138.隔離
それから数日間は騎士団の総本部の自分達の部屋で引きこもる賢吾と美智子。
あの食堂の従業員達がロルフとクラリッサと共に帰還し、更にイルダーも引き連れて来たと言うのをレメディオスから聞いた。
その事実を伝えたレメディオスは、2人の移動場所が確定するまで賢吾と美智子に部屋から出ない様に指示を出しておく。
それから騎士団員達の監視も賢吾と美智子の部屋の前と食堂の前につけられ、お互いに接触出来ない措置を取った。
食堂の従業員達からのヒアリングも数日間に及んだが、結局あのコック長と獣人のコック以外は事件に関わっていないとの判断が「一応」下された。
食堂の従業員達が居ないと困るので、その「一応」と言うのはあくまで表向きの話なのだが。
そもそもレメディオスが賢吾と美智子から聞いていた話と、ロルフとクラリッサが食堂の従業員達とイルダーから聞いた話がまるで違うからだ。
当然それはレメディオスとロルフとクラリッサで照らし合わせた上で話し合った結果、どちらか一方が嘘をついていると言う事になる。
だが、それを確かめる術が無い以上はひとまず食堂の従業員達を元の職場に戻さなければならない。
外部からコックを雇うとなれば、待遇面での交渉や騎士団員達の信頼を1からまた作り上げなければならない等の問題もそうだが、それ以上に騎士団のメニューを覚えて貰ったり大勢の人数分の食事を作らなければならないので時間が掛かる。
それよりも現実的なのは、食堂の従業員達のそばに騎士団員達の監視を置いて妙な動きをしていないかを見張らせるのが最も手っ取り早い方法だ、とレメディオスが判断したのだ。
同時に賢吾と美智子にも外出禁止令を発令しており、その2人は食事も睡眠もそしてトレーニングも割り当てられた部屋の中で行っていた。
部屋の中でも出来るトレーニングは幾らでもある。
基礎トレーニングならそんなに場所を取らずに腕立て伏せや腹筋運動が出来るし、打撃や蹴り技のトレーニングは物を壊す可能性があるので控える代わりに関節技と固め技のトレーニングをしておく。
更にはあの鉄パイプもレメディオスに頼んで持って来て貰い、武器への対応トレーニングにも精を出す。
「良し、今日はここまでにしておこう」
「はい、どうもありがとうございました。でも武器は振り回せないわね」
「部屋も狭いしな。確かに武器は振り回せないけど、相手が武器を振って来た時のシミュレーションならゆっくりであれば出来るだろ?」
「そうね。首にナイフを突きつけられた時にどう抜け出せば良いのか、とかは大分分かって来た気がするわ」
それはそうと、近日中にレメディオスが移動場所を決めて実際に移動するとあの事情聴取の際に聞いている2人なのだが、まだその話は彼から来ていない。
やるならやるでさっさとあの食堂の連中から引き離して貰わなければ、こうして見張りがついているとしてもなかなか安心出来ないのが実情だ。
あの屋敷から助け出されてもうそろそろで1週間だが、色々と調査や後始末等があるのも分かるがやはり安全を保障してほしい。
「何か、この世界に来てから俺達色々と事件に巻き込まれてないか?」
「そう言われてみると確かにそうね。今の状況も決して安心出来るものじゃ無いし、何だってこうトラブルに次から次へと巻き込まれるのかしらね?」
「地球に帰る手掛かりもまだゼロに等しい位に集まって無いんじゃあ、俺達……本当に地球に帰る事が出来るのかも怪しいよなぁ」
「今までの展開が、全然私達に地球に帰る手掛かりを集めさせてくれないんだもんね」
その手掛かりを見つける為に今までチョコチョコと色々と本を読ませて貰っていたが、どれもこれも地球への道に関する手掛かりはゼロ。
異世界から人間がやって来たと言う、この世界と地球の立場を逆にしても違和感無しの話がこの世界で今まで無い以上は当然の話なのかも知れない。
それを考えて、賢吾はつい最近の展開を思い返していた。
「唯一の手掛かりと言えるのか分からないけどさぁ……あのエリアスとかって言うフードの男の話、とりあえず最後まで全て聞きたかったと思わないか?」
「それもそうよね。あの人……今まで色々敵対していたけど、私達を助けてくれた時もあったから良く分からない人よね」
エリアスが話していた、この世界に自分達がトリップして来る前に突然聞こえて来たと言う「謎の声」。
その謎の声に従って今まで裏で様々な行動をしていたと彼は言っていた記憶があるが、賢吾と美智子にそんな声は今まで一切聞こえて来てなんかいなかった。
「それに、わざわざ私達をあの屋敷まで連れて行ってまで仲間に勧誘しようとしてなかったかしら?」
「ん~、それはまだ微妙だな。でも俺達にはまだ死んで貰っては困るって何回も言ってるし、何か俺達に頼みたい事があるのは事実だろうな」
その後、結局選考会のメンバー達に助け出されて話を最後まで聞く事は叶わなかった2人だが、もしまた会う機会があればその時はしっかりと話を最後まで聞かせて欲しいと思っている。