133.突然の襲撃(?)
「エリアス様、大変です!」
「どうした?」
3階の会議室に息を切らせながら飛び込んで来た、今しがたこの屋敷に辿り着いたばかりのエリアスの部下が大声を上げて緊急事態を知らせる。
「そ、そ、それがっ……騎士団と手を組んでいる選考会の連中が、今ここに向かって来ています!!」
「何!?」
会議室の間にざわめきが走る。
それを1番に大声で静めたのはこの屋敷ぬ主であるエリアス……では無くあの狼獣人のコックだった。
「御前等落ち着けっ! ここは俺達のテリトリーなんだ。騎士団と繋がりがある奴等だって恐かねえ。返り討ちにしてやるまでだ!!」
その一括で気力を貰ったエリアスの部下達、それから狼獣人のコックにイルダーに赤髪のエルマン、食堂のコック長までがそれぞれ武器を片手にその選考会の通過者達を迎え撃ちに行く。
しかし、賢吾と美智子にとっては今のこの状況がどうなっているのかがさっぱりだ。
「ちょ、ちょっと騎士団ってどう言う事なのよ!?」
「やっぱり騎士団と敵対してるんじゃないか!」
まだエリアスの説明の途中でこうなったと言う事もあって、断片的でも構わないので事情を説明して貰いたいのだが、エリアス側にとってはそうも行かない様である。
「済まない、今こうなってしまった通り話は少し複雑なんだ。君達はその選考会の通過者達と戦わない様に何処かに身を潜めていろ。君達が戦わなければ済む話だからな!」
そう言って自分も愛用の弓と短剣を手に会議室を出て行くイルダーの背中を、唖然としている賢吾と美智子は引き止める暇も無くただ見送る事しか出来なかった。
「ど、どうするの……賢ちゃん?」
「お、俺に聞かれても……とにかく今はもう縛られていない訳だし、あのエリアスとか言う男はああ言ってるがここから逃げるしか無いだろうな」
「うん……騎士団の人が私達を助けに来てくれたって事よね」
思いがけずやって来た2度目の脱出のチャンス。
しかも今回は鍵も掛かっていない部屋からすぐに出られるし、美智子も一緒に居るし、何より騎士団から派遣されたその選考会の通過者達がここにやって来ているのでそのやって来た通過者達に助けを求めるしか無いだろうと考えた2人は早速行動を開始する。
騎士団が自分達を探してここまでやって来たこのチャンスを逃す訳には行かない。
「用心して進むぞ」
会議室から出た2人は、その襲撃(?)して来る騎士団の手先の迎撃に全て人員を割いた結果、人の気配がしない屋敷の中を最大限の注意を払って歩き始める。
3階部分は本当に人の気配がしないので楽に通り抜ける事が出来た2人だったが、2階部分まで来た時に下の方から争う音が聞こえて来た。
「くっ、こっちは駄目だ。この下の正面玄関の方は争いの真っ最中だから……別の方にも階段が無いか探してみよう。そして裏の方に森があるから、何処か窓から外に出てそこから大回りして騎士団の人達に助けを求めよう」
「分かったわ」
面倒な事態はなるべく避けたいので、明らかに争いを続けている下の階にそのまま出るのは避けてルート変更をする2人。
屋敷の2階を少し探索してみると、その目論見通り別の場所にも1階へと続く階段を発見したのでそこから1階へと下りてさっさと脱出するべく足を進ませようとした……のだが。
「居たぞー!」
「っ!?」
明らかにエリアスの部下では無い身なりのカラス獣人の男が、その手にロングバトルアックスを持っていきなり襲い掛かって来た。
咄嗟にそのバトルアックスをかわして、先に脱出する様に美智子に指示をしてから賢吾はその獣人の説得を試みる。
「ま……待ってくれっ、俺はここに捕らわれていた人間……うおっと!?」
恐らく選考会を勝ち抜いて来た腕の立つカラス獣人なのだろうが、よほど頭に血が上っているのか任務の事で頭が一杯なのか、賢吾を敵とみなしているのは間違い無い。
とにかくこのままでは助けられるどころかカラス獣人にこのままやられてしまうので、多少手荒な方法になっても何とか黙らせてやらなければならないだろう。
(くっ……でもどうすれば!?)
ロングバトルアックスを持っている相手と戦うのは、あの赤髪のリーダーのエルマンと坑道の最深部で戦った時以来だろう。
そのエルマンが今は正面玄関付近で戦っている一方で、賢吾はこのカラス獣人を相手にしなければならないらしい。
「おらああああっ!?」
「おっ、おい! 話を聞いてく……うわ!?」
容赦無しに振り下ろされたバトルアックスが賢吾のすぐ横を掠め、賢吾が今の今まで居た場所の後ろにあった高級そうな絵画を真っ二つに叩き割った。
そのバトルアックスが壁に食い込んで抜けなくなってしまった所で、そのチャンスを見逃す筈が無い賢吾がカラス獣人を羽交い絞めにしようと思った矢先……。
「ふんっ!!」
そんな掛け声と共にカラス獣人の頭に叩き付けられた、水の入った花瓶がダメージを与えてカラス獣人は床に力無く崩れ落ちて気絶してしまった。
その花瓶を叩き付けた主は、賢吾よりも先に武器になりそうな物を見つけて戻って来た美智子だったのである。