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131.固執の理由

 再びロープでグルグル巻きにされた賢吾は、フードの男達に何とか見逃して貰った馬車の御者と別れて馬に乗せられ、そのまま川の上流へ再び逆戻りの道を進んでいた。

「全く……手間取らされてこっちは疲れたよ」

 気絶から回復したフードの男が、肩をトントンと叩いて「いかにも疲れました」アピールをしながら自分が抱き抱えている賢吾を見下ろす。

 男に抱き抱えられても何も嬉しくないし、結局今までの苦労が全て水の泡になってしまった結果であるので賢吾の気分は沈んだままだ。

(くそ……これから俺、どうなっちまうんだよ……)

 逃げ出そうとしても数に物を言わせて捕まえられてしまうし、美智子の行方は未だに掴めていないし、騎士団に自分の無事だって伝えられてない。

 その「無い無い尽くし」の状況下で逃げ出す事も出来ずに、これからの事についてはもう成り行きに任せるしか無くなってしまった。


(せめて美智子だけでも無事で居てくれれば良いんだが……)

 地球に帰る手掛かりが見つかっていないならいないで、幼馴染みの無事だけでも確認したい賢吾。

 その賢吾の心を見透かしたのか、フードの男が唐突にとんでもない事を口走る。

「もしかして、一緒に居たあの黒い髪の女に会いたかったのか?」

「ん!?」

「その女だったら今は俺達の元で大人しくしている筈だ。もっとも、抵抗次第では君と同じ様に追いかけ回される羽目になるだろうが」

「み、美智子をどうする気だ!!」

 自分の幼馴染みに手を出したらタダじゃおかないぞ、と警告する賢吾ではあるものの、フードの男はその賢吾のセリフに動じずに続ける。

「はは、そんなに恐い顔をしなくても無事さ。今の所はだがな。あの女と無事にまた再会したいならこのまま俺達と一緒に行動して貰うぞ。それが再会の条件だ」

「くっ……」

 何処までそのセリフを信じて良いのかは分からないが、今はそれを真実だと信じてついて行くしか賢吾には選択肢が無い。

 どうせ、この状況では逃げられないのだから……。


 そのまま馬に揺られて川を北上していた時、ふと賢吾が気付いた事があった。

「なぁ、あんたの部下はこれだけだったか?」

 フードの男の後ろについて来ている部下の馬の頭数が、あの砦の前で取り囲まれた時よりも明らかに少ないのである。

 その疑問をぶつけられたフードの男は、後ろを振り返ってああ……と呟いた。

「確かに少ないがちゃんと理由がある。今頃はあの砦で色々と作業をしているだろうな」

「作業……って、まさかまだ良からぬ事を企んでいるんじゃ無いだろうな?」

 自分を睨み上げる賢吾のその目つきにも男は全く動じずに、意味深なセリフをただ吐くのみである。

「一方に取っては確かに良からぬ事かも知れないな。だが、俺達が目的を達成する為には今がチャンスなんだよ。騎士団の人間が居ない今がな」

「それってつまり、騎士団に対してまた何かしようとしているんだな?」

「そうだ」


 フードの男は堂々と肯定し、続けてとんでもない事を言い出した。

「その目的を達成する為には君の力がどうしても必要なんだよ。だから騎士団の食堂の従業員達まで巻き込んだって訳だ」

「俺の力だと?」

 ますます訳が分からない。

 食堂の従業員達まで巻き込んだと今聞いた以上は、あの睡眠薬入りの料理はこのフードの男の手引きによるものだろうと察する事は出来る。

 だけど、自分の力がどうのこうのと言われても違和感しか覚えられないのが今の賢吾なのだ。

「俺に何の力があるって言うんだ? まさか、何か秘められた力があるとか言い出すんじゃないだろうな?」

 これがゲームとか漫画であれば美智子がこう言う展開に詳しいのだが、あいにくそっち方面には疎い賢吾は断片的な知識だけでしか答えられない。

 それにその答えは大外れだった様で、フードの男の口からは思わず苦笑いが漏れた。

「秘められた力って……ふふっ、そんなもの……俺は君から感じた事なんて1度も無いよ。そもそも魔力が身体の中に無い時点でこの世界の常識とは悪い意味で一線を画してるんだし、簡単な魔術も一切使えないんじゃはっきり言って戦力外だからね」


 物凄く馬鹿にされている気がするのだが、だったらどうして自分にこだわるのかをまず知りたい賢吾。

「何で俺なんだよ? どうして俺や……美智子もか。何で俺とか美智子に固執するんだ?」

 本心から知りたいその疑問に対して、フードの男はまたも意味ありげな事を口走った。

「俺は別に君達に固執しようと思ってしている訳じゃ無いんだ」

「はい?」

「色々とちょっと訳ありでね……。騎士団に聞かれるとかなりまずいから、どうにかして君達を連れ出す必要があったんだ。それもこれも、ずーっと前から聞こえる「声」に従って動いている結果さ」

「……はぁ……」

 男の説明はさっぱり何が何だか要領を得ない。

 良く考えてみれば、最初にあの島でバトルした時から始まったこの男との因縁は長い。

 船ではワイバーンと弓を使って助けられたかと思いきやその後に不死の生物を使って襲われるし、今回はこうして睡眠薬で眠らされて誘拐する作戦の指揮を執っていて、バトルも最初とあの洞窟の時と今回で3回目になるのだから。

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