101.深まる謎
あの獣道を通って食堂の従業員用の宿舎に一旦戻った2人は、料理を教わって来たと言うアリバイを作るべく靴の泥や服についた葉っぱを落としてから、堂々と宿舎を出て総本部の建物に戻った。
そして大きな疑問を心の中に抱えたまま翌朝を迎えた地球人の2人だが、騎士団の人間達の前ではあくまでも今まで通りに振る舞っていなければいけない。
だけど聞き出したい事もあるので、その事についてはそれと無く自然体を装って何とか聞き出すしか無いだろうと話し合う。
「絶対に動揺しない様にな、美智子」
「賢ちゃんもよ。とにかくまずは選考会の事、それからイルダーの事。最後にロルフの事だから……」
昨夜にあの妙な設備が建設されている地下施設で見たのは、間違い無くロルフとイルダーだったのは今でも忘れられない。
イルダーは王都に住んでいるし、騎士団とはあの事件以来関わりを持っているからこの騎士団の総本部に来るのは色々理由をつければ簡単かも知れないが、ロルフは今あのフードの男を追いかけて行っている筈なのでこの王都に何故居るのかが理解出来ない。
もしかしたら追跡を中断して通常任務に戻る為にもう戻って来ているのかも知れないが、だとしたらロルフが帰って来たと言う事とフードの男の捜索結果を知らせる為に顔を見せる筈だ。
そう考える賢吾だが、美智子はこう考える。
「でもそう考えるのは早いんじゃないかしら? だってもしロルフが昨日の夜に戻って来てあの地下施設を見た後に帰還の報告をしたとしたら、今日の朝……例えば朝食の時とかに私達に姿を見せると言う選択肢もあると思うわ」
「ああ、それも一理あるな」
それだったらロルフがこの後に姿を見せても確かに怪しまれないのだが、問題は何故イルダーと一緒だったのかと言う事だ。
「イルダーもまさか……あの地下施設の事を知って色々と何か企んでいるのか?」
「かも知れないけどまだ断定は出来ないわね。とにかく今は自然体よ」
あの謎の地下施設を発見し、続け様にロルフとイルダーの姿をそこで見てしまった以上は色々と考えてしまうものがある。
2人が心にモヤモヤとした感情を抱えていると、部屋のドアがその時コンコンとノックされる。
「はい?」
「クラリッサよ。朝食を持って来たわ」
「ああ、どうぞ」
朝食が乗ったトレイを持ってドアを開けて部屋に入って来たクラリッサは、2人の顔つきを見て表情を変える。
「何か、疲れているみたいだけど……大丈夫?」
「え、ええ……。あのコックさん、結構教え始めると熱が入る人みたいだったから……それで私達も夜遅くまで勉強させて貰ってたのよ」
「あら、そうなの? で……どうだった? この世界の料理の事、色々教えて貰ったんでしょ?」
「そりゃもう色々とね。今度は私達の世界の料理も教えて欲しいって言われちゃったから、今日食堂の営業時間が終わったら早速またコックさんの元に行くつもりなのよ」
(んっ!?)
してもいない約束を口に出す美智子に対し、思わず賢吾は顔を向ける。
だがクラリッサはそれに気がついていない様だ。
「へええ、そうなんだ」
「うん。私は武術よりも料理とか裁縫が得意だからね。やっぱり違う世界の料理って気になると思うけど、それってこっちの世界の人も変わらないのかしら?」
「どうかしらね……そっちの世界って言うのが私達にはイメージ出来ないけど、そっちの世界特有の料理があるなら確かに私も気になるわね。今度、時間があったら教えてね」
「うん、分かったわ」
「あ、それから昨日と同じ様にその宿舎に行くんだったら私かレメディオスに一言掛けて行ってね。私はレメディオスと一緒に書類整理の仕事をしているから」
「ええ。ちなみに行くのは食堂の営業時間が終わってからだからよろしくね」
美智子の話を聞き終わって部屋を出て行こうとするクラリッサだが、まだ賢吾からは聞きたい事がある。
「あっ、ちょ、ちょっと待った!!」
「え、何?」
「そう言えば選考会ってどうなったんだ? 選考会が始まってから俺達は途中でこの部屋に戻って来たんだけど、その後の結果とかが全く音沙汰が無いからさ」
そう、その1番聞いておかなければならない事を知っているであろうこのクラリッサに今ここで聞かなければ、次は何時どのタイミングで話を聞けるか分からない。
そんな質問を投げ掛けられたクラリッサがああ、と今まさに思い出したかの様な返事の後に口を開いてその質問に答え始める。
「選考会ならとっくに終わったわよ。だけどまだ最終調整が済んでいないの」
「最終調整?」
「うん。誰を何処の部隊に配属して行動させるかって事をまだ決めないといけないから、その部隊の発表までにはもう少し時間を頂戴。全部決まったらその時に改めて私かレメディオスから報告させて貰うわよ」
「そうなのか……。ちなみに選考会の目的として、あのフードの男をおびき寄せる為に王国全土に向けて選考会の参加者を募集して開催するってのをレメディオスから聞いたんだけど、結局あいつは現れたのか?」
その質問にはクラリッサは首を横に振る。
「ううん。私もそれを聞いて期待してたんだけど……選考会中に監視に当たっていた騎士団員からはそのフードの男の目撃情報は何も無いわね」