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きゃーお、異世界。  作者: nekoko
5/17

美、そして、醜

「なんでこんなに覚えることがあるのおおおおおおおおおおお!!」



 梨果は、心底、嫌そうに叫んだ。


「仕方ありません。最初の儀式では、女神は民衆に威厳を示さなくてはならないのですから」


 そう窘めたレアルも、心底疲れ、眠そうな顔をしている。



「ふあああああ」


 口をふにふにと開けて欠伸をする梨果。


「ふあああああ」


 レアルも手で押さえてはいたが、大欠伸をした。




 全ては、大巫女ヒビーコの言葉から始まった。



「このシアトロルには、勿論、魔法があります。しかし女神キャーオ様ほどの善の魔力がある人物は、シアトロル中探しても、いないでしょう」


「え? 私? 嘘!?」


 わくわく、どきどき。


 私、シアトロルっていう夢の中では、やっぱり魔法を使えるんだ!


「ね、ね、教えて! どうやったら魔法を使えるか! やっぱり呪文とか、あるの?」


 梨果はヒビーコの肩をつかんでせがんだ。


「そんなこと、私が存じ上げるはずありません。伝説の魔法の使い方は、女神キャーオ様ご自身だけがご存じです」



「ここが夢みたいな夢じゃない世界だって、なんか、わかってきちゃったもんね……。ひょっとしたら、カッコ良く魔法を使いまくって、偉人賢人になれるかも、なんて、思っちゃってた私、やっぱり考えがニートなのね……」


 溜息をつく梨果。


「何かおっしゃいましたか!?」


「いーえ!」


 ゴホン、ヒビーコが咳払いをする。


「とにかく、女神キャーオ様には、最初の儀式で、舞台に立って頂きます」



 ん?



「女神キャーオ様と言えば、美と感動の女神ですから」



 美!?



「え? 私、美人?」


 試しに梨果は、モデルっぽいポーズを取ってみた。



「とにかく、儀式の踊りを明日までに覚えて頂けますよね!」



 それが、昨日の昼。


 今は、森の木々すら眠る深夜。




 踊りは百八種類のポーズで構成されていた。


 誰が考えたのかはわからないが、へんてこな踊りだなあ。



 ズンドウズンドウゴトゴト、ズンドウドッコイ……。



 音楽もまるで原始人が奏でるメロディーだ。


 大神殿イキテールの楽師達は眠そうに打楽器やら弦楽器やらの音を鳴らす。



「さあ、もう一回、女神様!」



 命令するヒビーコ。汗だくのレアル。お手本の踊りはレアルが踊っている。


 もう百八回踊ったよ。


 梨果は眠ろうかと思った。


 というか、眠ろうとした。


 すると、ヒビーコの羽みたいな扇子が飛んでくるのだ。


 扇子は床に突き刺さった。


 床は穴ぼこ。


 梨果は泣きそうだった。


「早く、現実世界に戻りたいよお!!」


「さ、踊りなさいませ。今のままでは民衆へ威厳を保てません!」



ズンドウズンドウゴトゴト、ズンドウドッコイ……。



ズンドウズンドウゴトゴト、ズンドウドッコイ……。




 朝になった。


 気づけば、床で女神は横になっていた。



「ふう」



 溜息をつくヒビーコの足元には、横になったレアルもいた。


 ヒビーコは底が厚いサンダルで、レアルをつついた。


「誰か、女神様とレアルを寝所へ」


「ははっ」


 数人の男と担架が登場し、二人はそれぞれ部屋へ連れて行かれた。


「下級神官に、女神キャーオ様をしっかりお守りするように申しつけなさい」


 巫女達が退室した。


 ヒビーコも、自室に戻る。


 下級神官の緊迫感。大神殿イキテールは静かになった……、はずだった。




 ぐおーびーすか、ぐおーびーすか。ぐおーびーすか。ぐおーびーすか。




 ぐお。





 女神キャーオの部屋から、鼾が聞こえなくなっていた。


 何かを感じたヒビーコは、パチリと目を覚ます。


(嫌な予感……。嘘よね、嘘よね、嘘なのよね……)





 バターン!




 大巫女の扉が、勢いよく開いた。



「女神キャーオ様のお部屋を!!!」


 ヒビーコが叫んだ。



 下級神官達は、恐れ多くも女神様の部屋に飛び込んだ。



 揺れる布。



 布は、器用にも破られ、結ばれ、ずっとずっとずっとずっと下まで続いていた。


「まさか!!」


 ヒビーコが見た時、御寝台はもぬけの殻。




 まさかだった。


 ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ。



「こんな所にいるなら、会社でジメジメしている方がまだマシだったよおおおおおお!!!」


 涙と鼻水を一杯流しているような声で、梨果は叫ぶ。



 まだ朝であるミンテールの町に、女神の水滴……涙と鼻水がポタポタ落ちて行った。

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