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きゃーお、異世界。  作者: nekoko
9/17

生きる、もしくは、死

 大神殿イキテールには裏口がある。


 表の入口にある門は、大巫女や大神官と言った高位の人物だけが通行可能。


 ということで、裏口は殆んどの人達にとって、大神殿イキテールの玄関だった。



 裏口には門番が二人いた。


 一人はノン


 もう一人はビリー。


 ノンとビリーには、門番になって以来の繁忙期が訪れていた。


 賑やかなミンテールの町から、伝説の女神キャーオの為に、沢山の供物が運ばれていたのだ。


「すげえよな」


と運ばれてくる供物を見ながら、ノンが言う。


「女神様が来たのは有難いけどさ、俺達は休みが欲しいよなあ」


 とビリー。


「俺なんかさ、田舎に帰る予定だったんだぜ。それがここ三日仕事だって言うんだから」


 とノン。


「そもそも上の人達と来たら、いつもこっちの都合を考えないんだからな」


 とビリー。


「ああ、女神キャーオ様が仕事の女神様だったらいいのに」


 とノン。


「そしたら俺達の仕事も楽になるぜ」


 とビリー。


 残念でした。女神は仕事するどころか、ただのニートです。


「はあー」


 ノンとビリーが同時に溜息をついた。


 疲労困憊の様子。


 そこに、途切れていた通行人が、また現れた。


「はい、止まれ」


 とノン。


「お前、何しに来たんだ」


 とビリー。


 本来ここは通行証を見せてもらう所だが、この通行人の多さに、二人は少し目をつぶることにした。


 両側から突き出された槍を前にして、白い布を被った人物は微笑んだ。


「女神キャーオ様に、供物を。果物で御座います」


 またか。


 ノンとビリーは思った。どうも供物には果物が多い。


「通行を許可する」


 ノンとビリーは槍を引っ込めた。


「ありがとうございます」


 そのまま、白い布を被った人物は、坂道を上って行く。



 ビュルルーン。



 突風が吹いた。


 白い布が空高く舞い上がる。


 ノンは後ろを向いた。


「おい、大丈夫か」


 布がなくなったその人物は、謙虚な微笑みを浮かべる。


「大丈夫で御座います、武官様」


「そうか」


 ノンとビリーはその男が栗色の髪、青色の瞳であることを、はっきりと見た。


「学舎の坂は急だし、突風も吹くからな。気をつけろ」


 とビリー。


「ありがとう御座います」


 キャラメルは籠を背負い、坂を登る。


 人の良さそうな顔して、この男、大神殿イキテールに入ってしまったぞ。




 その頃の大神殿イキテールの本殿。そこから少し離れた所にある、調理場。


 梨果は百回目の失敗作を完成させた。


「あれえ?」


 梨果は一目見ただけで、まずそうな料理を味見した。


 メタメタ、グダグダ、ドロドロ。


「はあー……まず……」


 足元にはレアルが横たわっている。


 毒見を繰り返して来たレアルだが、そろそろ限界だった。


 調理人達は、既に神官長エンドルの許可が下り、いつの間にやら退室している。


「私って、料理の才能もないのねえ……」


 伊達にニートやっている訳じゃあない。


「料理がダメならデザートを!! と思ったのよね」


 女神がデザートを作る為に、調理場へ大量の果物が届くはずだった。


 気を利かせてくれた調理長が果物を買い漁りに行くと、ぜひお供えを、と無料サービス。


 健気な民衆に涙が出そうだ。


「さあ、今度こそ!」


 バーン!!


 ガーン!!


 ドーン!!


 料理では聞き慣れない音が、調理場に響いた。




 それより少し前。


 遠い遠い大聖堂シニーテルでは、後ろ姿で、女が壺を覗き込んでいた。


 壺の淵ぎりぎりまでたたえられた水が、波打っている。


『オウーラ様』


 この美声はキャラメル。


「女神を名乗る女、まだ生きているようだが」


『申し訳ありません。女は死の淵の魔法から、這い出したようです』


「必ず、女を……殺せ! 私もできるだけのことをしよう」


『かしこまりました』


 水面が静かになった。


 女は杖を大きく上下に動かした。


 とん、とん、とん。床に杖の先が当たる。


 女は呪いの言葉を、ゆっくりと時間をかけて唱える。


「のろーのろーしーすー、のろーのろーしーすー、のろーのろーしーすー……」





 大神殿イキテールの中核とされる建物に、キャラメルは堂々と入る。


 供物を持っていると、何も咎められないらしいな。


 この供物、果物とは名ばかりの、毒物。


 女神が魔法を使えるならば、下手に魔法を使うより、古典的な方法の方が、確実に命を落とすだろう。


 しかし、どこに女神がいるのか……。


 その時。



 バカーン!!!



 回廊の先で、炎が吹き荒れる。



「女神さまあああああ!!!」



 女官、武官が悲鳴を上げている。



 丁度良い。


 このままだと、こちらが何かをする前に、命を落としてくれそうだ。




 調理場は火の海だった。


「え? 何? 私、やばいことしちゃった?」


 梨果は大きな木製のフォークを持ち、立ち尽くす。


「女神様ー、まずいです、逃げましょ、ごほ、ごほ」


 レアルが瀕死の形相をさらに青くして立ち上がる。


 立ち上がる火で、入口は塞がれた。



 ぎくぎくぎく



 大巫女ヒビーコは、不吉な予感に襲われた。


「調理場で、火事です!」


 屈強な男がヒビーコに知らせる。


「なんです!! すぐに消しなさい!!」


「女神キャーオ様が!」


「キャーオ様はすぐにお逃げするように……」


「女神キャーオ様が炎の中に!!」


 大巫女ヒビーコの中で、不吉な予感が、現実になろうとしていた。



「女神様ー」


 レアルは泣いていた。


 このまま母に会うこともなく、しかも女神キャーオを死なせた罪人としてこの世を去るのか。


 梨果は咳き込んでいた。


 ゲホ、ゲホ、ゲホ


「え? なんか熱い? このままだと……死ぬ?」


 空を飛ぼうにも、天井まですでに火が届こうとしていた。


「どうしようー!!!」


 梨果はただおろおろと泣いた。



 女神様が泣いている?


 その危機感で、レアルの意識ははっきりと鮮明になる。


 この状況を抜け出せるのは、女神様だけ。


 レアルは女神を励ました。


「大丈夫です、女神様なら、火なんかあっという間に消せますよ」



 励ましの言葉が梨果をさらにどん底へと落とす。


 今まで成り行きで来たけれど……。夢の中だからと思ってきたけれど……。


 ついに、逃げられない所まできた。


 梨果は、自分の本当の気持ちを口にする。


「私、女神なんかじゃないのよ。ずっと、ちやほやされてきたけれど、ちょっと、皆に必要とされたかっただけなの。私は、本当はニート……ただの役立たずの女なのよおおお!!!」


 あー! と梨果は泣き出した。


 レアルは首を傾げた。


「役立たず?」


「そう。私、何もできないのよおおお」


 空から舞い降りたことも、皆の前で歌ったことも、穴の中から空へ舞い上がったことも、皆の前で踊ったことも? 


「迷惑者」


 会社の皆が、梨果のことをそう呼んだ。


「うん。私、女神なんかじゃない。何の役職もない、ニートよ……」


 レアルは困った。なぜならば、確かにずっと迷惑を受け続けてきた気がするから。


 だけど、レアルの中で、しっくりとしないことがある。それを、言葉にしてみた。


「僕は、女神様が来て、女神様のお世話を任されて、なんていうか、充実しています。今まで、僕はただの一神官でしかありませんでした。それが、女神様が来てから、役割ができて……」


 必要とされた。


 ああ、そうか。


 女神様と自分は同じなんだな。


「女神様、僕は、女神様に必要とされたいんです!!」


 レアルは舞い上がる火から、女神を守ろうと、両手を広げた。


「僕が先に行くので、女神様は僕の後ろに隠れてください!」


「そんな! 無理!!」


「無理じゃなくて、やるんです!!!」


 そういうことじゃない。レアルが、このままじゃ、レアルが……私のせいで。


柱が炎と一緒に、二人の前に倒れようとしていた。


 レアルは女神を突き放す。



「だめえええ!!」



 梨果はレアルを引っ張った。


 腕の中に、レアルがいた。


 梨果は、ほっとした。


「私が先に行く。だって、年上だし」


 梨果は、少し先輩ぶることができて、嬉しかった。



 レアルは女神を見た。


 笑っている。


 炎の中で、結んだ髪をなびかせながら。


 女神はやっぱり、やっぱり。


 レアルの心が、レアル自身でさえ分からない所で、大きく動いた。


 光が溢れた。


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