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108.攻めろ賢吾!!

 ロープを何とか解く為に美智子が奮闘し始めた頃、賢吾は1階から2階に続く階段の踊り場から犬獣人の女を階段の下に蹴り落としていた。

 女は両手にファンタジー作品で良く見る事が出来る鉤爪 (かぎづめ)を装着して襲い掛かって来ていた。

 だが高低差のある場所ならある程度リーチの差を無くす事が出来るので、まずは女を階段まで誘い込む。

 そこで階段の下から上に向かって突き出されたその女の爪を避けてから、賢吾は全力で階段の下に蹴り落とす。

(何か、トレーニングにしてはかなり本格的じゃないのか!?)

 いよいよこれがトレーニングとは思えない程のレベルだと感じている賢吾。

 最初のあのワシ獣人を始めとして、明らかに殺しに掛かって来ている者も結構居るこの状況ではトレーニングだから手を抜ける……なんてレベルでは無い。

 こうなったらその真意をあのコック長に聞くまでくたばる訳には行かない賢吾は、1階を何とか切り抜けて2階へ。


 1階ではおよそ10人位しか敵が出て来なかった。

 廊下と言う横に狭いスペースで、最初のワシ獣人と同じ様に廊下のドアに敵の腕や足を挟み込んで撃退したり、花が生けられているインテリアの花瓶を武器代わりに投げつけてダメージを負わせたり、背負い投げで壁に向かって背中から投げつけてから顔を踏み潰して今冬させたりと、壁やドアや家具を存分に活かした戦法で切り抜けていた。

 犬獣人の女の様に階段の高低差を活かして蹴り落とすのも有効な戦い方である。

 しかし、2階では途中からどうやらそうも行かないらしい場所があった。

 食堂の従業員達専用の食堂があったのだ。

 地球の日本で例えるなら、それこそ会社の社員食堂や高校や大学の学生食堂と言えるだろう。

 あのコック長が、食堂で働く従業員の部下が沢山居ると言っていた事からも分かる様に丸いテーブルが等間隔に並べられ、それぞれ2つの椅子がセットされている。


 その社員食堂にはここで賢吾を仕留めるべく、多数の従業員がそれぞれ武器を手に待ち構えていた。

 さっきの階段からこの社員食堂までは一本道なので引き返せないし、引き返した所でこの社員食堂で待ち構えていた従業員が追いかけて来るのは簡単にイメージ出来る。

 しかも3階に続く階段はこの食堂を抜けなければ無いらしいと言う、何とも不便な内部設計だ。

「ここは通さないわよ!!」

 あの地下施設への入り口を見つけた女従業員の合図で、賢吾の姿を見つけた従業員達が一斉に襲い掛かって来た。

 それに対して賢吾はこの食堂の構造を活かした戦い方に持ち込む。

 食事用のテーブルが多いので大きく動こうとしてもなかなか動けないこの場所では、武器を持っている相手が存分に武器を振るえないと言う事でもある。


 テーブルの上に飛び乗って飛び掛かって来る敵の1人を、そのまま受けて後ろのテーブルへと投げて叩き付ける。

 更に椅子を投げつけて武器代わりにし、椅子でブロックして防具代わりにも出来る。

(ジャッキー・チェンもこんな戦い方してたな!!)

 あのアクション俳優は長い椅子を使うのが強いイメージだが、こうした小さい椅子を蹴り飛ばして相手にぶつけたりソファを使って上手く移動したりと、戦う上で様々な椅子の使い方を賢吾に映像で教えてくれた。

 今はそのイメージを頼りにして、武器を振りかざして自分に向かって来る敵に同じ様に椅子を蹴り飛ばして転ばせたり、後ろに椅子があればそれに座った勢いのまま後ろに転がって攻撃を回避したりする。


 だが相手の攻撃もただ武器を振り回して来るだけでは無い。

 ゴミとして処分予定のワインの空き瓶を投げつけて来たり、鍋の中で沸騰している状態の熱湯をその鍋ごと賢吾にぶちまけて来るのも居るので足元が滑りやすくなる。

 更にテーブルを賢吾に押し付けて壁とサンドさせようとする者も居るので、相手も相手で上手い具合に食堂の色々な物を使って賢吾を通すまいとする。

「くうっ!?」

 空き瓶が自分の横の壁に当たり、飛び散った破片で少し頬を切ってしまった賢吾だがそんな傷に構っていられない。


 こう言う時にクラリッサがあのイルダーとのバトルで使っていた必殺技みたいなのが自分にもあれば……と感じてしまう賢吾だが、あいにくそんなものは持っていない。

 更に言えば愛用(?)の鉄パイプも手元に無いので、この状況ではこうやって周りの状況を見て使える道具があれば存分に使うのだ。

(くそ……これじゃ向こうの方がチートじゃないかよ!!)

 美智子から聞いた、異世界トリップと言うジャンル作品では良く見かける「チート」と言うフレーズ。

 主人公が強大な力を手に入れて大活躍するのが人気らしいのだが、あいにく賢吾にはそんなチートの能力は無い。

 むしろ武器も防具も魔術も使えない上に、回復魔術でダメージを受けるのだから「逆」チートも良い所である。

 それでもこの状況を切り抜けていかなければならないので、その小柄な身体を活かしてテーブルの下に潜り込んだ賢吾は目の前に見えた敵の足を引っ張って仰向けに引き倒し、上手く股間を蹴り飛ばして悶絶させるのだった。

 確実に仕留めるのなら、こうして相手の急所を狙うのがセオリーなのだから。

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