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124.夢

 レメクのその提案で、賢吾は早い内にさっさと用意して貰った寝床へと向かう。

「色々して貰ってありがとうございます」

「別にどうって事無いわよ。こっちも荷物積むの手伝って貰ったんだし。あ、それと貴方の濡れていた服だけどこの家の裏に干しておいたから。明日の朝には乾いてると思うわ」

「分かりました」

「それと今着ているその服もあげるわ。着替えが無いと色々困るでしょ?」

「助かります」

「いいえ。それじゃお休みなさい」

 レメクに色々と世話を焼いて貰ったのは有難いものの、このままここで眠ってしまって気が付いたらあの追っ手達が居た……なんて事にならないかと賢吾は不安になったままである。

 だがそれも仕方無いかも知れない。

 今までの事を思い返してみれば、信用していた人間や獣人に裏切られる形でこうして自分が脱走する結果になってしまったのだからと賢吾は考えてしまう。

(無事に起きられたら、朝早くからさっさと馬車を出して貰って王都に向かうとしよう……)

 この不安な気持ちを抱えたままの状態で眠れるのか心配だったが、やはり色々とあって身体は疲れていた様で意外と早く賢吾は深い眠りにいざなわれて行った。


 夢の中で遠い過去の記憶が蘇る。

「ほら、もっと腰を入れて拳を突き出すんだ!! そんなへっぴり腰では相手も倒れないぞ!!」

 自分の日本拳法の師匠でもある祖父から厳しい指導を受け、まだ子供の賢吾は必死に食らいついていた。

 ……かと思えば、夢で良くある急激な場面転換が賢吾を襲う。

 今度は中学生になった自分が、美智子と一緒に学校から帰宅する途中でこんな会話をしている場面だった。

「ねえねえ、賢ちゃんは高校って何処を考えてるの?」

「んー、とりあえず地元の公立高校。美智子は?」

「私は賢ちゃんと同じ高校と、それから併願で私立高校ね」

「そうか。お互い頑張ろうな」

「うん!」


 更に場面転換して、今度は大学3年生の冬に入る。

「内定貰ったんだって? おめでとう賢ちゃん!」

 この不況のご時世、中堅メーカーから内定を貰えたのは賢吾にとってはほぼ奇跡の様なものだった。

 東京で内定を貰った事によって賢吾の東京在住は決定したのだったが、毎年岩手に帰省する予定も勿論あるし美智子が岩手で就職する結果になっても仕方が無いと思っている。

 そんな美智子は美智子でアルバイトの給料を使い、ささやかながら賢吾に何かプレゼントをしようと思っていた。

「プレゼント?」

「うん。でもまだ何にするか決めていないし、決めても渡す時まで賢ちゃんには秘密ね!」

「そうか。なら楽しみにしてるよ」

 そう言いながら一緒に交差点で横断歩道を渡ろうとした時、よそ見運転の車が2人に向かって突っ込んで来た――。


「美智子っ!!」

 叫びながら飛び起きた賢吾は、覚醒していない頭を左右に動かしてあんぐりと口を開けたまま状況確認をする。

 その状況を自分の目で確認し、今までの光景が全て夢の中の出来事だったと気が付いた。

 夢の中の出来事で良かったと思うと同時に、かなりびっしょりと汗をかいているのが分かって思わず苦笑いと安堵の息を漏らす賢吾。

(何だ……夢か……)

 でも、今の状況は夢じゃない。

 自分が川から這い上がって、そこで村の住人に世話になった結果こうしてベッドで睡眠を摂る事が出来たのだ。

 目覚めて起きてみたらまたあの連中に捕まっていた、と言う最悪の展開だけはどうやら免れた様だがまだ油断は出来ない。

 今もあの連中は自分を捜しているだろうし、自分だってまた美智子を捜さなければいけない。


 部屋の中の明るさ、それから窓の外の様子を見てみると既に太陽が昇っている……らしいのだが何だか薄暗い。

 それと同時に気が付いたのが、ポツポツとではあるが雨が窓に叩きつけられる音だった。

(えっ、雨!?)

 雨が降っているんだったらせっかく乾かして貰った筈の自分の服や靴がまたビチャビチャに濡れてしまっているのでは……と賢吾は慌てて外へと飛び出した。

 しかし、家の裏手に回ってみた賢吾がそこで目にしたのは何も干されていない物干し竿だけだった。

(あれ……俺の服が無い……)

 まさか誰かに盗まれてしまったんじゃ、と思う賢吾の後ろから不意に声が掛かったのはその時だった。

「あら、おはよう」

「あっ……ああ、おはようございますレメクさん」

「もしかして服と靴を探しに来たの? だったら雨が降り始めた時に既に私の家に避難させておいたわよ」


 賢吾の様子を見に来たのであろうレメクと鉢合わせし、その情報を手に入れた賢吾はさっそく彼女の家へと向かった。

「はい、これでしょ? もうちゃんと服も靴も乾いてるわよ」

 差し出された、自分が地球に居た時から身に着けていた服と靴を差し出されて賢吾は安堵の表情を浮かべる。

「あーそうです、そうです。ありがとうございます。ところで馬車は……」

「ああ、雨が降ってる時は基本的に馬に負担が掛かるから出さないんだけど、この程度だったら降っているレベルに入らないからもう出発させようと思って。だから貴方を起こしに行ったらベッドに居ないから、もしかしたら裏に……って思ったら案の定ね」

 どうやら悪い夢が良いタイミングで終わってくれたらしいので、賢吾はまたもや苦笑いを漏らした。

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