9.事情聴取
そうだとしたらこの先、自分はどうすれば良いのだろうか?
この騎士団とやらの人間に世話になって、自分が見慣れた場所への帰り方を模索しなければならないだろう。
(まさか、こんなめんどくさい事になるとは……)
ライオンを見かけ、カラスに襲われ、建物の屋上から落下して気がついてみれば見知らぬ場所へとトリップ(?)した状況に頭を悩ませる賢吾の前で、改めて3人が自己紹介を始める。
「それじゃまずは私からね」
最初に行き倒れていた茶髪の女がクラリッサ・セネット。24歳。シルヴェン王国の第3騎士団の団員であり、大きな斧を使う元気の良い性格だ。
それから男2人組の内、青髪の槍使いがロルフ・エイセル。28歳。シルヴェン王国騎士団の第3騎士団の副騎士団長。
最後に黒い長髪の剣士がレメディオス・デル・モンテ。29歳。シルヴェン王国騎士団の第3騎士団の騎士団長である。
「そんな大層な肩書きの人間達が何故、こんな場所に居るんだ?」
魔物退治にわざわざ騎士団長が出て来るものなのか?
賢吾は本心からそう覚えた自分の疑問を隊長のレメディオスにぶつけてみたが、レメディオスは特に顔色を変える事無くその質問に答える。
「最近この辺りを荒らし回っている魔物と言うのが、さっきも言ったと思うが本当にタチの悪い魔物でな。今回はそれの討伐で私やロルフが呼ばれたと言う事だ」
「つまり、騎士団長が動くレベルの魔物の討伐に来たって事よ」
横からクラリッサが補足説明をして、その説明に賢吾は納得する。
「しかし困ったもんだな。まさか身元不明の人間が現れるとは思ってもみなかったから、誰かに王都まで連れてって貰うか?」
面倒臭そうに頭を搔きつつそう提案するロルフだが、レメディオスは首を横に振った。
「いや、身元不明の人間となれば私達騎士団の人間が不用意に目を離す訳にはいかないし、そもそも最初に出会ったのが私達だからなるべく私達が連れて行きたい」
「でも魔物討伐はどうすれば良いのかしら?」
「問題はそこだ……」
チラリと賢吾の方に目線だけを向けてそう言うレメディオスだが、当の賢吾にとってはさっぱり何が何だかと言う状況なのは間違い無い。
そこで自分の方からアクションを起こしてみる事にする。
「色々話しているみたいだが、結局俺はどうなるんだ?」
ぶっちゃけた話、さっさと結論が欲しい賢吾は騎士団の3人に急かすかの様な口調で問いかける。
3人はそれを聞いて、自分達の任務とその任務に突然割り込んで来た明らかな不審者を頭の中の天秤にかけて結論を出した。
「それじゃクラリッサがこの男を連れて行ってくれ。俺達はやっぱり抜けられなさそうだ」
「分かったわ。それなら私の馬に一緒に乗って王都に行きましょう」
「ああ、よろしく頼む」
しかしその時、賢吾は唐突に大事な事を思い出して叫ぶ。
「あっ、そう言えば美智子は!?」
ガバッと身体を前のめりにさせてレメディオスに詰め寄る賢吾だが、唐突にそうやって詰め寄られた方の騎士団長は一瞬固まってリアクションが取れない。
「な……何だ?」
レメディオスがやっと絞り出したそのセリフに、我に返った賢吾も冷静さを取り戻して、何とか心を落ち着かせてから口を開く。
「あ、ええと……俺の幼馴染みがここに来る前に一緒に居た筈なんだけど、ここに運び込まれていないか?俺が目を覚ましたあの洞窟には少なくとも居る気配が無かったんだ」
「その幼馴染みって言うのは人間? 人間だとしたら男なの? それとも女?」
「人間の女だよ!」
クラリッサの確認にちょっとムッとした口調で回答する賢吾だが、そんな彼の様子を見ても騎士団の3人は冷静に確認する。
「そうか、だったらその美智子って言う人間の特徴を詳しく教えてくれ」
3人の中からロルフにそう言われ、賢吾は自分の覚えている範囲で美智子の特徴を伝え始めた。
「分かった。それじゃあ黒髪で背は少し低め、明るい色合いの瞳の女だな?」
「それと確か緑のシャツを着ていた筈だったけど……その辺りは記憶があやふやだから参考程度に頼む」
レメディオスの確認に補足情報を付け加え、美智子の特徴を伝えた賢吾は捜索願いを出した。
しかしこれは1つの推測に過ぎない。
何故なら「本当に美智子がこの世界に来ているのか」と言う事そのものが不明確だからである。
(この世界は本当に……地球と違う世界なのかも知れないな)
まだ完全にそう確信した訳では無いのだが、今までのやり取りの中でこの騎士団とやらの3人が嘘をついている様子が賢吾の目から見ると感じられないのだった。
今は捜索願いを出しておくのが精一杯だが、それでも何もしないよりは遥かにマシだろう。
自分と一緒にあの屋上から落ちてしまったのは確かなので、こっちの世界にトリップして来ているなら無事に見つかって欲しい。
もし地球に居るままなら、大した怪我もせずに自分の事を捜していてくれると嬉しい。
もう1度美智子に会う為に、そして絶対に見知った場所へと帰るのだと賢吾は決意した。