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きゃーお、異世界。  作者: nekoko
15/17

梨果、に訪れる、「死」

 時はさかのぼる。


 梨果が円形の劇場にある階段を登り始めた時だった。



 キャラメルは白いマントの裾をそっと開いた。


 マントの内側に、小さな壺。


 その中には名の無い果物のソテソテーがある。


 勿論、思いっ切り正真正銘の毒物だ。


 どうやって作ったのか、その話は置いておくとして。


 とにかく、キャラメルは小さく呪文を唱えた。



 トベトベマッスグミギイヤヒダリ……。



 名の無い果物のソテソテーは人々が女神の一挙手一投足に注目する間、神聖劇場カミイルの外側から、上へ上へと移動した。


 トロトロした食べ物が、なんとも不思議に風船のようになって浮かび上がったのである。


 そして、女神の白い皿に着地した。


 これくらい、あっという間なのである。


 キャラメルは神聖劇場カミイル内部へと戻った。


 キャラメルが立っていた芝生に、別の果物のソテソテー……元々皿にあった料理……が、虫達のご飯になるべく、残されていた。



 女神は疑いもなく席に着き、フォークを持った。


 キャラメルが思い描いた通りに。


 女神の口に、毒物……名の無い果物のソテソテーが運ばれて行く。


 全て、計画通り。



 だが。



 ガッシャン!


 梨果の目の前で、皿が落ちた。


「あれれ、やっちゃった……」


 最後の最後にヘマをした、と梨果は思った。


 キャラメルは信じられない、という顔で舌打ちをした。


 その音を聞きつけた料理長が、代わりの皿を持って行き、儀式は何事も無かったかのように進められた。



 ゴウン。ゴウン。



 終わりの合図が鳴り、梨果は階段を下りて、舞台袖へと戻って行く。


「よくできていました! 女神様!!」


 レアルが満面の笑顔で迎え入れてくれた。


「でも、ヘマしちゃった……」


「あれくらいは平気です! 本当に良かった!」


 何だかんだあったけれど、梨果はレアルの嬉しそうな顔を見て、一安心した。


「あれ?」


 梨果は足から力が抜けるのを感じた。


 レアルは、崩れ落ちる梨果を床にぶつかるぎりぎりの所で受け止めた。




「おかしいですね……」


 誰もいなくなった神聖劇場カミイルの階段の上に、いつもの三人がいる。


 大巫女ヒビーコと、大神官フアウザと、神官長エンドルだ。


 脇には大神殿イキテールの料理長もいた。


「これは、確かに名の無い果物のソテソテーです」


 見ていたのは、階段に落ちた、料理だった。


「なぜ、料理が変わったのでしょう……」


 料理長は震えていた。見てはいけないものを見た気がしたからだ。


「そなたは、とにかくこれを、忘れなさい」


 大巫女ヒビーコの言葉に、料理長は最敬礼して下がった。


 落ちた名の無い果物のソテソテー、その周囲には沢山の小さな羽虫が集って動かない。


 ふうーむ、とフアウザは思案する。


「一つわかること、それは、この果物は誰かが故意に入れたということですな」






 栗色の髪を振りほどきながら、キャラメルは苦悶した。


 なぜ、あの時、魔力が暴走してしまったのか。


 せっかく用意した毒物……名の無い果物のソテソテーを、落としたのはキャラメル自身だった。


 このままでは、オウーラ様のお身に危険が……。



『キャラメル』



 ミンテールの町角でオウーラ様の声が聞こえた。


 キャラメルは裏路地に入る。


 そこには水桶があった。


 長い髪の女の影が、ゆらゆら水面で揺れている。



『キャラメル、私が手を下す前に魔法を使ったな……』



「申し訳ありません! オウーラ様!!」


 キャラメルは泣いているのをオウーラ様にバレないように話した。



『キャラメルとしては珍しく、失敗魔法を使った……でも、今回は許す……が、次は私の番だ。キャラメル、女神と呼ばれる娘から、目を離さないように』



「かしこまりました」


 オウーラの温情に、キャラメルの涙の粒が大きくなった。


 やはり、この方だ。


 私は、オウーラ様について行く。




 大神殿イキテール。


 御寝台の上で、梨果は目を覚ました。


「良かった」


 レアルが自分の手をつかんでいる。


 私はレアルが倒れた時、キャラメル様と逃げ出そうとしていたのに。


 だから自然と言葉が出てくる。


「ありがとう」


「いいえ」


 レアルは慌てた。


「どうか致しましたか? ご気分が優れないですか? 何でも言って下さい」


 レアルは優しかった。


「あのね……」


「はい?」


「私、女神じゃないって、自分では思っているんだけれど……レアルに女神って呼ばれた時、嬉しかった。だから、私、梨果を止めようと思う。キャーオに、なろうと思う」


 レアルは首を傾げた。


 だって女神キャーオ様は、キャーオ様だから。




 翌日。


「女神様ああああああああああああああああああ!!」


 レアルが走り、梨果は逃げる。


「そんなの嫌ああああああああああああああああああああああ!!!」


 騒動の発端は、神官長エンドルの言葉だった。


「女神キャーオ様は、神聖キャー文字をお読みになれないとか。レアル、女神様へ神聖キャー文字を、徹底的に教えなさい!」


「文字は大嫌いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「女神様! 待って下さいー!!」


 レアルは得意の走りを、梨果は秘儀隠れながら走る、を大神殿中の人間に披露した。



 かくして、大神殿イキテールにシアトロルの学者が集められた。


 門番のノンとビリーは、高位の身分の方々に頭を下げてばかりいた。


 だから、気づかなかった。栗色の髪、青色の瞳の者が、門を潜った所を。




「フンガ、フンガ、ハー。フンダ、フンダ、ハー。フンガ、フンガ、ハー。フンダ、フンダ、ハー」


 暗闇の大聖堂シニーテル。長髪の女は両手を上げ、呪文を唱えていた。


 そして。


「フンガ、フンガ、フンダ、フンダ、ハアッ!!」


 表を向き、唇を醜く歪める。


 女は歩く。大聖堂を真っ直ぐ端まで歩くと、扉を開ける為に両手を上げた。


 バアーン!!!


 扉が開き、女は大聖堂の外へと歩き出した。

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