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135.あそこに居た理由

 唐突な作戦ではあったが、やはり長い間騎士団の人間に関わっていた人物であるそのコック長の言う通りの結果になった。

 その作戦提案の日から2日後、一行は同じく賢吾と美智子の捜索に当たっていた騎士団員達と合流した。

 勿論今まで何があったのかを、ロルフとクラリッサを始めとする騎士団の人間達からじっくりと事情聴取される事になったので、その用意していたシナリオに沿って供述を始めるコック長と狼獣人のコックとイルダー。

「心配をかけた。済まない」

「全く……俺達がいきなりあの連中にさらわれて一時はどうなるかと思ったけど、何とかこうして帰って来られて良かったよ」

「でも無事にあの2人を助け出せて良かった。選考会の人達によればその人達と一緒に先に王都に向かったって話を聞いてるから、王都に帰ったらもう1度ちゃんと顔を見せに行かないとね」


 賢吾と美智子を助けた振りをしているイルダーと食堂の2人だが、当の賢吾と美智子はそれが全くの嘘だと知っているのでその2人と何とかして早めに接触出来る様にしたい。

 あの屋敷から王都まで辿り着くにはまだ1日ちょっと時間が掛かるからと言うのもあるが、こうした状況になってしまった以上はどうにかしてあの2人と「話し合う」機会を設けなければいけない。

 人質となっていた2人は救出されてすぐに選考会のメンバー達に保護されてしまったので、この3人が誘拐事件の犯人の仲間だと言う真実を暴露される可能性が高いだろう。

 その点に関しては作戦提案の時にコック長が言っていた通り、信頼度の差で何とか……なってほしいのが本音だ。

「それで、その誘拐された経緯ってのを教えて貰えるか?」

 ロルフがそう尋ねれば、それに関しては作戦を立てたコック長が供述を始める。

「私達はあの晩、あの2人に料理を教えていたんだ。だが……その時いきなりワイバーンに乗ったあの若者が私達の居る食堂の宿舎の屋上に着陸して侵入して来たんだ」

「屋上に?」


 何で屋上だと分かったのだろう、と疑問を持つロルフとクラリッサだがコック長の話はまだまだ続く。

「ああ。私達が連れ去られる時に屋上に連れて行かれたからな。ワイバーンは全部で3匹で、後は馬か何かでここまで来たんじゃないのか? 現にワイバーンが飛び去って行く目撃情報があってここまで追って来ていたんだろう?」

「そりゃあ、その食堂の宿舎から飛び立つワイバーンが数匹目撃されているからな」

「夜中だったら夜の闇に紛れて着陸するのも不可能では無いわね」

 コック長の話によるとさらわれたのはその日の真夜中で、覚えている限りだと主犯格のフード姿の男を含めて合計で20人程の集団がいきなり宿舎に押し入って来たのだと言う。


 続いて狼獣人のコックからも事情聴取がされる。

「大体の話はコック長と同じだ。俺もその時一緒に居たからな。俺が覚えているのはそのフードの男が世界革命がどうのこうのって口走っていた事しか記憶に無いぜ」

「世界革命? 何だそりゃ」

「意味不明な事を言うものね。それで……訳も分からずに誘拐されたと?」

「ああ。他の従業員は全員もうそれぞれの部屋に居たし、俺達だって武器を扱えない訳じゃ無いから護身用にこうして何時も持ち歩いてるんだけど、流石に20人位の集団相手じゃ勝ち目は無いって判断したから大人しくついて行く事にしたんだ。あ、そうそう確かそのフードの奴はこんな事も言ってたな。狙いはあの魔力を持っていない2人だけど俺達を放っておいたら騎士団に報告されて足がつくし、この2人を色々と従わせる為の人質になって貰うって」

「すると、そのフードの男は貴方達を人質にしてあの2人に何かをさせようとしていた訳ね」


 食堂の従業員2人からはそれで事情聴取が終わったが、問題は残るイルダーである。

「で、見習いの宿舎に居た筈のお前はどうしてあそこに居たんだ?」

 食堂の従業員とは関わりが無い筈の人間が、どうして賢吾や美智子と一緒に捕まっていたのかが騎士団の2人には疑問である。

 それに関して、イルダーは若干気まずそうな表情と声で答える。

「それが……騎士団に入れるって知ったら何だか興奮して眠れなくなっちゃってさ。それでその他被った気持ちを落ち着かせる為に少し外を出歩いていたら、あの魔力を持っていない2人に出会ったんだ。それで今から料理を習いに行くんだけど、一緒にどう? って女の方から誘われてね。それでついて行ったら今この2人が言っていた通りの展開に巻き込まれたって訳さ」

「何やってるのよ、もう……」

 余計な仕事を増やさないで欲しいわね、と思わずクラリッサから溜め息がこぼれる。

 そもそも騎士団で行動するならば普通は団体行動が当たり前で、勝手な行動をして配属された部隊の行動を乱す様なメンバーは厄介者として扱われる。

 今回みたいな1人で出歩くケースがもし戦場で起こっていたら、それは個人の問題だけでは無くその団員が配属されている隊の隊長の責任問題にもなるし、最悪の場合は部隊の壊滅にも繋がってしまうのだ。

 以前、そのフードの男絡みで賢吾や美智子に勝手な行動を起こされている騎士団員達にとってはデジャヴだと思わざるを得ない事情聴取となった。

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