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104.食事会

 その作った天ぷらをみんなでワイワイ(?)食べている中で、あの地下施設への入り口を発見した女従業員が賢吾と美智子にこんな事を聞いてみる。

「ねえ、そう言えば貴方達ってほぼ毎日武術の特訓をしてるのよね?」

「ああ、そうだよ」

「どれ位強いの?」

「分からないな。少なくともロルフ副団長よりは弱いし、武器を持っていないクラリッサにも敵うかどうか……」

 今までの事を思い出してそう伝える賢吾だが、ライオン獣人の従業員からは疑問の声が上がる。

「あれ? 僕が聞いた話だと騎士団と一緒に戦場に赴いてそれなりに戦果を挙げているって聞いたんだけど」

「それって何処の情報なのよ?」

「何処の情報って……第3騎士団の騎士団員達も食堂には良く食べに来るから、色々と騎士団員の中であんた等の情報も共有されてるんだよ」

「あ、そうなの……」


 何だか監視社会の様な気がしないでも無いが、この世界では自分達が異質な存在故にそう言う情報はやはり伝わるのが速いのだろうと半ば諦める賢吾と美智子。

「それは俺1人だけの戦果じゃないさ。第3騎士団員達のサポートがあった事もそうだし、美智子が助けてくれた事だってあった。そもそも俺には元々戦場の経験なんて無いからな」

「どう言う事だ?」

「俺達の世界でも世界中を巻き込んだ大きな戦争が過去に2回あったし、国単位で言えば色々な内戦が何百年も前から何回もあったから全く関わりが無い訳じゃ無いんだが……少なくとも、俺が生まれてからのこの20数年は俺達の国では何事も無いからさ」

「軍隊も無いのか?」

「軍隊って言うか……それに近い組織はあるんだが、厳密に言えば違う組織だ。でもまぁ……軍隊って言えば軍隊なのかな」

 実際に祖父が戦争を経験していた旧日本陸軍の少尉だった事もあり、旧日本軍と自衛隊との違いは未だに賢吾は良く分かっていない。

 別に自衛隊に入る気も無いのだが。


「そうなのか。この世界では魔術を使うのが一般的なんだが、あんた等の身体からは魔力を感じない。そう言う人間ばかりなのか?」

「そもそも私達の世界には魔力って物は無いわよ。でも機械が発達していて、色々な事が出来るのよね」

「ほおう……」

 感心と驚きのどよめきが食堂の従業員達の間に起こる。

 その中で、耳がしゅんと垂れていたあの狼獣人の従業員からこんな質問が。

「そう言えば戦う時に武器を使っていないって話もチラホラ騎士団員から聞こえて来てたんだが、御前達は武器にも縁が無いのか?」

 海老の尻尾をプルプルと口の先端で震わせつつそう聞く彼に、美智子は首を横に振る。

「あー……それは私達の国だけって言っても過言では無いかも知れないわね」

「え?」

「昔はこの国と同じ様に、腰に剣をぶら下げて歩いていた騎士団の様な人間も居たし傭兵みたいな人も居た。でも大体150年前位だったかしらね、民間人が武器を持つ事が禁止されて、今はそれこそ騎士団と同じ様に町の警備をしている人が持っている感じかしらね」

「武器を持つのが禁止されているのか」

「そうなの。外国なら民間人が武器を持つのが許可されている国は沢山あるんだけどね。だから必然的に、素手で戦う技術を身につける人が増える様になったのよ」


 しかし武術を習えば、例えばボクシングであればその拳が凶器として認定される事は有名だし空手家のキック1発で足の骨がポッキリと折れてしまう事もあるから、あくまで護身用に習う人間が多いのだとも賢吾が美智子の説明に続ける。

「俺が子供の頃から習っているのはあくまでも攻める為の武術じゃなくて「身を守るための武術」だし、本格的に武器を持っている人間と……それからこの中の何人かにも居るけど獣人って言う種族と戦ったのなんてこの世界に来てから初めてなんだ」

「獣人も居ないのか?」

「動物は居るけど、人と動物のハーフなんてそれこそ聞いた事が無いな。作り物の世界でならわんさか居るけど、現実にこうして見たのはさっき言った通りでこの世界が初めてだ。更に言えばでっかい動物は居るんだが、魔物みたいなのも俺達の世界では作り物の中だけの話さ」


 明治時代から民間人が武器を持つ事が禁止されている国から、こうして武器を持って戦うのが身近な世界に来てしまった賢吾と美智子は、今までの戦い方ではこの先で生き残って行けるかが分からないと考えている。

 武器と防具が使えない理由も一緒に説明しておき、その謎の現象を解明したいと考えている事も纏めて話した。

「だから少しでも身を守れる様にとは思っているんだが、武器も防具も魔術も使えないんじゃあ、なかなか大変でさ。今まで生き残って来られたのだって奇跡に近い様なもんだし、もし騎士団の人間達が周りに居ない所で多人数が同時に襲い掛かって来て、逃げ場が無かったら間違い無く死ぬ。だから俺達も騎士団員に頼んで多人数相手のトレーニングをさせて貰う様にしてるんだけど、騎士団員達も自分達のトレーニングがあるからなかなか時間が取れなかったりするんだよな」

 その話を聞いていた従業員の中で、今まで黙っていたコック長が意を決した様にこんな事を言い出した。

「ならば……私達と一緒にこれから多人数で夜の特訓をしないか?」

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