117.走る走る賢吾達
パソコンが12日の日曜日に突然ぶっ壊れて、その日の内に新しいの購入。
まだ色々設定しなきゃいかんとです。だから次話もちょっと遅れるかもです。
「……!」
とっさに賢吾は身を隠し、近くのドアになるべく音を立てずに飛び込む。
忍者の如きその動きで息を潜めつつ、そのドアを少しだけ開けて足音の主を確認し始める賢吾。
(足音からすると1人……男か女かも分からないけど、警戒するに越した事は無いな)
自分と同じ様に脱出し、そしてこの屋敷の中をさまよっている美智子だったらかなり都合が良い。
その人物が角を曲がって、賢吾が身を潜めているドアの前を通り過ぎるのをドアの隙間から覗き込んでみる。
(……え?)
ドアの隙間から一瞬見えたその光景は、自分の目に狂いが無ければ間違い無く……。
(あ、あれってあの時のフードの男じゃないのか!?)
久しぶりに見る顔ばかりを最近見掛ける気がするが、それよりも今は何故彼がここに居るのか?
騎士団と敵対している筈の彼が、騎士団の食堂で働いている従業員達と手を組んだと言う事なのだろうか?
それならそれでもっとまずい事になる。
(一旦、誰が俺と美智子の敵なのかを整理しなきゃな)
騎士団の食堂で働いている従業員達の宿舎で眠らされてしまったので、まずはその食堂の従業員達が敵。
それからあの脱獄した赤毛の分隊のリーダーがここに居ると言う事で、あの男も間違い無く敵。
そして今しがた見掛けたフードの男……あの船の時に助けられたとは言え、その前後で敵対関係にあるのでやっぱり敵。
(それに……騎士団の人間達も何だか怪しい動きをしているんだよなぁ)
レメディオスやロルフを不自然なタイミングで見掛けたのもまだまだ記憶に新しいので、もう誰がどの立場なのかがさっぱり分からない。
(くそ……これじゃ誰を信用して良いのかさっぱり分からん……)
最終的に誰を信用するかを決めるのは間違い無く自分自身なのだが、今の賢吾はその決定が頭の中で出来ていないからこそ非常にストレスなのだ。
(とにかく今はあいつがもう少し遠くに行ってからやり過ごして、何としても美智子を探し出さないとな)
自分が身を潜めているドアの前を通り過ぎてからそれなりに時間が経っているが、完全に通路の向こうの曲がり角か何処かに消えてくれないと安心出来ない。
(それにしても、あいつ等の目的は一体何なんだ?)
ここが何処かも分からない、自分を連れて来た目的も不明。
その上あの部屋に鍵まで掛けて閉じ込められていたとなれば、この屋敷から逃げられたくない存在と言う事になるので複雑な心境である。
だが、ここは逃げたい賢吾はその目であのフードの男が通路の突き当たりの曲がり角に消えるのを見届ける。
(良し……)
そっとドアを開け、フードの男とは反対側の通路へと小走りで進み出す賢吾。
ここで足音を立ててしまえば気付かれる可能性もあるので、やっぱり忍者の如く抜き足、差し足、忍び足だ。
そんな賢吾だったが、この世界にもし神と言う存在が居るのならその神は彼を見放したのだろう。
少し先にある通路の曲がり角から、ぬうっとあの赤毛の男が曲がって来たのだ。
「えっ……」
「は……」
絡み合う視線。見つめあう男と男。
シチュエーションが一歩間違ったら確実に気持ち悪い事この上無いだろう。
先に我に返った赤毛の男が、自分が出て来た通路の方に向かって大声で叫ぶ。
「お、おいあいつが居たぞ!!」
「くっ!!」
即座に踵を返して賢吾は走り出す。
この方向はあのフードの男が居る方向だがそんな事は構っていられない。
先程ドアの陰に隠れた時に仲間が一緒に居るのを見てしまった賢吾は、今もそうだが仲間を呼ばれた状況で赤毛の男の脇をすり抜けるのはリスクが高いと瞬時に判断したからだ。
突き当たりの角はT字路になっており、フードの男は左へと曲がったのをさっき見ている賢吾。
もちろんその方向には進まずに右へと曲がり、全速力で廊下を駆け抜ける。
(ついてない!!)
何でこんなについてない状況が続くのか、自分で自分を呪いたい賢吾。
もしかしたらもう既に何かに呪われているのかも知れないが、今はそれよりもこの屋敷からさっさと脱出するのが先決である。
そんな彼の後ろからは数人の追っ手の足音がして来るが、振り向かないで走り続ける。
「うおっ!?」
賢吾の顔の横を矢が掠めて飛んで行く。
ここから逃げられては困るので、矢で足止めをしてでも捕まえる気が明らかに満々だ。
「くっそ……ふざけんな……」
この状況になった今までの出来事全てに恨み言を呟きながら、階段を駆け上がったり駆け下りたりで何とか追っ手を引き離しに掛かる賢吾。
しかし、神はとことんまで彼を見放すつもりらしい。
何故かと言えば、4階部分にやって来た賢吾がバンッと廊下の突き当たりにある木製のドアを開けてみた、その先の場所が問題だったからだ。
「げぇ……!?」
吹き付ける風。
強風と言う程では無いものの、高さがある場所だけにある程度の爽やかさが感じられるので過ごしやすいコンディションと言える。
……こんな状況で無ければ、の話だが。
それもその筈、賢吾がドアを開けた先に待っていた場所と言うのが、屋敷の名所とも言うべき広いバルコニーだったからだ……。