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100.見知ったあいつ

 岩壁の陰に隠れて、自分達がこの広場に入って来たあのドアを見つめる3人。

 そのドアが開いてそこから現れた人物に、3人は一様に驚きの表情を浮かべる。

「あ、あれは……」

「えっ、あれって……」

「嘘、あれ……」

 ドアから現れたのは2人の男なのだが、両方とも「何故ここに居るのか?」と言う疑問が出ない筈が無い人間だったのだ。

「あれはロルフ副団長だな」

「なぁ、あれって確かイルダーじゃないか?」

「うん……2人とも間違い無いわね」

 青い髪の毛に黒と赤をミックスさせた騎士団の制服を着込み、手には槍を持っているのは間違い無く第3騎士団の副団長であるロルフ・エイセル。

 もう1人はくすんだ銀髪に若い顔立ち、黒いマントを羽織ったあの村の村長の息子であり今は王都に移住したと言うイルダー・シバエフ。


「イルダーとは……あの銀髪の男か?」

 コックの質問に賢吾は頷いて答える。

「そうです。盗賊団の事件の時に知り合った、南の村の村長の息子です。武術の腕はそれなりに確かでして、クラリッサを模擬試合で破りました」

「ほう……それならなかなかの実力者と言う事になるな。しかし、何故その男がロルフ副団長と一緒に居るんだ?」

「分かりませんが……何かあるんでしょうね」

 小声で話をする2人の視線の先では、ロルフが建設中のあの設備に向かって指を差しながらイルダーに何やら説明をしている。

 3人の居る場所では会話の内容までは聞き取れないものの、敵対関係にはどう見ても思えない関係らしい。

「騎士団に入る事になったのかしら?」

「それなら騎士団の正規の入団試験を受けなければならないだろう。それにまずは見習いからだから、おいそれと副騎士団長直々に話をする事も出来まい」


 そのコックのセリフに対しては美智子が首を横に振る。

「ううん、実はそうでも無いの。クラリッサを倒した模擬試合の時、レメディオスとロルフと私達も一緒に居たからあのイルダーって人の事は良く知っているわ。それにその後の任務にも道案内として一緒について来て貰ったし、捕まっていた私を助けてくれたのもあのイルダーって人だったわ」

「だからロルフ副団長となら色々と話が出来る……と?」

「一応顔見知りだし、騎士団の任務遂行に貢献したと言う実績もあるからね。王都に移住するまでの敬意は分からないけど、何処かで偶然出会ってここまで一緒に来たって言う可能背も十分に考えられるわ」

 その長ゼリフを言いつつも周りをグルリと見渡して、他の騎士団員の動きや顔の向きにも美智子は気を配っておく。

 あの2人の動きに集中し過ぎて他の騎士団員に見つかりました、では話にならない。

「それと今の所はまだ私達は見つかっていないみたいだけど、早めにここを出ないといずれ見つかるかも知れないわよ」

「そうだな。あの2人がドアの前から離れたらさっさとここを出よう」


 そう賢吾が言った矢先、ロルフとイルダーはもっと近くで建設中の設備を見る為なのかドアのそばから離れてあの設備の方へと近付いて行く。

 だが3人はまだ動かない。

 下手に早く動いてドアに入る時に見つかったら今までの用心が全て水の泡だ。

「まだだ……まだまだ……我慢……」

 賢吾は2人の動きを注意深く観察し、その2人が十分にドアから距離を取った所でゆっくりと歩き始める。

 ここで焦って速く歩こうとすると、足音で存在が気づかれたりあの2人の視界に自分達3人の動きが入ってバレる危険性が高くなる。

 人間は速く動く物体であればある程に視線がその方向に誘導されやすいので、あえてゆっくりと移動した方が足音のリスクも気がつかれるリスクも低くなるのだ。


 その作戦はどうやら上手く行った様で、その2人にも作業中の他の騎士団員にも存在を気がつかれる事無く何とかドアへと滑り込んだ3人。

「考えてみれば、さっき早足で歩いて気がつかれなかったのは不幸中の幸いだったな」

「そうかも知れないわね」

 だがまだ油断は出来ない。

 家に帰るまでが遠足だと言われる様に、この謎の地下施設に続く通路を通り抜けてあのフタを開け、そして無事に食堂の従業員達が待つ宿舎に戻らなければならないのだから。

 ここからは早足で地下通路を駆け抜け、さっさとフタをずらして外に出る。

「……どうです、誰も居ませんか?」

「ああ、問題無い。さっさと帰るぞ」


 短い時間だったがまるでスパイ映画の主人公の様な気分を味わった賢吾と美智子は、コックに案内されて宿舎への「近道」を通る。

「こっちの茂みの奥に、私達の住んでいる宿舎に続く獣道があるんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。言っただろう、騎士団の総本部の食堂で私は1番長く働いていると。それに近衛騎士団に甥が居るから甥が近衛に入団するまでこの総本部には良く顔を出していたんだ」

「あれ? 近衛騎士団ってここに住んでいるんじゃないの?」

 獣道を歩きつつの美智子の質問にコックは頷く。

「ああ。近衛は王族を守るのが仕事だから城の中に近衛専用の施設がある。一応、私の甥にだけはこの事を話して探りを入れさせよう」

「ええ。分かりました。明日も俺達は何時も通りに過ごします」

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