102.選考会の結果
その話を聞いて、先にロルフの話から聞いてみる賢吾。
「えっ……それじゃあロルフからの連絡を待っているって事で良いのか?」
「そうなるわね」
「まだこの王都には帰って来てないのか?」
「うん、まだ何も連絡は無いわよ」
「そう、か……」
明らかに嘘である。
連絡が無いのなら帰って来ていると言うのは知らないにしても、実際にあの地下施設でロルフの姿を見てしまった以上はロルフの姿が何処かで目撃されてレメディオスやクラリッサに伝わっていてもおかしくない。
この騎士団の食堂に長年勤務していると言うあのコックが間違い無くロルフだと言っていたのもあるし、副騎士団長と言う立場の人間である以上は多くの騎士団員が彼の顔を知っていても不思議では無い。
何かを考え込む素振りを見せる賢吾に、クラリッサが怪訝そうな顔で問い掛ける。
「何だか難しい顔をしてるけど、どうしたの?」
「あ、いや……あのフードの男ってすばしっこいんだなって思ってな。じゃあまだ連絡待ちなんだ」
「ええ。この王都にも現れなかったし……ロルフはロルフで未だに連絡が無いから、全く何処に行っちゃったのかしら」
この騎士団の総本部の地下に居たんだよ、と言いたくてしょうがないのをグッと我慢する賢吾と美智子。
これ以上ロルフの事を気にし過ぎると怪しまれる可能性もあるので、今度は美智子がなるべく自然な会話の流れを作る様に心掛けながらイルダーの話を切り出してみる。
「そうなのね。でも選考会が終わったって事は近々私達もこの王都をまた離れる事になるのね」
「そうなるわね。なるべく早めに連絡するわ」
「分かったわ。でも心残りがあるんだけど……」
「……何?」
少し悲しそうな表情でそう言い出した美智子に、クラリッサはまだ何かあるのかとでも言いたそうな口振りで聞いてみる。
「いや、あのほら……何て言ったっけ、あの……銀髪の、私をあの洞窟で助け出すのを手伝ってくれたあの剣士の男の人」
「洞窟?」
「ほら、私が椅子に縛り付けられていて囚われの身になっていたあの洞窟よ。あそこで助けられたあの銀髪の人にまだちゃんとお礼言って無かったなって。確か今は王都に住んでいるってのを前に聞いた覚えがあるわ」
そこまで聞いたクラリッサがああ、とその人物の情報を思い出して確認する。
「それってイルダーの事ね」
「うーん、そんな名前だった様な……」
「間違い無いわ。彼だったら来月から騎士団に見習い騎士団員として働きに来るって先週連絡があったのよ」
「え、そうなの? この前選考会に来ていたメンバーの中には居なかった気がするから、てっきり参加していないかと思ってたわよ」
美智子がそう言うとクラリッサは首を縦に振る。
「そうね、彼は参加の意志は無かったわ。見習い騎士団員として入団するって言うのを先週申請に来たからその前に追跡部隊への参加をレメディオスと私で勧めたんだけど、まだ王都に引っ越して来て日が浅いし色々と騎士団員になる為に勉強をしたいからって言う事で断られたわ」
「ああ、入団試験の話か?」
賢吾の質問には首を横に振るクラリッサ。
「いいえ。入団試験はレメディオスの判断で特別に免除されたのよ。南の坑道周辺の魔物の討伐とかである程度の実績があったし、模擬戦で私を倒したって言う事もレメディオスがそう言う判断を下す切っ掛けになったらしいから」
「そうなのか。じゃあ第3騎士団に?」
「そうね。……それじゃ私はもう行くわ。貴方達も早くそれ食べないと腐るわよ」
「あー、お疲れ」
そう言って足早に部屋を出て行ったクラリッサの閉めたドアを見て、お互いの顔を見ないまま賢吾と美智子は問う。
「どう思う、美智子?」
「イルダーが選考会に出ていないって言う理由は納得出来たわ。でもロルフと一緒に居たのを間違い無くあの地下施設で見たから、まだまだ疑問は尽きそうに無いわね」
「俺も同感だ。ロルフとイルダーが手を組んで何かをしようとしているのか? ……そうなるともしかしたらレメディオスは関係無いんじゃないのか? 後は今のクラリッサがどう言うポジションで行動しているのかそれも気になる所だ」
選考会の結果は今聞いた通りで、既に部隊の振り分けに取り掛かっているのだと言う。
しかしロルフが既に戻って来ていると言う事、それからイルダーがその時一緒に居たのをつい昨晩に地下でハッキリと見ている2人にとっては何がどうなっているのかさっぱり分からない。
その後も食事をしながら2人の会話は続く。
「騎士団に入る為の研修って事で色々と施設を見せられていたのかな?」
「それならそれで分かるわ。それに食堂の人達にはあの地下施設の事は関係無いのかも知れないし、私達の考え過ぎって言う事もあるかも知れないわね」
今頃、もしかしたらレメディオスやクラリッサの元にロルフが帰還の報告をしているのかも知れない。
何にせよまだ色々な事がハッキリしない以上は、先走って動かない方が良いだろう。
せっかく近衛騎士団に甥が居ると言うコックとも仲良くなったのだから……と言う事で、2人はまず目の前の食事を平らげる事にした。