異世界、だから、寝る。
気ままに書き始めたので、よろしくお願いします。
説明しなくてもいいと思う。
私がどれだけ、仕事ができないか。
どれだけ、ずっと家にいるか。
「だって仕事できないんだもおおおおおおおおんん!!」
祭野梨果は、一人、叫んだ。
梨果は寝るのが大好きだ。
何もしないことも好きだ。
おまけに初めて務めた会社で落ちこぼれ、ダントツに落ちこぼれ、数か月前に退社した。
それからずっと家の中だ。
うじうじ、じとじと……?
いいや、祭野梨果は、実は、あまり落ち込まない。
生来、何より、寝ることが大好きなのだ。
食べることよりも、遊ぶことよりも、寝ることが好き。
だから梨果は、ニートと呼ばれる生活を、悪くないと思っていた。
これから起きることは、梨果にとって晴天の霹靂だった。
梨果は、いつものように昼間からベットの上で寝転んでいた。
この日、いつもと違うことが起こったのは、一見、梨果に関係のないことのように思える。
外を大雨が降っていた。
最近はやりのゲリラ豪雨というやつだ。
短時間で、これまで梨果の住む地域では、観測したことのないくらいの雨が降った。
ぐーすかびー。
……ぐーすか。
避難を促す警報が発令されたが、勿論、眠っていた梨果は知らなかった。
ガリラリラリラ!!!
突然、梨果の家に雷が降り注いだ。
梨果は大きく目を開けた。少し誇張すれば、まるで梨のように、大きな目だ。
ガクン、と体がベットの床板を突き抜けた。
流石の梨果も、目覚めた。
ジェットコースター!?
梨果は、絶叫マシンが苦手なのである。インドア派だからね。
「うきゃあああああああ!」
口を開けたら悲鳴にしかならなかった。
「いやはあああああああああああああ!」
荒れ狂う水に、梨果は吸い込まれた。ベットはばらばらになった。梨果は、自分が恐怖しているのを感じ取った。
つまり、生きているのだ。
生きている方が不思議だ。
「私、泳げないのよおおおおおお!」
梨果は悲しいかな、叫ぶことしかできない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「……ああああああああああああああああああああ」
梨果の体は、何かに突き当たる。
クッションのような柔らかさだった。
「あああああああああ……ぎゃー! きゃー!」
「お!」
梨果は意識を失う……というよりは、また眠りにつこうとしていた。
その時だ。
「ヒビーコ様!!」
誰か、男が、叫んだ。
「これは……もしかして……」
ヒビーコと呼ばれた女は、仰仰しく頷いた。
「ああ、確かに、まさしく」
その日、梨果は知らなかったが、異世界シアトロルは歓喜に沸いた。
貴重な紙が吹雪になって、世界中に舞っていた。にも関わらず、人々は拍手をした。
祭野梨果は、シアトロルきっての特別な賜り物として、異世界に迎え入れられた。