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123.生き残った理由

 賢吾の額から玉となって流れ出る汗。

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 ようやくの事で荷物運びの手伝いを終えた賢吾は、荒い息を吐きながら近くの椅子に腰を下ろして一休みする。

 川に流されるままだった彼は、その川の流れがスピードダウンした所で岸へと上がる。

 スピードダウンの理由としては、川の流れを一部でせき止めている人工の木製の船着き場が設置されている小さな村があったからだった。

 流されていた時間はおよそ15分位だが、普通に歩くよりも楽に下流までやって来られたのでなかなかの距離を流されて移動していたのだろうと結論付ける賢吾。

 それにようやくこうして人里を見つける事が出来たので、せめてこのビチャビチャで水没した服だけでも乾かす場所を提供して貰えないだろうかと賢吾は船着場から岸に上がり、村の中へと歩いて行った。


 そうして気が付けば、彼は見知らぬ村で1人ぼっちのまま慌ただしい時間を過ごしていた。

 村の住人達は川から上がって来た賢吾に最初は驚いていたものの、よそ者を排除すると言う雰囲気とは全く正反対で割と暖かく彼を迎えてくれたのだ。

 すぐに水を吸って重くなっていた服を乾かし、簡素ではあるが着替えも用意してくれ、王都までの道も丁度馬車で農作物を届けに向かうのでそれに同乗させてあげると提案された。

 勿論賢吾はありがたくその行為を受け取る事にしたが、代わりに馬車で運ぶその荷物を一緒に積み込んで欲しいとお願いされたのだった。

 それ位だったら別に賢吾としても構わなかったので、身体を乾かして着替えてから作業に取り掛かって、およそ1時間でようやく全ての荷物を馬車に積み終えた。


「食事が出来たわよ。食べるかしら?」

「あーはい、頂きます……」

 荷物運びを終えて一息ついていた賢吾に声を掛けたのは、この村に彼がやって来て最初に声を掛けてくれた村の住人の女だった。

 痩せ型で、賢吾よりも少しだけ背の高いややエメラルドグリーンの髪の毛を持っている外見年齢25歳位の女はレメクと名乗り、見ず知らずでしかも魔力を持っていない賢吾にも嫌な顔1つ見せずに世話をしてくれる。

 それはそれでありがたいのだが、賢吾としてはこの世界に来てから……正確にはここ最近の経験からもはや誰を信じて良いのか分からないので、半ば警戒しながらのコミュニケーションとなった。

 そんな彼をレメクは無暗に問い詰める様な事はしない。

 この村は王都からかなり離れている分、隣のアイクアル王国との国境に近い南東の村なのだと言う。

 なのでここを拠点にしてアイクアル王国から訪れる旅人も多いらしく、いちいちこの村にやって来た事情を問い詰める事はしない……と言うよりも面倒臭いらしい。


 だが、賢吾の方はこの世界では美智子以外に身寄りが無い上にホームレス状態なので、この村で集められるだけの情報を集めたかった。

 だから食事がてら、レメクと名乗ったこの女に色々と聞いておきたいのだった。

 村の畑で採れる農作物や、賢吾が流されて来た川で採れる魚等をフルに使用した料理のフルコースで迎えられ、それ等を賢吾は腹に収めて行く。

 考えてみれば、あの睡眠薬を入れられた食事から何も食べていないと思い出したのでかなり腹が減っていたのだ。

 そしてこのフルコースは芋料理の割合が多く、満腹感を覚えやすい芋は賢吾にとっては重要なスタミナ源になる事間違い無しである。


 そのフルコースを腹に収めつつ、賢吾はレメクにインタビューを試みる。

「ちょっと聞きたいんですけど……」

「何かしら?」

「この村に俺と同じ位の年齢の女が来ませんでした? ちょっと銀髪っぽい色合いの黒髪で、上が緑のシャツに赤いスカート履いてて……ああそうそう、髪の長さが腰まであるんですけど」

 思い出せる限りの美智子の容姿や服装の特徴をレメクに伝える賢吾だが、彼女は食事をする手を止めてしばし考え込む。

「うーん、この村には結構色々な人が来るからね。でも……私が覚えている限りだとそんな人は見た事が無いわね。その人を捜しているのかしら?」

「はい。数日前に行方不明になってしまって……」

 本当は何時離れ離れになってしまったのか、ぐっすり寝込んでいた賢吾はその寝ていた日数の見当がつかないので数日前とアバウトに伝えた。

 だが、それでもレメクは知らないと言う。

「数日前……それならやっぱり私は見ていないわね」

「そうですか……」


 ゲームや漫画の様にそうそう上手くは行かないか……と落胆する賢吾。

(だとすると後考えられるのはあの屋敷に美智子がまだ居るか、それとも誘拐されたのが俺だけかって話になるよな?)

 もう1つ考えられるのは自分とは別の場所に連れ去られてしまったケースだが、いずれも推測の域を出ていないので何とも言えない賢吾。

 自分の期待していた答えが得られなかった事で明らかに食事のペースが落ちてしまった賢吾に、フォローする様な口調でレメクが声を掛けた。

「まぁ……と、とにかく今日は色々手伝ってくれたしご飯食べたらもう寝た方が良いわ。貴方がここに来たのが日没の少し手前位だったからもう夜だし、どうせ馬車も明日の朝にならないと出ないんだからね」

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