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きゃーお、異世界。  作者: nekoko
16/17

女神様、再び、外へ

会議の間。


 四方を全て壁に囲まれたこの部屋は、大神殿イキテールの中枢、キャーオの塔に近い所にある。


「女神キャーオ様へ神聖キャー文字をお教えする為の学者が到着致しました。が……」


 神官長エンドルが珍しく言い淀む。


「どうしたんだ?」


 と、椅子にどっぷり座って大好きなお茶を飲む大神官フアウザ。


「皆、クセがある者が多く……」



 一人目。


「物を覚えるには、五感を研ぎ澄ませなければならん! よって、体を動かしながら覚えるのじゃ!」


 神聖キャー文字の「あ」を尻文字で描くお爺さん先生。


 女神キャーオは「筋肉痛だから」と言って、必死に拒んだ。



 二人目。


「女神キャーオ様ならば、上級神シアーから文字が降り注ぐはず。心を落ち着けて……精神統一です」


 静かすぎるその男は胡坐をかき、手を上向きにして、精神統一。ひたすらに時間だけが過ぎた。


 女神キャーオは男を眺めながら欠伸をし、昼寝をした。



 三人目。


「文字を覚えるには、書くことが一番ですな」


 まともなことを言う、にやけた男。


「さ、この文字を真似して書いてですね、完成したら見せて下さい」


「書いた!! これ、何て読むの?」


「××××××××と読むんですな」


ここでは口にできないような内容だった。


「セクハラ! セクハラよ! セクハラ男よー!!」


「刺激的な内容が一番記憶に残るんですー!!」


 男は叫んだが、武官に連れられ、大神殿の門の向こうに、ポーイと捨てられた。



 大神官フアウザは溜息をついた。


「変な学者しかおらんのか」


 フアウザは学問の未来を憂えた。


「まともな者はおりました……一人だけ」


 神官長エンドルは後ろを見る。


「入ってきて良いぞ」


 扉が開かれ、栗色の髪、青色の瞳の若者が現れた。


「キャラメルと申します」




 ゾゾゾ。


 大巫女ヒビーコは、何だか嫌な予感がした。


 こういう時は、きまって何かあるのだ。


 最近で言えば、キャーオ様関係とか……。


 ……そう、キャーオ様。


 大巫女はすぐに巫女達に指示を出す。


「神官と武官へ、女神キャーオ様を見張るように伝えなさい」


 巫女達は礼をすると、バラバラと散って行った。




「ここは、こうして、こう。ここで止める」


「ここで?」


「そう、ここで」


 女神キャーオこと梨果は、机の上の、高価な紙と向き合っていた。


 手には鉛筆のような物。シアトロルでは超高級品らしい。


 その鉛筆を持った手に、白く長く美しい手が重ねられていた。


「あ……」


 梨果はその手の持ち主を見た。青い瞳が見つめ返してくる。


「どうかしましたか?」


「いえ、教えて下さって、ありがとうございます」


「あなたの為なら」


 キャラメルは微笑んだ。


 きゅーん。


 心臓が早鐘を打った梨果は、青い瞳を見つめ続けた。


 見つめ合う二人。


 なんて、素敵な雰囲気。


 そう、周りの武官、神官、それにレアルがいなければ。


 特にレアルは目を三角にして睨むように二人を見続けていた。



 皆、どうしたのかしら。



 梨果は生まれて初めて文字を書く時間が楽しかった。



「あの……キャラメル様は、どうやって文字を覚えたんですか?」


 何か話をしていたくて、梨果は質問をした。


「ある方が教えてくれました」


「やっぱり、手取り足取り教えてもらったんでしょうね……」


「はい。でも私は平民の出身で、ヒラーナはすぐ覚えても、カーンとカタンナは覚えるまで、時間がかかりました」


 すごい。ヒラーナをすぐ覚えてしまうだなんて。


 梨果はヒラーナという文字種の、まだまだ最初である。


 しょぼーん。


 梨果は少し、落ち込んだ。


 それが筆跡にも表れたのだろうか。


「あなたも、覚えられますよ」


 キャラメルは梨果を見た。真摯な瞳だ。


 梨果はその青い瞳の奥を見続けるのが好きだった。



 おいおい。


 待てコラ。


 レアルは何だか心が荒んでいた。


 キャラメルとか言う奴、女神様に近づきすぎだろ。


 女神様にくっつくなんて、無礼な。


 エンドル様もなぜ、こんな奴をまともだと思ったのか。



 そうこうする内に二人は、一文字書くとお互いを見つめるようになった。


 二人の顔が近づいて……という風に、レアルには見えた。



「ああっつ!!」



 突然声を上げたレアルを、部屋中の人間が見た。


「どうかしましたか? レアル様?」


 下級神官が声をかける。



「いや、その、あの」



 何かまっとうなことを言おうと、必死にレアルは考えた。



「そう! 女神様は感動の女神! ならば机に向かうより、実際に町にある文字を見た方が、感銘を受けて、ご興味を持たれると思います!」



 ちょっと無理があったかな。


 周りの神官、武官は、何か考えている様子だ。


 しかし、もういい、気にするもんか、とレアルは見栄を捨て、女神の手をつかんだ。


「さあ、女神様、ご案内します。勿論キャラメル様もどうぞ」


「え!? レアル!?」


 梨果はレアルに引っ張られ、大神殿の正門の方へと引っ張られて行く。その後を優雅に歩くキャラメルが続いた。


 武官達は急いで、裏門に向かった。


 彼らが女神一行に合流するのは、結構手間取りそうだ。




 ミンテールの町。その市場は栄えていた。


「らっしゃい、女神キャーオ様のご加護だ! まけとくよ!!」


「女神キャーオ様人形、硬貨銀八枚!」


「雄々しく踊る女神キャーオ様像、硬貨金三枚!!」


 右からも左からも、女神キャーオという言葉が飛んだ。



 なんか、恐縮しちゃう……。



 当人の梨果は、長い日除けの布を深く被って隠れていた。


 これでは神聖キャー文字を見るどころではない。


 三人は聖なる女神像のある広場まで、無言で歩いた。


「あー疲れた」


 梨果が文句を言った。


 すると、あーら不思議、丸太が置いてある。


 ここに座ろうーっと。


「まったく、女神様ったら……」


 丸太を椅子にした梨果を見て、レアルは思わず呟くが、ちゃんと梨果の隣に座る。


 その反対側の隣に、キャラメルが座った。


 ……ん?


 このおじさん、なんか見たことあるなあ。


 手にわたわた飴?



「あーっっむぐむぐ!」



 梨果はレアルに口を塞がれた。


 なんでこんな所にわたわた飴のおじさんが?



 いや、わたわた飴のおじさんだけじゃない。



 レアルは思った。


 よく見ると、周りには丸太の椅子が並んでいる。


 しかも、所狭しと人が座る。


 何だろう、これは。


 梨果はわくわくしてきた。


 この感じ。何だか覚えがある。


 梨果は、拍手の音を聞いた。


 数こそ少ないが、勢いのある、立派な拍手だ。


 梨果は前を見た。


 誰かが挨拶をしている。これから何か始まるのだ。


「えー……、コホンコホン、これから、コホンコホン、舞台を始めます……ゴホゴホ」


 魅力のない挨拶は、これから始まる出し物がつまらないと予感させる。


「あーあ」


 一人、二人と席を立って行く。



 梨果は唖然とした。


 あの、覇気のない人は。


 一座、ドンデガエルシの長だった。


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