を言っていたんだ」
「俺達の事?」
「そうだ。君達と食堂の従業員に監視がつけられていると聞いて、しかも近日中に何処か別の場所に移送されるとの話まで持ち上がっているから、早く連れ出さないとまずい事になるぞ……とね」
「えっ……?」
監視の事に関しては食堂の従業員達もそうだから外部にばれる可能性も無くは無いだろうが、何処かに移送させると言うのはレメディオスや自分達と言った本当にごく一部のメンバーしか知らない筈だ。
その事を何故、その場に居ない筈のこの連中が知っているのか?
「声がそう言っていたのか?」
「うん。それでその謎の声に従って、案内されたあの部屋に向かってみたら予想通りさ。カーテンは閉まっていたんだけど、中に君達が居るって言うのをしきりに言って来るもんだから思い切って中に入ったら君達の姿があった。だから一気に飛び掛かったのさ」
にわかには信じられない話だが、このファンタジーな世界だったらあってもおかしくない話だと思ってしまうのが怖い所である。
「で……その声がどうのこうのって前に言ってたけど、話の続きにもそれが出て来るんだろう?」
「ああ。突然俺の頭の中に聞こえて来た声が言うには、この王国に危機が迫っているって話だったんだ」
「危機ですって? それって貴方達が王国に危機をもたらしているって話じゃ無かったの?」
今までの事を全て思い返してみれば、この連中が王国に対して危機をもたらしている存在なのは誰が見ても明らかである。
しかし、エリアスは首を横に振った。
「俺達はこの王国に対して、今まで敵意を持った事は1度も無い」
「そうなの?」
「ああ。俺だってこの王国で生まれ育った人間だからな。けどこのまま放っておくとこの王国が滅ぶ結末になってしまうんだ」
「は、何、どう言う事?」
大事な部分を色々と端折り過ぎていてまるで全貌が掴めないので、1つずつ噛み砕いて説明して欲しい賢吾と美智子。
「王国が滅ぶって言うのは……それって天変地異か何かなのか?」
「いいや、人間が引き起こすものだ。俺達はそれを聞こえて来る謎の声で知って、そして止める為に色々とこの王国内で活動していたんだよ」
「とんでもない話だな。それで……その人間が引き起こすこの王国の危機とやらを掴む事は出来たのか?」
もはや話半分、と言った態度でエリアスにそう聞く賢吾。
だが、エリアスは質問に質問で返して来る。
「逆に聞くけど、それは君も知っているんじゃ無いのかな?」
「はい?」
また訳の分からない事を言われてしまい、賢吾は段々頭の中が混乱する。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それって賢ちゃんに王国の危機に関して心当たりがあるって事?」
そんな彼に代わって美智子が同じ様に質問に質問で返せば、エリアスもハッキリと頷いた。
「その通り。君もこの賢吾って人と同じく心当たりがあると思うんだけど、まずはその賢吾が思い当たる節があると思うんだ。何か怪しい行動をしている人物の存在とか、そう言うのが」
怪しい行動、と聞かれてみれば賢吾には思い当たる節があった。
「ま、まさか……」
ハッとした表情でエリアスを見る賢吾に、見られる側のエリアスは満足そうな表情で頷く。
「自分でも薄々気が付いていたみたいだね。誰が怪しいのか殆どバレバレの状態だったけど、言ってごらん?」
まるで親が子供に質問する時の様な口調でエリアスが賢吾にそう聞けば、聞かれた賢吾は自分の予想をその口で言ってみる。
「怪しい行動をしていた人間達なら心当たりがある。それに、それは俺達の凄く身近に居る人間達……だって今なら言える」
「賢ちゃん、それって……」
まさか、と言う目つきで自分を見つめて来る美智子に残念そうな表情で首を横に振る賢吾は、その心当たりのある人物を口に出した。
「レメディオス、ロルフ、そしてクラリッサ……この3人を筆頭にした、王国騎士団の団員達が怪しいと俺は思うんだ」