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129.やっと出会えた

「何だあれ? 見える限りだと馬が沢山来ているみたいだけど……騎士団か?」

「いいや……あれは多分、俺を狙って来ている奴等だと思います」

「は?」

 そんな話は初耳なんだけど、と御者の男が口をあんぐりと開ける横で賢吾は両手を合わせて御者に頼み込む。

「すみません、凄く大きな頼み事があるんですけど」

「頼み事……?」

 いきなりのその申し出に御者の男はキョトンとするが、提案した方の賢吾にとっては自分がこの先で無事に生き残れるかどうかの瀬戸際なのだ。

「余り詳しくは言えないんですけど、俺……あの馬の大群に追われているんです。ですから……」

 上手く行くかどうかは分からないものの、このまま外に飛び出すよりはマシだと考えて結構無茶なお願い事を賢吾は御者の男にし始めた。


「ありました! この馬車に間違い無いです!!」

 幌のついた馬車が砦の前に停まっているのを部下が見つけ、それを確認したフードの男が大で指示を飛ばす。

「良し、あの男は絶対ここに居る筈だ! この砦は大きくて広いからしらみつぶしに探せ!! 小さな虫の1匹も見逃さない気持ちで取り掛かれ!!」

 そんなに人数は居ないものの、それでも20人以上の部下が居る事を利用して砦の捜索に入る。

 川の別の分岐方面に向かった部下達にも2人の部下を向かわせているので、じきにここにやって来るだろうと考えながら自分は馬車の中を確認し始めるフードの男。

(ふむ……確かに色々な物資を運んでいる様だな。それがこの雨で身動きが取れない状態なのか。もしかしたらこの雨は俺達にとって恵みの雨かも知れないな)

 そう思いながら良く荷台の中を調べてみれば、まだ新しい靴の跡も一緒についているのが確認出来る。

(薄暗い中でも俺の目はごまかせないぞ。この靴の跡からすると……荷台に誰かが座り込んでいた証拠だな)

 雨でぬかるんだ地面から泥が靴に付着したその痕跡を目ざとく見つけたフードの男は、口元にニヤリと笑みを浮かべて荷台から降り、自分も砦の中へと足を進めた。


 だが、その結果は意外なものだった。

「どうだ、居たか?」

「居たには居ましたが……この馬車の御者しか居ませんでした」

「何だと?」

 砦の3階にある1番広い部屋で部下に捕らえられ、ロープでグルグル巻きにされた馬車の御者の男がフードの男の目の前に突き出される。

「おい、お前と一緒にここで雨宿りをしている男が居る筈だ。魔力を持っていない男だから知っているだろう?」

 短剣を目の前にちらつかせながらフードの男はそう言うが、御者の男の口からはまさかの答えが返って来る。

「ああ、確かにその男を乗せた。だけど途中で降ろしたんだ」

「降ろした?」

「そうだ。どうやら進む方向が別だった様で、村から出た後にその……向こうにある北方面に向かう街道で降ろしたんだよ。雨が降っているから心配だなとは思ったが、どうしても降ろして欲しいって強く言われて断り切れなかったんだ」


 途中であの男を降ろしたと言うその回答に、フードの男は訝しげな眼を向ける。

「そうか。ならもうここに用事は無いな。さっさと引き上げるぞ」

「リーダー!?」

 やけにあっさりと退却を決めた自分達のリーダーに対し、まさかと言う目つきで部下達が驚きの表情になる。

「ここに居ないんじゃ何時までもここに居たって仕方が無いだろう。その男も関係が無いんだったらさっさと解放してやれ」

 何だか納得が行かないが、リーダーが言うのならそれに従わなければいけないのが部下なのでしぶしぶと言った感じで御者の男を解放する部下達。

「忘れ物だけ無い様にしろよ」

 部屋の中に集まった部下達を見渡してそう言った後、自分がまず最初に部屋を出てからドアの脇に待機し自分の部下全員がその部屋を出るのを確認。


 だが、2階部分へと続く階段を下りようとしたフードの男がいきなり踵を返す。

 それに気が付いた部下の1人が彼に声をかけようとするが、フードの男は唇に人差し指を当てて静かにする様にジェスチャーをしてからその部下を引き連れて再度広い部屋のドアの前へ。

 そして短剣を構えながらそのドアを思いっ切り蹴り開けると……。

「……はっ!?」

「やっと会えたね、魔力を持たない賢吾君?」

 その部屋の床に敷かれていた絨毯がめくり上げられており、絨毯の下には小さいながらも床下の貯蔵庫が。

 そこから這い上がって来た賢吾と、ドアを蹴り開けたフードの男の視線がバッチリ合う。

 小柄な賢吾だからこそ潜り込めたそのスペースだったが、後一歩の所で油断してしまったのだ。


 でも見つかってしまったからと言ってここで諦める賢吾では無い。

「さぁ、大人しくこっちに来るんだ」

「絶対に嫌だね」

 賢吾は床を蹴って窓に向かって走り、何の迷いも無くその窓枠に足をかけて外へとジャンプ。

「なっ!?」

 フードの男が窓から身を乗り出して下を見てみれば、そこに丁度存在していた2階部分の階段に上手く受け身を取って着地してから逃げて行く賢吾の姿があった。

 大きなリスクを承知で、一か八かの賭けに出てそれが成功したのだろう。

「逃がすな、捕まえろ!!」

 フードの男の大声で砦の中の追撃が幕を開ける。

 せっかくここまで大急ぎで追撃して来たのだし、ここで逃がす訳にはいかない!!

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