122.動き出す追撃部隊
「どうだ、居たか?」
「いや……僕達の方は見つからない。そっちは?」
「こっちもまるでダメだ。ったく、何処まであいつは流されて行ったんだ?」
およそ100人を動員した追撃部隊を編成したイルダーとフードの男は、屋敷の方から馬を駆って崖の下の川まで大きく迂回をして辿り着いた後に、その川に沿って下流へと賢吾の捜索を続けていた。
しかし、川の流れがなかなかのハイペースである事や何処か途中で岸に上がって林や洞窟の中に身を隠した可能性もあるので、何処まで流されたかの見当が付けられない。
その為、上流の方から賢吾が身を隠せそうな場所をしらみつぶしに捜して行くしか今の所では方法が無いのだ。
「やっぱりワイバーン出した方が良いんじゃないの?」
「それはダメだ。目立つ」
最初からワイバーンを使って空から捜索をすれば良いんじゃないかとイルダーは思っていた。
だが、あの奴隷船の時に賢吾と美智子を王都まで送り届けた事があるからこそ、自分達がワイバーンを使っているのも王国騎士団に知られている可能性が高い。
もし王国騎士団に見つかってしまったらまたややこしい話になるので、使いたくても使えないのが現状だった。
空からの捜索が出来れば凄く楽なのに……と悔しさを覚えつつも、今はとにかく賢吾を見つけて捕まえなければいけない。
しかしこのまま闇雲に捜索を続けていても時間を無駄に消費するだけで、賢吾が見つかる可能性はその時間が経つと共に低くなるだろうとフードの男は考えた。
ならば……とイルダーに捜索方法を変える事を伝える。
「イルダー、君はここからまた下流に向かって捜索を続けてくれ」
「えっ、あんたは?」
「俺達は下流から上流に向かって捜索をする。両側から挟み撃ちにして行けば時間だって今の半分位で済む筈だ」
「あ、成る程な」
なかなか頭が良いじゃないかと感心するイルダーに、フードの男は自分の部下達を率いて下流へと急ぎ始めた。
この川をずっと流れて行ったなら、きっとこの川の近くに賢吾が居る筈だと自分の勘を信じて。
フードの男を見送ったイルダーも、引き続き自分と共にやって来た人間と獣人を率いて捜索を再開する。
今まで彼が隠れられそうな場所はとことんまで捜して来たつもりだが、もしかしたら見つからない可能性もある。
(うーん、参ったなぁ。でもまだまだ探し始めたばかりなんだし、ここから王都まではかなり離れているんだしそうそう簡単に王都に帰れるとも思えないけどねぇ)
賢吾と美智子を眠らせて連れて来たあの大きな屋敷は、フードの男の所有している建物だ。
何故こんな場所にあんなに大きな屋敷を建てたのかと言うのはあのフードの男しか知らないし、自分とあのフードの男がまだ知り合って半年位しか経っていない上に、こうして一緒に行動するのも1週間に1回あるか無いかと言うレベルだったので詳しい事情は聞いていないのだった。
(だが、僕達の計画も少しずつ進んでいるんだ。あの魔力を持たない人間に僕がここに居る事を騎士団に喋られでもしたら……)
王国騎士団に入ると言ったのが嘘だとばれてしまう上に、あのフードの男が既に国家に反逆しているので一緒に処刑されてしまうだろう。
もし喋られてここに騎士団が来る様な事があれば、その時は早々に国境を越えて他国へと逃げる予定だ。
(他国の領土内だったら、この国の騎士団も全くと言って良い程に手を出せないからな!!)
自国の領土内であれば王国騎士団の権限が発動されるのだが、他国の領土に逃げ込まれるとそうもいかなくなる。
他国の領土は他国に存在する騎士団の管轄になるので、国を跨いで色々とやられてしまうとかなりややこしい事になってしまうのだ。
それを逆に利用すれば、他所の国で色々と犯罪を犯しても他国の領土に逃げ込んでしまえば何とかなってしまう。
その為、世界中で指名手配でもされていない限りは自国の犯罪者を他国の騎士団が身柄を拘束したとしても、色々と手続きとかが必要なのでその間に脱走を企てたりする余裕も十分に生まれる。
(でも僕等にとってはそれは関係無い。僕等は騎士団の所属じゃないんだから、例えあの男が国境を越えようとも追い続けてやるさ)
自分達にとって、あの男はこれからの計画には欠かせない存在だとフードの男から最近になって聞かされている以上は何としても捕まえなければいけない。
それに、イルダーがゲットしている情報にはまだ気になるものがあった。
(そう言えば、僕達のリーダーを追いかけて捕まえる為に王国騎士団が選考会を開いたって話があったな)
王都でそんな大会が開かれたとあれば、色々と情報収集の為に王都に住んでいたイルダーの耳にも嫌でも飛び込んで来る。
(そっち関係の情報も引き続き集めているけど、やっぱりメインとしては王国騎士団の指導下になるからか、結成までも時間が掛かるし行動までもまるで遅いな……)
選考会が開かれる時点で決断が遅いのだが、それはそれで自分達にとってはありがたかった。
(まぁ、おかげでこっちの計画も進める事が出来たから助かった。……王国騎士団、御前達もそろそろ終わりだよ)