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きゃーお、異世界。  作者: nekoko
12/17

騒動の、本当の、原因

 アリ地獄のような砂の中から、大神官フアウザが這い出て来た。


「やれやれ」


 と言いながら、アリ地獄をもがく。


 砂が下の方、梨果とキャラメルが倒れている所へ落ちて行く。


 そのことに気づいたレアルは、急いで下級神官に指示した。


「大巫女ヒビーコ様をここへ」


 その後、大巫女ヒビーコと巫女達が現れ、地面がこれ以上崩れないように祈祷が始まった。


 その間に大巫女の私兵が、皆を助けて行く。


 幸いにも、怪我人がいても死者が出なかった。


 救出騒動の中、キャラメルは目を覚ました。


「大丈夫ですか? 目を覚まして」


「うーん……」


 梨果は半分夢の中。


 そんな中、二人がいるアリ地獄の上から、滑り落ちてくる者がいた。


「女神様ああああああ!!」


 勿論、レアルだった。


「そこの者、女神様を、こちらへ!」


 ロープを体に巻き付けたレアルが、もう一本のロープを投げ、キャラメルに向かって叫んだ。


 キャラメルは心の中で舌打ちしたが、そんなこと、おくびにも出さずに投げ飛ばされたロープをつかむ。


 自分の体にロープを巻き付けると、アリ地獄の坂をずんずん登り、両手を広げたレアルに、女神を渡した。


 こうして、梨果は助かってしまった。



「あれ……ここは……?」


 人影が、ぼんやり見える。


「王子様……?」


 そこにいたのは、心配そうに自分を見る人物……。


 細身の少年。


「なんだ、レアルじゃん」


 命の恩人に向かって、なんだもないだろう。


「キャラメル様! キャラメル様は!!」


「誰ですか、キャラメル様って」


 周囲を見渡すと、再び捕らえられた一座、ドンデガエルシの皆さんや、帰ってきた神官、武官達で一杯で、キャラメルの姿はなかった。


「また会えたのに……」


「それより、なぜ地下にいらっしゃたのですか」


 とレアル。


 うっっ、と梨果は言葉に詰まった。


 キャラメルの身が危ないような気がしたのだ。


「えーと、円形劇場の一座の皆さんから逃れようと、地下へ……」


 なるほど、とレアルは納得した。


 梨果にしてはいい言い訳を思いついたようだった。


「ああっっっ!!」


 横にいた大神官フアウザが悲劇的な声を上げる。


「名の無い果物のソテソテーが、無い!!」


「その料理なら、果物と一緒に、私が女神を助けた青年に、下賜しました」


 大巫女ヒビーコがいた。今回は折角の高価な衣装も砂だらけだ。


「そんな!!!」


 フアウザが叫んだ。


(あの青年、それに果物……何か良くない気配がした)


 と、ヒビーコの心の声。この人、案外凄いかもしれない。




 その頃、門番のノンとビリーは目を丸くした。


 いつか見た青年が大きな籠を持って坂道を降りて行く。



 名の無い果物のソテソテーは、排水溝へとっくに廃棄している。


 流石は女神……。


 キャラメルは美しい顔を醜くい心で染めていた。


 激怒した美青年の顔は、それはそれは近づきがたく、ノンとビリーが声をかけることはなかった。




「ところで、この者達、どうしましょうか」


 少し作りの粗末な回廊に、怖い顔をしたおじさんやおばさんが投げ捨てられている。


 女神が起き上がって、彼らに近づく。


「女神様!?」


 レアルが後からついて行った。


「ね、王子様、知らない?」


 ぶすっとした一座の長がフン、と横を向く。


「ねね、教えてー!」


「女神様、危険です! お下がり下さい!」


 女神とレアルが取っ組み合いを始めようとした頃。


 大神官フアウザも回廊にやってくる。


「お前達の犯した罪が大きい。全員、処刑だ! 覚悟しておけ!」


 え? 人殺し? 父に似たこの大神官が!?


「ダメダメダメ! 処刑は駄目ー!!!」


 梨果は叫んだ。


「二度も罪を犯した者を、許すことなどできません」


 フアウザの決意は固そうだ。


 梨果は涙で訴える。


「駄目なのー。殺さないでー。お願いー!!」


「ならば生涯幽閉で」


「きっと理由があるのよ! ね?」


 梨果は一座の皆さんを振り返って見た。


 全員が頷いていた。


「女神のせいで!」


「死んだ方がマシな目にあった!!」


 口々に女神が作った料理を侮辱する皆さん。


「やっぱり死刑だ!!」


 大神官フアウザは叫ぶ。


「そっか……」


 梨果も、納得しかけたその時、怖そうな一座の長が口を開いた。


「我ら一座はシアトロルの数ある円形劇場の中でも歴史あるコンート劇場でお客さんに愛されて数十年。コンート劇場にもお客さんにもご贔屓にして頂いてこれまで活動してきた。それが、市場の暴走事件で女優の到着が遅れ、たまたま控室にいた役者を使ってみたら女神だとか言う」


 早口でまくし立てた。


 一座の長の言葉に、梨果は茫然とした。


「しかも女神冒とくの罪で一座ごと牢屋に……。今頃、シアトロルにはドンデガエルシの居場所はないでしょうな。劇場にもお客さんにも、逃げられ、距離を置かれているでしょう。我らの仕事は人気商売故」


 眉毛と頬の間の鋭い目が、強い光を持って、梨果を見た。


「女神キャーオ様と言えば、美と感動の女神とか。我らは信じませんぞ! 我らこそ、誰よりも『感動』というものを信じ、女神キャーオ様を信仰してきたのだから!」


 梨果は俯いた。市場の騒動を起こしたのは自分。勝手に控室に入ったのも自分。捕らえられたのは『女神』を冒とくした為……。


この人達に、迷惑をかけた。それも『女神』だと嘘をついて。


 一座の人達が、皆自分を見ている。


 その視線に、見覚えがあった。



『あんた、この仕事向いてないんじゃない』



 ごめんなさい……。


 私はニートに戻ります。


 後ろを向いて逃げようとしたら、何かにぶつかった。


 最近多いな、このパターン。


「ならば、見せて頂きましょう、女神が女神らしき所を」


 大巫女ヒビーコが、顔をひきつらせながら微笑んだ。




「嫌あああああああああああああああ、私はニートよおおおおおおおおおお」


 梨果は男達に両腕をつかまれ、踊りの間に連れて行かれるのだった。

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