99.先の先
しかし何時までも自分のマヌケさを悔やんでいても話が進まないので、賢吾はゆっくりと地面を踏みしめて立ち上がり口を開く。
「……行ってみますか?」
「ああ。何があるのかだけは確かめておこう。何も無ければそれに越した事は無いだろうからな」
従業員の女だけを宿舎に帰して、賢吾の質問にYESと答えたコックを先頭に3人でフタの下に現れた階段を下り、その先の通路を進んで行く。
勿論フタをきちんと閉め、自分達が進入したと言うのを後からここに来た人間や獣人に分からせない様にするのだけは万全だ。
2度も続けてマヌケさを露呈する訳には行かない。
フタの下にある階段はおよそ10段程で、緩やかな造りになっている。
それに前の洞窟の時と同じ様に、この通路の両側の壁にはキャンプで使う携帯ランプの様な照明設備が設置されている事から、前日の夜に見かけた騎士団員達が担いでいた様なそれなりの大きさの物体を運び入れる為に……と言うよりも、ランプが無ければ真っ暗闇で進む事もままならない為これは必要な設備なのだろうとすぐに予想も出来た。
そんなランプが両側に設置されている、天井がやや高めに造られている通路の先の先に進んで行く3人。
この時、足を進ませていた美智子がある事に気がついた。
「……ねえ賢ちゃん、2つ気がついた事があるんだけど」
「何だ?」
「まずこの通路なんだけど、私達が進んでいる方向に向かって若干の下り勾配になってるのよね」
「そう言えばそうだな。と言う事はこの通路は地中へと潜っている事になるのか。で……後1つは?」
「何かカンカンカンと音が聞こえるのよ。鉄工所で鉄の加工をしている様な……そんな音ね」
この3人の中で美智子は最も耳が良いので、賢吾にもコックにも聞こえない音を拾っているらしい。
「何か造ってるのかな……とにかく、もっと先に進んでみよう」
その一本道の通路を進む事およそ3分で天井が少しずつ高くなって行き、1枚の鉄製のドアの前に辿り着いた。
「開けるぞ」
先頭のコックが地球人2人を振り返りつつそう言えば、その地球人達も頷きを返してドアがゆっくりと開かれる。
ドアの先に何があるか分からない以上、用心して進むのは当たり前だ。
「……え?」
そのドアの先を覗き込んだコックが声を上げる。
何かを見つけた様なのだが、そのまま動きが固まってしまって先に進めない。
「どうしたんです?」
「何か、大きな鉄の塊が鎮座しているんだが……」
「え?」
そう言われると実際に見てみたい気持ちが強くなった賢吾は、コックをドアの奥へと半ば押しやる形で強引にドアの先に進む。
だが、ドアの広がっていた光景は想像を絶するものであった!!
「な、何これ……!?」
美智子も賢吾も絶句する。
ドアの先には小学校の体育館を思い出させる位に高い天井のある部屋が広がっており、その中央には大きなオブジェが鎮座している。
部屋と言うよりも広場と言えるレベルのこの部屋では、多数の騎士団員達が忙しなく動き回っている。
肩に物体を担いで運んでいる者、オブジェのそばでしゃがみ込んで作業に没頭する者、その作業をする騎士団員に指示を出すリーダー的存在の者まで。
見るからに中央に鎮座しているオブジェを組み立てているのが分かるのだが、一体あれは何なのだろうか?
オブジェから離れた場所にドアが設置されている事もあり、3人がここに入って来たのは未だに誰にも気付かれていない様だが、ずっとここに居るといずれバレてしまうだろう。
しかし、その光景に絶句する3人は足を動かすのも忘れてそのオブジェを見上げるのを止められない。
オブジェの形は東京スカイツリーを横に3倍程に引き伸ばした様なもので、地面には多数の鉄製のパイプが繋がっている事からエネルギープラントの鉄塔みたいなイメージが出来る。
パイプの先が地中に向かって埋め込まれているのもそれに拍車をかけている。
一方で天井に向かって伸びている部分の先端には大きなアーチが掛かっており、その真ん中には緑色の大きな宝石らしき物が鎮座している。
「どう言う仕組みなんだ、あれは……」
「と言うかそもそも、あれって一体何の設備なんですかね? 何かこんな設備が出来るって話を聴いたことってありますか? コックさん」
「全く聞いた事が無い。2人は?」
「私も賢ちゃんも全然知らない。でも、騎士団員が制服姿で動き回っているって事は騎士団が関わっているのは明らかね」
その美智子のセリフを聞いて、賢吾は以前レメディオスが言っていた事を思い出した。
「確か、人手不足だから選考会を実施するって話をレメディオスはしていた筈だが……こうしてこっちに人員を回していたんだとしたら確かに人手不足にもなるだろうな」
呆れた様な口調でそう言う賢吾だが、美智子の耳がその時またしても何かの音をキャッチする。
「け、賢ちゃん、コックさん! 誰かがこっちに向かって歩いて来るわよ!!」
「なっ!?」
「まずい、とにかく身を隠すぞ!」
一本道を通って来たので戻れば間違い無くその人物と鉢合わせしてしまう。
やむなく3人は騎士団に見つからない様に素早く部屋の端を歩き、近くの岩壁の陰に身を隠した。