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111.トレーニング終了

「う……」

「あっ、賢ちゃん!」

 目が覚めて徐々に視界がクリアになって来た賢吾の耳に、聞き覚えのある声が響いて来る。

「んー……あれ、ここは何処だ?」

「騎士団の何時もの部屋よ。賢ちゃんが気絶しちゃったから、上手く理由をつけてここまで食堂のあのコック長さんと大剣使いの狼獣人さんに運んで貰ったのよ」

「あー……そうかぁ、俺もまだまだだったって事か……」

 騎士団の総本部の部屋に運んで貰っただけでは無く、ベッドに寝かせるまでもしてくれたらしい。

 だが幾らトレーニングとは言え、これが本当の戦闘だったら死んでいたのは賢吾と美智子の方だったのは間違い無いだろう。

 広い場所だろうが狭い場所だろうが、多人数に囲まれて相手に出来るのはどんなに頑張っても2人までだろう。

 もしかしたら3人までは行けるかも知れないが、今回は相手が5人と言う大人数だった。

(まぁ、実質あのコック長は戦ってないんだがな……)

 これは武術の経験が無い一般人が相手だったとしても、到底賢吾に勝ち目は無い戦いなのだ。


 そう考えていた賢吾は、窓の外が明るい事に気がついた。

「あれ……今ってもう朝なんだな」

「そうよ。ずっと起きないからお医者さん呼びに行こうと思ってたのよ。これはちょっとあの食堂の人達もやり過ぎじゃないかしらね」

「俺もそう思う」

 映画の中みたいにバッタバッタと敵を薙ぎ倒して進めるのは、よっぽど相手と実力差がある時ぐらいのものである。

 今回の相手はどう考えても手練れ揃いだったし、本当にあの中に一般人が居るかどうかと言うのも怪しい。

「何でここまでのレベルでやるのか……色々と話を聞きに行かなきゃ納得出来ないな」

 憤りの色を顔に浮かべつつそう言う賢吾に、美智子が何かをハッと思い出した。

「ああそうそう、その件なんだけど、目が覚めたらまた私達の所に来てくれってコック長さんから伝言よ」

「そうか、なら都合良いな」


 じゃあ朝食を食べる為に食堂に向かおうと決める賢吾だが、どうやらその必要は無いらしい。

「あれ? 食事ももう用意してくれたのか?」

「うん。今日はあの男の狼獣人さんが持って来てくれた。白とスカイブルーのフリフリエプロンで可愛かったわよ」

「……ああ、そう」

 脳内で絶対にイメージしたくない格好である。

 ともかく食事を持って来てくれたのはあり難かったので、トレイに載せられているその食事に手をつけ始める賢吾。

 するとそのメニューの中に見慣れた物が。

「……これって天ぷらじゃないか?」

「そう。昨日の残り物なんだけど、余らせておくのは勿体無いからって」

「……そうか」

 自分自身も自炊の時に前日の残りのご飯を温め直して食べているので、残り物を出されるのは百歩譲っても別に良いのだが、油っこくて腹に溜まるジャンルの天ぷらは出来れば朝からは勘弁して貰いたい。

 それでも出されたからには胃の中に収めておけばエネルギーになるので、我慢して賢吾は食べ進める。


 そうして食事が中盤に差し掛かった頃、賢吾はある事に気がついた。

「美智子は寝たのか?」

 自分は気絶してしまったので目覚めた時は既に朝になっていたのだが、その自分が起きるまでの間は美智子がどうしていたのかまでは分からない。

 しかし、その疑問は杞憂に終わる。

「ああ、私なら普通に寝てたわよ。で、起きてみたら賢ちゃんがまだ目を覚ましていなかったから心配になって、ここで目が覚めるまでずっと待ってたの。外には衛兵の人達も居るから、いざとなればすぐに医務室に運び込める様にここで見てて貰ったのよ」

「それで、目が覚めたら交代したって言うのか?」

「そう言う事」

 人が気絶している時にぐっすり眠れるなんて、何だか無責任な気がしないでも無い。

 それでも無事に目が覚めたので一安心だ。


 だが、それと同時に自分の無力さと情けなさでネガティブな感情も湧き出て来る。

「……ごめんな、美智子」

「え?」

「今回はもし美智子が誰かに誘拐されたら、それを助けに敵のアジトに乗り込んで行くって言うシチュエーションだっただろ? 今回はそれがトレーニングだったから良かったけど……もしこれが実際のシチュエーションだったら俺は美智子を助けられなかったって言う結末になるよな」

「……」

「考えてみれば色々まだ策は出来た筈だよな。素手で向かわないで何か物を投げつけたり、1人ずつ相手に出来る様に狭い場所に誘い込んだり……だけど、お前が捕らわれているのを見たらトレーニングでも我慢出来なくてさ。本当、俺って……情けないな」

 食事の手を止め、がっくりと項垂れて自分の不甲斐無さを嘆く賢吾。

 その賢吾の頬に、突然柔らかい物が触れたのはすぐの事だった。

「……何言ってるのよ。4人相手に果敢に立ち向かった賢ちゃん、凄く格好良かったわ。他人の振りして尻尾を撒いて逃げちゃう様な男じゃないんだって凄く安心した。最後は確かに負けちゃったけど……でも、それでも賢ちゃんは私にとってのヒーローである事には変わり無いわよ」

 賢吾の頬にキスをした美智子は、自分が素直に感じた賢吾への感情を穏やかな口調で伝えた。

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